Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

映画『人生はシネマティック!』を観る

昨日のキネ旬シアターは『人生はシネマティック!』でした。

ポスター画像

 

監督:ロネ・シェルフィグ

主演:ジェマ・アータートン、サム・クラフリン、ビル・ナイ

制作:イギリス 2017年公開

監督はデンマーク出身の女性監督です。

 

舞台は1940年のイギリス・ロンドン。第2次世界大戦の真只中。ロンドンにも空襲が始まりました。コピーライターの秘書として働いているカトリン・コールは負傷兵で売れない画家のエリスと正式に結婚はしていませんが事実上の夫婦生活を送っています。ある日、人手不足で代役として書いたコピーが情報省映画局の特別顧問バックリーの目に留まり、戦意高揚のためのプロパガンダ映画の脚本の手伝いを命じられます。

 

制作する映画の内容は「ダンケルクの戦い」で負傷兵を助けた双子姉妹を描く感動秘話です。早速双子姉妹の取材を任されたカトリンですが、実際に双子に会ってみると、聞かされていたような勇敢な話ではありませんでした。しかし、カトリンは仕事を失う訳にはいかず、上手く脚色をして報告し、それをもとにバックリーらとともに脚本の執筆に取り掛かります。実話として描きプロパガンダ映画としての効果を狙えるようストーリーが組み立てられていきます。

 

カトリンはエリスから絵が売れないので、君を養えないからウェールズに帰れと言われます。カトリンは脚本でのわずかな給料でエリスの絵を買いあげ、ロンドンに残ると言い頑張ります。

 

脚本の方は、政府や軍部から色々と横槍が入りますが、その都度カトリンがアイデアを出し、脚本を書き換え何とか映画化に漕ぎつけます。しかし今度は配役の面で注文が付きます。若手の俳優が出征して不在。やむなくわがままなベテラン俳優やアメリカ人の容姿はいいが大根役者などを押し付けられます。それでもなんとかカトリンとバックリーは協力して乗り越えていきます。とくにベテラン俳優のヒリアードはカトリンに刺激され俳優の指導まで引き受けるほどになります。

 

ロケでの撮影も終わりに近づくころ、エリスのロンドンでの個展が最終日を迎えます。カトリンは何としても個展には顔を出したいと、バックリーやスタッフたちに頼み、ロケを抜けだしロンドンに向かいます。バックリーはカトリンが居なくなったときに自分の気持ちに気が付きます。カトリンを愛してしまったということに。

 

ロンドンの自宅に戻ったカトリンはそこでエリスの浮気の現場を目撃してしまいます。追いかけてくるエリスにきっぱりと別れを告げ、ロケ現場に戻ります。

 

予定より早く戻ったカトリンの様子に気が付いたバックリーは事情を聞きだします。そして「金が無いから実家へ帰れなんていうようなクソ野郎とは別れろ」と言います。そしてプロポーズします。驚いたカトリンは「あんまりひどいことを言わないで」と怒って行ってしまいます。

 

ロケが終わり、スタジオ撮影に入り、カトリンは撮影現場で、バックリーは事務所で脚本書きと職場が離れます。バックリーの脚本が上がってきません。周りは間に合わないと騒ぎだします。心配したカトリンは事務所を訪ねます。バックリーが沈んだ顔をしていました。脚本は出来ていたのです。カトリンが読ませて、と言いますが、読めるような代物ではないと、出て行ってしまいます。脚本を読んだカトリンは徹夜でそれらを書き直します。そして最後にこの前のプロポーズに対し、自分も恋していると書置きします。事務所の外に出ると、外は空襲あとで瓦礫の山となっていました。それにも気づかずに脚本を書いていたのです。

 

スタジオに戻ったカトリンにバックリーが会いに来ました。そして手紙を読んだと。2人の心は結ばれました。そしてバックリーが撮影現場に戻ろうとしたときに、大きな撮影機材が倒れてきました。バックリーはその下敷きになり即死でした。

 

映画は完成しました。しかし、カトリンはショックから立ち直れずに映画・脚本の世界から去り、ひとりでアパート暮らしを始めました。そこにベテラン俳優のヒリアードがやってきます。こんど別な映画に出演し、演技指導もすることになった。ついては脚本を書いてくれないかと持ち掛けてきました。カトリンはもうその気はないと断ります。ヒリアードは「自分にこんな役が回ってくるのは若い役者が居ないからだ。でもこれはチャンスだ。チャンスを逃すのは”死に生が支配されているからだ”」といって帰っていきます。

 

後日、カトリンは出来上がった映画を観に行きます。そこでは多くの観客が涙を流し、大喝采を送っていました。その観客たちを見ていたカトリンはもう一度脚本家としてやっていこうと決意します。そして前のスタッフたちと脚本づくりを始めるのでした。

 

この映画は戦時中のプロパガンダ映画製作の苦労話かと思って観ていましたが、全く違い女性の自立と社会進出を描いた映画でした。

 

劇中の映画も普通の姉妹がダンケルクからの避難兵を助けるというストーリーです。映画の主人公も普通のOLがひょんなことから脚本を任せられ、やがて脚本家として自立していく話です。映画館の場面で観客の老婦人が「これは私と同じ普通の女なのよね。私達の映画だわ」とつぶやきます。いかにも女性監督らしい場面です。

 

ヨーロッパにおいても女性に対する差別は激しく、給料も安い。そんな時代の映画です。先日の映画『はじまりの街』も女性の自立という一面がありました。このところこういった映画が多いような気がします。この映画の特徴はその時代背景です。戦時中という、これまでだったら男性が中心となるのが当たり前の特異な時代にあえて女性脚本家を、劇中映画の主人公に女性姉妹を登場させたという意義は何だったのでしょうか。

 

この映画はある意味、見方によってはプロパガンダ映画を美化するという一面もみられます。戦勝国のイギリスだから出来た映画で、日本では作れない映画でしょう。

 

プロパガンダ映画は戦時中各国で制作されました。日本も御多分に漏れず、戦時中の映画はすべて軍の検閲にかかり、不合格になれば上映は出来ません。不合格どころか場合によっては、非国民として投獄されました。書物も音楽もそうでした。時によって芸術は政治に利用されるのです。

 

昨今、共謀罪の成立やら憲法改正の動きで、再び言論・表現の自由が奪われる時代が忍び寄って来ていると思うのは私だけでしょうか。

 


映画『人生はシネマティック!』11.11(土)公開