Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

この人の、この1枚 『あがた森魚/乙女の儚夢』

今日のこの1枚はあがた森魚『乙女の儚夢です。

あがた森魚の「赤色エレジー」を初めて聴いたのは、吉田拓郎がディスクジョッキーを務める深夜放送だったと記憶しています。その時の衝撃は半端じゃありませんでした。1971年頃だったと思います。

この曲は林静一の同名の劇画を歌にしたという事でした。歌詞の内容も驚きでしたが、メロディーも歌謡曲のような曲で、これがフォークなの?という不思議な感覚にとらわれました。

そしてこの曲は大ヒットし、テレビでも取り上げられるようになり、いろいろな歌番組にも出演していました。「夜のヒットスタジオ」にも出演していました。びっくりしましたね。長髪にジーパン、そして下駄ばきがなんともユニークでした。私も真似して下駄を履いていた時期がありました(恥ずかし)。当時のフォーク歌手はマスコミを毛嫌いし、テレビ出演を拒否するミュージシャンが多かったのですが、あがた森魚は積極的にテレビに出演していたように思います。

 

1972年にこの曲を含むアルバム『乙女の儚夢』が発売されました。当時の貧乏高校生の私には手が出ませんでした。大学に入ってからようやくアルバムを入手しました。

大正ロマンを現代風に表現したというアルバムは、「赤色エレジー」を聴いた時より衝撃的でした。もっとも大正ロマンがどういうものなのかというのもよくわかりませんでしたが。あがた森魚の決して上手くない歌ですが、震えるような歌い方と声が妙な哀愁を帯びて、この古臭い、男と女の世界にのめり込んでしまいます。

本人も言っているように、これは大正ロマンとブリティッシュ・トラッドフォークのフェアポート・コンベンションの名作アルバムフルハウスを下敷きにしているようです。アコーディオン、オルガン、バイオリン等の楽器の共通性以外にもメロディーラインにも似たものを感じさせました。

 

ジャケットの絵も林静一の作品で、見開きの変形ジャケットで素晴らしいのです。タイトル文字はあの赤瀬川原平です。

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Side A

1.乙女の儚夢

2.春の調べ

3.薔薇瑠璃学園

4.雨傘

5.女の友情

6.大道芸人

 

Side B

1.曲馬団小屋

2.電気ブラン

3.秋の調べ

4.赤色エレジー

5.君はハートのクイーンだよ

6.冬のサナトリウム

7.清怨夜曲

 

はちみつぱい鈴木慶一、渡辺勝、遠藤賢司友部正人鈴木茂らが参加しています。

 

 

A-1のタイトル曲からノックアウトです。まさに大正時代か昭和の初期なのかは判りませんが、その雰囲気は十分に感じられる詩の内容と哀愁をおびたメロディーです。こんな詩をよく書けたもんだと感心しました。おなかをすかした弟、妹のために万引きする乙女、おまわりさんに許しを請う、父親は逃げた女房が忘れられず酒に溺れ、お姉さんは廓街、錦紗の帯に頬紅つけて働きます。泣けてきます。

A-2は女性による詩の朗読です。

A-3はオルガンで始まる教会音楽のように始まり、やがてバンド演奏になってドラマティックにエンディングを迎えます。

A-4はオリジナル。寂しい弾き語りの曲です。

A-5は昭和初期の作曲家、田村しげるの曲で詞はこれまた昭和の作家、吉屋信子です。松島詩子と山野美和子が昭和の初めごろに歌ったものにあとから歌をかぶせたものと思われます。遠藤賢司が参加しています。まさに大正、昭和です。

A-6は林静一の詩です。大道芸人の口上が聴けます。これは現代風の曲です。

B-1はサーカスの口上が面白い。

B-2は電気ブラン。こんな酒があるのをこの時初めて知りました。浅草の神谷バーで売っていた酒。明治時代にはまだ電気が珍しく、それにブランデーを組み合わせて名付けられたようです。ブランデーベースのカクテルです。この酒の発案者、神谷伝兵衛は浅草の「神谷バー」以外にも茨城県牛久市にあるワイン醸造所、「牛久シャトー」も創設しました。

B-3はバイオリン演奏をバックに女性の詩の朗読です。

B-4は大ヒット曲。これもシングルとLPでは違っていると思います。さらに中津川のフォークジャンボリーでのライブ音源もまた違います。聴き比べると面白いです。ライブは荒っぽいのです。

B-5は友部正人参加の楽しい曲です。

B-6はあがた森魚が北海道から出てきた時の心境か。

B-6はこのアルバムでA-1と並ぶ名曲です。エレクトリックギターははっぴいえんど鈴木茂です。

 

これは当時の日本のロックやフォークのアルバムとしては珍しいトータルコンセプトアルバムでした。これ以後もあがた森魚はトータルアルバムにこだわり続けます。

 

このあとあがた森魚は1974年に『噫無情(レ・ミゼラブル)』を発表します。前作同様のコンセプト的アルバムで、これまた名盤でした。

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参加は松本隆鈴木茂鈴木博文後藤次利、橿渕哲郎、鈴木慶一岡田徹矢野誠、それに名女優の緑魔子たちです。

蒲田行進曲」などが収録されています。

 

1971、72年というと既に関西フォークのプロテストソングは下火になり、吉田拓郎泉谷しげる井上陽水かぐや姫などが人気を集めてきた頃です。そんな時に全く異色のあがた森魚の登場は衝撃的でした。そしてフォーク歌手のテレビ出演というのも画期的で、フォークソングがお茶の間に浸透していくきっかけにもなったのではないでしょうか。

やがてニューミュージックへと向かうニューフォークと呼ばれる音楽の過渡期だったのだと思います。私個人的にはまだまだプロテストソングに取りつかれていた時代でしたが。

あがた森魚はその後も素晴らしいアルバムを作り、また映画製作や演劇にと活躍の場を広げ活動しています。現在69歳、まだまだ頑張ることでしょう。

 そういえば『僕は天使ぢゃないよ』なんていう映画も見ましたね。


あがた森魚 - 乙女の儚夢


모리오 아가타 - 清怨夜曲


あがた森魚 - 星のふる郷

 

それでは今日はこの辺で。