Flying Skynyrdのブログ

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映画『家へ帰ろう』を観る

今日のキネ旬シアターは『家へ帰ろう』でした。

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監督:パブロ・ソラルス

主演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリー

制作:2017年 スペイン・アルゼンチン、2018年日本公開

 

アルゼンチンからポーランドまでのロードムービーです。

 

アルゼンチンのブエノスアイレスに住む仕立て屋のアブラハムは88歳で明日には老人ホームに入ることになっていました。老人ホームの者たちに孫自慢をするために孫たちに囲まれた記念写真を撮ろうとしていますが、孫たちもあまり楽しそうではありません。孫の一人は嫌だとゴネ、金で解決する始末です。止む無く老人ホームに入るのは、家を売るために子供たちに体よく家を追い出されるためです。

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家政婦が一着のスーツを持ってきて、これをどうするか尋ねます。アブラハムはあることを思いつき、その日の夜のうちに家を出てしまいます。亡くなったユダヤ人の友人の孫娘にマドリード行きの航空券を手配してもらい、旅立ってしまいます。

 

マドリードで入国手続きに手間取って別室に連れていかれた際に、自分はポーランドへ行くと言い、自分がポーランド出身であること、親友のために仕立てたスーツを届けに行くのだと告げます。しかし管理官は帰国の日程も決まっていない人間の入国をなかなか認めませんでしたが、アブラハムはヨーロッパのユダヤ人が戦時中どんな目に遭ったかを話しました。

 

ようやく入国を許可されて部屋を出ると、飛行機で隣の席だった男に強制送還されそうだと助けを求められました。金を持っていない彼にアブラハムは金を貸してあげました。ホテルについてひと眠りすると、すっかり寝過ごしてしまい、パリ行きの列車に乗り遅れてしまいました。がっかりするアブラハムを不愛想なホテルの女主人はバーに呑みに連れて行ってくれました。

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しかしホテルに戻ると、部屋の窓が開いており、泥棒に入られた後でした。アブラハムは有り金全部盗まれてしまいました。女主人はこれからどうするの?と聞きます。アブラハムマドリードに娘がいるが、勘当したので会えないと答えます。勘当の理由は、「家を子供たちに譲るので、自分をどう思っているのか聞かせて欲しい」と子供たちに言ったところ、他の子どもたちは皆いいことを言ってくれたが、その娘だけはそんな空空しいことは言えない、と断った。この娘は自分を蔑ろにしていると思って勘当したとのことでした。

 

女主人はくだらない、その娘は正直だ、他の子どもたちは家欲しさにお世辞を言っただけ、挙句の果てが老人ホームに入れられるだけだと言って、その娘に会いに行きなさいと説得します。アブラハムは飛行機の男に送ってもらい娘の家にやってきましたが、なかなか決心がつきません。やっとの思いで娘を訪ねると、金のためにやってきた父親に落胆したものの、金を貸してくれました。

 

そして女主人と男性に見送られパリに向かいます。

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ようやくパリに到着し、これからポーランドへ向かいますが、ドイツを通らずにポーランドまでいきたいと言います。アブラハムはドイツという言葉そのものを口にしたくないために紙に書いて説明します。それでは飛行機しかないと言われますが、一人のドイツ人の女性イングリッドが話しかけてきました。アブラハムはドイツ人と聞くとかまわないでくれと追い返します。

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乗りこんだ列車で再びイングリッドに出会います。イングリッドは自分が人類学者で自身はドイツの犯した罪を恥じていると言います。そして心を開いたアブラハムポーランドへ行きたい理由を聞きだしていきます。しかし、次第に昔の辛い思い出がよみがえってきます。

アブラハム一家はポーランドのウッチというところで仕立て屋を営んでいました。アブラハムはそこの使用人の子供と同じ年で兄弟のように育った親友がいました。しかし、ポーランドにもナチスが侵攻してくるとユダヤ人の迫害が始まり父親と伯父は銃殺され、大好きな妹も連れていかれ、自分は捕虜収容所へ。

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アブラハムホロコーストで地獄のような日々を送りました。その時に痛めつけられた脚を今でも引きずっています。その脚はすでに壊死が始まっています。戦争も終わるころ、ソ連が攻め込んで来て、そのすきに収容所を逃げ出し、傷だらけになってウッチの自宅だった家に戻ります。しかし、その家は使用人の家になっていました。親友の父親はアブラハムを匿ってはくれませんでした。けれどもその親友が、父親を責め殴り倒して地下室にアブラハムを匿ってくれたのです。そしてアルゼンチンへ渡る手助けをしてくれたのでした。アブラハムはその親友のためにスーツを仕立てるという約束をしたのでした。

 

ドイツの乗換駅でイングリッドと別れた後、アブラハムは列車の中で飛び交うドイツ語を聴いて気分が悪くなり、幻覚を見ながら気を失ってしまいました。気がつくとワルシャワの病院でした。病院では看護師のゴーシャに助けられます。アブラハムはゴーシャに退院したらウッチに連れて行って欲しいと頼みます。二人でウッチに向かい、その家を訪ねます。アブラハムは車椅子姿です。しかし、家には誰もいません。近所も回りますが分かりません。

 

諦めかけて家の周りを回った時に、あの匿われた地下室の階段を見つけます。ゴーシャに見てきて欲しいと頼みます。アブラハムはもう一度家を眺めます。すると窓の奥に人の気配がします。ミシンがあり、眼鏡をかけた老人が座り、ミシンを使い始めます。老人は何かの気配を感じたのか、顔を上げアブラハムと目が合います。親友が家を出て来ます。アブラハムも立ち上がり二人は抱き合います。そして親友は「家へ帰ろう」と言います。

 

ブエノスアイレスからマドリード、パリ、ワルシャワへと移動しますが、その先々で女性に助けられます。亡くなった親友の孫娘、ホテルの女主人、勘当した娘、ドイツの人類学者、ワルシャワの看護師。運がいい爺さんです。頑固で自分を認めてもらいたい一心の老人。自分の死期が近くなって、家も追い出され、最後にやり残してしまったことを思い出し、旅に出るといういかにもありきたりなストーリーですが、これが泣けるのです。年のせいか涙腺が弱くなって涙が出っぱなしです。

 

収容所の虐待シーンなどは出て来ません。戦時中の残酷なシーンなども一切出て来ません。しかし、アブラハムの言葉と表情を通して、戦時中の悲惨さが伝わります。家族に見放された孤独な老人が、脚の切断も考えなければいけないような体を鼓舞して、はるばるアルゼンチンからポーランドまで70年前の約束を果たそうと考えます。会いに行く寸前は、怖くて引き返そうとしますが看護師に励まされて、勇気を振り絞って訪ねます。すると70年前に別れてそれっきりになった親友が待ち続けていてくれてたのです。そしてかけた言葉が「家に帰ろう」です。この親友の優しそうな顔。話はべたですが、泣けないはずがありません。

 

 短い映画でしたが、中身の濃い作品でした。年寄り向けかもしれませんが。

 

 


家(うち)へ帰ろう - 映画予告編

 

 

それでは今日はこの辺で。