Flying Skynyrdのブログ

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映画『パリ、テキサス』を観る

昨日のキネ旬シアターは『パリ、テキサス』でした。

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監督:ヴィム・ヴェンダース

主演:ハリー・ディーン・スタントンナスターシャ・キンスキー、ディーン・ストックウェル

制作:フランス、西ドイツ、英国、1985年公開

音楽:ライ・クーダー

 

前回の『ベルリン・天使の詩』に引き続きヴィム・ヴェンダースの傑作ロード・ムービーです。1984年のカンヌ映画祭パルム・ドール賞を獲得した作品です。

この映画も既に観ていましたが、今頃になって劇場再公開するというので、せっかくですから出かけました。それに何といってもライ・クーダーのスライド・ギターを大音量で聴きたかったというのが、大きな理由でしょうか。

 

荒涼としたテキサスの砂漠をひたすら歩く男。力尽きガソリンスタンドの中で倒れます。持ち物から身元が判明し、男の弟に連絡が入ります。弟は兄トラヴィスを迎えに行きます。しかし何を聴いても答えません。隙を見せると逃げ出してしまいます。

ラヴィスは4年前、妻ジェーン・と3歳の男の子ハンターを残して疾走しました。その後ジェーンもハンターを弟夫婦に託して行方不明になりました。

 

ラヴィステキサス州のパリに土地を買っていたのです。その土地を目指して放浪の旅に出たのです。そこは自分の両親が出会った場所であり、自分の原点なのだという事のようでした。

弟はようやくトラヴィスを自分の家に連れて帰り、息子ハンターに会わせました。ハンターは最初は戸惑っていましたが、すぐに慣れパパと呼ぶようになりました。

そんな時、弟の妻からハンター宛にジェーンから毎月振り込みがあるのだと打ち明けられました。その銀行はヒューストンにある銀行だということでした。

ラヴィスはハンターを誘ってヒューストンにジェーンを探す旅に出ました。

そして運よくジェーンらしき人物を見つけ後をつけると、彼女は風俗店で働いていました。トラヴィスがのぞき部屋に入って、その女を指名するとまさしくジェーンでした。

ラヴィスはそれを確認すると店を出て、ハンターと共にホテルに泊まりました。そしてテープレコーダーに別れの言葉を吹き込んでホテルを去ってしまいました。

 

そして再びのぞき部屋でジェーンを指名します。向うからはこちらは見えません。従って相手が誰であるかはジェーンにはわかりません。

ラヴィスはある男女の話をし始めました。それはトラヴィスが家庭を捨てた理由でした。途中でジェーンは気が付きました。そして自分も死ぬほど会いたかった、忘れたことなど一度もないと告げます。

ラヴィスは「ハンターがホテルで待っている、これからは2人で暮らしなさい」と告げ、去ってゆきます。

ジェーンはホテルの部屋に行き、ハンターと出会い思いきり抱き締めます。その光景を外から眺めていたトラヴィスは再び放浪の旅に出るのです。

 

なぜトラヴィスは3人で暮らす道を選ばなかったのか。それは彼自身が再び同じ過ちを繰り返すのではないかという恐れから出しょうか。4年前には妻を愛しすぎ、愛と嫉妬がないまぜになり、その結果妻を追い詰め、妻はそれから逃れようとしました。しかし子供が出来て、さらに追い詰められた妻は、家に放火して逃げ出しました。夫は子供を連れて火から逃げました。妻は子供を育てる資格などないことを悟り、預けることにして自分は姿を消しました。夫も妻に対して犯した罪から逃れるために家を出ました。

夫の告白はすさまじい嫉妬の嵐でした。17,8歳の妻と結婚したオジサンは妻が可愛すぎて、いつでもそばにいたくなり、会社も休みがち、そのうち退職。日雇いになり、普段は家にいて、金が無くなると仕事をする。仕事をしている時も妻が浮気をしていないか気が気ではなく、その内仕事も辞めてしまう。わざと遅く帰宅して妻の様子を探る。誰かと一緒だったのでは、と疑心暗鬼の塊。自分の言動で妻の愛の深さ(嫉妬深さ)を試す。さすがにこれでは妻も逃げ出すでしょう。

 

しかし、4年ぶりに会った息子に対し、母親に会わせることが自分の役目だと思った夫は母親と息子の再会を見届け、去りました。自分の家族の幸せをただただ願う、それが本当の愛なのだということに気が付いたから、自分が去ることが一番いいのだという結論に達したのだと思います。4年前は嫉妬=愛だと思っていた。4年の間の放浪の果てに男は悟ったのです。それでも同じ過ちを繰り返さぬ保証はない。そのことも分かっていたのでしょう。人間とは複雑な生き物です。

 

この映画の中の「のぞき部屋」のシーンは圧巻です。マジックミラーのこちら側と向う側。客側からは女が見えます。会話は電話です。但し、女の部屋の明かりを消すと、女の側から客の様子が見えます。つまり二人が同時にお互いの顔を観ることはできません。マジックミラーが男女の間の「深くて暗い川」なのです。女の部屋の明かりを消して、客側から部屋を除いたシーンでは女の顔の中に自分の顔がくっきりと映ります。この描写は見事というほかありません。

 

ラストのトラヴィスがホテルの駐車場から去って行く場面も象徴的でした。画面がホテルの建物で分割され、男女の断絶の深さを象徴しているようでした。画面の遠くの夕焼けの赤は何を意味していたのでしょうか。

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この映画のハイライトはもう一つ。ライ・クーダーの音楽。スライドギター1本でこの映画の悲哀と希望を表現しています。

映画館の大音量で聴くとまた格別です。

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あっという間の2時間半でした。

 


「パリ、テキサス」Paris,Texas(1984西独・仏)


PARIS, TEXAS Trailer (1984) - The Criterion Collection


Paris, Texas [1984] - Final Scene and Ending Credits

 

それでは今日はこの辺で。