『夢は夜ひらく』という歌を初めて聴いたのは、たしか中学生の頃だったと思います。３人娘の一人、園まりが歌っていました。元々は練馬の少年鑑別所で歌われていた俗曲を採譜・補作したもののようです(ウィキペディアより）。作曲は曽根幸明。
園まりの歌は何とも色っぽく、ついつい映画まで観てしまいました。園まりが渡哲也、高橋英樹と共演しました。
作詞：中村泰士／富田清吾
雨が降るから逢えないの
来ないあなたは野暮な人
ぬれてみたいわ 二人なら
夢は夜ひらく
うぶなお前が可愛いと
云ったあなたは憎い人
いっそ散りたい夜の花
夢は夜ひらく
嘘と知りつつ愛したの
あなたひとりが命なの
だからひとりにさせないで
夢は夜ひらく
嘘と誠の恋ならば
誠の恋に生きるのが
切ない女のこころなの
夢は夜ひらく
酔って酔わせたあの夜の
グラスに落ちた水色の
忘れられないあの涙
夢は夜ひらく
恋して愛して泣きました
そんな昔もありました
思い出してはまた涙
夢は夜ひらく
この後、詩を変えた同名曲が次々と出ました。
まず同時期に聴いたのが緑川アコが歌う『夢は夜ひらく』でした。この人の歌は迫力がありました。怨念の歌、という感じでした。この人は「カスバの女」がヒットしましたが、その前にこの曲を歌っていました。
作詞：水島哲
いのち限りの恋をした
たまらないほど好きなのに
たった一言いえなくて
夢は夜ひらく
せっかく咲かせた恋だもん
大事にしましょう いつまでも
雨に嵐に負けないで
夢は夜ひらく
恋にこがれるせみよりも
なかぬほたるが身をこがす
たったひとりのあなたゆえ
夢は夜ひらく
死んでしまえばしあわせに
めぐりあえないこの世なの
生きていりゃこそひとすじに
夢は夜ひらく
泣いてしまった うれしくて
あなたのやさしいお電話に
恋は女のいのちなの
夢は夜ひらく
恋に涙はつきものと
人はつれなくいうけれど
夢でもいいから逢いたいの
夢は夜ひらく
そして１９７０年に藤圭子で大ヒットしました。『圭子の夢は夜ひらく』です。この曲が一番ヒットしたでしょうか。当時の藤圭子にピッタリの歌詞でした。
作詞：石坂まさを
赤く咲くのは けしの花
白く咲くのは 百合の花
どう咲きゃいいのさ この私
夢は夜ひらく
十五 十六 十七と
私の人生 暗かった
過去はどんなに 暗くとも
夢は夜ひらく
昨日マー坊 今日トミー
明日はジョージか ケン坊か
恋ははかなく 過ぎて行き
夢は夜ひらく
夜咲くネオンは 嘘(うそ)の花
夜飛ぶ蝶々も 嘘の花
嘘を肴(さかな)に 酒をくみゃ
夢は夜ひらく
前を見るよな 柄じゃない
うしろ向くよな 柄じゃない
よそ見してたら 泣きを見た
夢は夜ひらく
一から十まで 馬鹿でした
馬鹿にゃ未練は ないけれど
忘れられない 奴ばかり
夢は夜ひらく
夢は夜ひらく
この後も数多くの歌手がこの歌をカバーしています。それも、それぞれ歌詞を変えてです。
それぞれが「～の夢は夜ひらく」です。なんか笑っちゃいます。
なかでも梶芽衣子の『芽衣子の夢は夜ひらく』はしびれます。日活の太田雅子から梶芽衣子へ。青春スターから「野良猫ロック」へ。そして東映の「女囚 さそり」シリーズで人気に。歌は「怨み節」がヒットしました。
作詞：吉田旺
泣くため生まれて きたような
こんな浮世に 未練など
これっぽっちも ないくせに
夢は夜ひらく
長い黒髪 断ち切って
送りつけたい やつがいる
あいつ不幸か しあわせか
夢は夜ひらく
しょせん男は おだて鳥
しょせん女は なみだ貝
抱いて抱かれて つまずいて
夢は夜ひらく
星は流れて どこへ行く
あたし流れて どこへ行く
あてもない身の 鼻うたに
夢は夜ひらく
泣くため生まれて きたような
こんな浮世に 未練など
これっぽっちも ないくせに
夢は夜ひらく
ちあきなおみの歌も忘れられません。絶品です。『ちあきの夢は夜ひらく』です。夫、郷鍈治（宍戸錠の弟）の死と共に芸能活動休止状態。その後も人気はうなぎ上り。１０枚組のＣＤボックスまで発売されています。
作詞：西沢爽
恋の遊びの 夜が明けて
白い車は 消えたけど
消えぬ あなたの おもかげに
夢は夜ひらく
来ないあなたと 知りながら
二つコーヒー とりました
雨の夜更けの 喫茶店
夢は夜ひらく
髪を染めても ただうつろ
爪を染めても ただうつろ
夜の鏡に 涙ぐむ 夢は
夜ひらく
愛を知らない
女より たとえ泣いても
悔んでも ひとを愛した 思い出に
夢は夜ひらく
きっとなれます しあわせに
そんなカードの 占いの
嘘を信じて 待ちましょう
夢は夜ひらく
さらに「状況劇場」のスター、今は亡き根津甚八の『甚八の夢は夜ひらく』もよかった。時代を反映しています。１９７６年でした。唐十郎の状況劇場のテント劇を観に行った懐かしい思い出があります。一昨年６９歳で亡くなりました。
作詞：かぜ耕二
好きな啄木 朔太郎
ボストン・バックの隅にいる
どこで縒(よ)れたか ドヤ暮らし
夢は夜ひらく
帰る昔が あるのなら
飲んで血なんか 吐きやしない
父なし母なし ろくでなし
明日が遠すぎる
飛んでしまった 瞳(め)の色と
日暮れみたいな 微笑みが
少し怖いと 寄りつかぬ
惚れたあの女
相槌打つのに困ったか
闘争くずれの 学生(せいがく)が
小便する間に 消えていた
少し情(つれ)ないぜ
俺の心は 鳳仙花
いくつ弾(はじ)けりゃ 気が済むか
出るは汗かよ 涙かよ
夢はいつひらく
俺を世間が 愛さない
俺にも世間が 愛せない
ひとりぼっちの 流れ星
夢は夜ひらく
これだけ歌詞を変えても歌い継がれ、ヒットするということは歌詞というよりは曲自体がいいのでしょ。確かに覚えやすくて、歌いやすいメロディーです。
さてさて、前置きが長くなってしまいましたが、今日の本題は学生時代に深夜放送で聴いた三上寛の『夢は夜ひらく』です。なぎらけんいちの「悲惨な戦い」と並んで衝撃でした。
作詞：三上寛
七に二をたしゃ九になるが
九になりゃまだまだいい方で
四に四をたしても苦になって
夢は夜ひらく
あしたの天気はわからねえ
ヤクザ映画の看板に
夢は夜ひらく
風呂屋に続く暗い道
40円の栄光は
明日のジョーにもなれないで
夢は夜ひらく
八百屋の裏で泣いていた
子供背負った泥棒よ
キャベツひとつ盗むのに
涙はいらないぜ
四畳半のアパートで
それでも毎日やるものは
ヌード写真に飛び散った
カルピスふくことよ
赤提燈に人生論
やけに悲しくつり合うが
コップひとつの幸せを
なんで飲み終る
生まれ故郷の小泊じゃ
今日もシケだといっている
現金書留きたといい
走る妹よ
本当に行くというのなら
この包丁で母さんを
刺してから行け行くのなら
そんな日もあった
夢は夜ひらく唄っても
ひらく夢あるじゃなし
まして夜などくるじゃなし
夢は夜ひらく
まさに度肝を抜かれました。４畳半のアパートに住んでいた私には身近に感じられました。。
「サルトル、マルクス並べても明日の天気はわからねえ」そうだ‼
「子供背負った泥棒よ、キャベツひとつ盗むのに涙はいらないぜ」異議なし‼
そうだ、ひらく夢なんかありゃしねー、なんて、妙にしっくり来たものでした。暗い青春の１ページでした。
三上寛はその後映画やテレビドラマにも多数出演しました。ライブの風景には驚かされます。
この歌、一時期放送禁止歌だったようです。何がいけなかったのでしょう。わかりません。
それでは今日はこの辺で。
