Flying Skynyrdのブログ

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映画『鈴木家の嘘』を観る

昨日のキネ旬シアターは『鈴木家の嘘』でした。

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監督:野尻克己

主演:岸部一徳原日出子、木竜 麻生、加瀬 亮

制作:2018年 日本

 

良かれと思ってついた嘘が騒動を巻き起こす、そんなドラマです。

ある日、鈴木家の長男・浩一(加瀬亮)が突然首吊り自殺をします。死体を見た母親の悠子(原日出子)は慌てて包丁を取りに行き、ロープを切ろうとしますが、切れずに自分の手首を切ってしまい(後からわかる)、倒れてしまい気を失ってしまいます。長女の富美が帰宅後それを発見して、警察に連絡しました。悠子はその後昏睡状態に陥ります。誰もが悠子は寝たきりになると思っていました。

 

ところが浩一の四十九日の日に悠子が突然目を覚まします。そして「浩一は?」と聞きます。悠子は浩一の死を忘れてしまっていたのです。富美はとっさに、「お兄ちゃんは引きこもりをやめてアルゼンチンで働いている」と嘘をつきます。

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アルゼンチンは悠子の弟・博(大森南朋)が事業をしていて、浩一は博を手伝っているというのです。悠子はすっかり信用して、退院に向けてリハビリに励みます。医師もしばらくはこのまま嘘をつき続けたほうがいいと言います。

 

ここから、この嘘のつじつまを合わせるために、たくさんのアリバイ作りが始まります。浩一からの手紙や贈り物まで作り上げていきます。贈り物はチェ・ゲバラのTシャツです。富美はせっせと手紙を書き、アルゼンチンにいる博の知り合いに手紙を代筆して出してもらっています。悠子はすっかり信用している様子です。

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浩一は長年引きこもり状態にありました。心配した父親の幸男(岸部一徳)はかつて浩一を精神病院に連れていこうとしましたが、途中で浩一が車から飛び降りてしまい、追いかけた幸男を「俺は病気じゃない」と言って、殴りかかりました。それ以降、幸男は浩一から逃げ出したという思いに捕らわれています。

 

富美も自殺者遺族の会という集まりに参加しますが、自分の思いを整理できずに何も言えないでいました。浩一の遺骨もそのままになっています。自殺者は罪なので墓に入れないと寺から断られてしまったのです。

 

そして悠子が退院して帰ってきます。浩一の部屋を見ても何も思い出しません。そして送られてくる手紙を見て喜んでいます。

 

幸男はもうそろそろ事実を話さなくてはいけないと思い、富美に浩一が生前に生命保険をかけていたことを話します。受取人は富美とソープ嬢のイヴちゃんです。浩一は生前ソープランドでイヴちゃんと知り合ったようです。幸男は浩一の生前の足取り追ってイヴちゃんにたどり着き、何度かソープランドに足を運びますが、店側は合わせてくれませんでした。挙句の果てに、ストーカーだと言われ、警察沙汰になってしまいました。

 

 

そうした中、叔父の博が結婚することになり、それに伴ってアルゼンチンでの事業を撤退することになったというのです。そして手紙を代筆してくれていた知り合いも引き上げてくるというのです。もう手紙は書けません。

 

富美は手紙を書くのを止め、兄に手紙を書きました。そしてそれを自殺者遺族の会で読み上げます。そこには激しく兄を詰る言葉が書いてありました。「お兄ちゃんを許さない」と。引きこもりを辛抱強く待つ母親の愛情を独り占めにして、母親が死体を発見することを予期したうえで、母親に悲しんでもらいたかったんだろうと。止めどもない怒りが込み上げてくるのでした。

 

鈴木家では博の結婚を祝してパーティーを開きました。和やかに進む中、悠子がビデオメッセージを作ろうと提案します。それは1週間後に迎える浩一の誕生日に贈ろうというものでした。全員でハッピーバースデーを歌いますが、富美は耐えきれず、真実を話してしまいます。「お兄ちゃんはアルゼンチンにはいない」と。すると代筆をしていた男が酔っぱらって、「浩一君はこの家にいるんだろ」といって家じゅうを捜し歩きます。そして押し入れやタンスなどを開け始めます。するとタンスの中から隠しておいた遺影と遺骨が出て来ます。

 

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悠子は全てを思い出します。そして自分を責め、浩一の部屋に閉じこもってしまいます。心配した富美は「お母さんのせいじゃないよ」と言って、自分がかつて悠子と浩一の誕生パーティをした時に、浩一が部屋から出て来ないことに怒った富美は部屋に乗りこんで「死ねば」と言ってしまったことを告白します。富美はそれが原因で兄は自殺したと思い込んで罪悪感に陥っていたのでした。富美は全てを話した後、川に身を投げようとします。しかし、それを悠子が必死に止めます。

 

浩一が何故死んだのかが知りたくて、家族はイタコを呼びました。そして浩一の霊を呼び出してもらいました。ところがそのイタコは真っ赤な偽物でした。これでようやく、夫婦に笑いが洩れました。そしてソープランドから電話がありイヴちゃんが会ってもいいということになり、家族3人で会いに行くことになりました。家族は幸男の妹が住む名古屋に引っ越すことにしたのです。そして家を後にします。少しだけ光が見えた様な気がします。

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もし、家族の中に引きこもりがいたら、もし、家族の中に自殺者がいたら。自分はどんな対応をするだろうか、と考えさせられました。おそらく頼りない対応しかできないだろうな、などと思ったりもしました。また父親と母親の対応の違いにはうなずける部分もありました。

 

この映画では残された3人の家族が、それぞれ自殺の原因は自分にあるのでは、と思ってしまいます。父親は自分の理解の外にある息子から逃げ出したという負い目を感じています。妹は引きこもる兄が許せず、「生きてる意味ないじゃん、死ねば」と言ってしまったことに激しい後悔があります。母親は甘やかして育ててしまったという自責の念があります。

 

しかし、客観的に見れば自殺の原因がそんな単純なはずはありません。それでも残された家族は自分の責任を感じ悲しみ、あるいは怒る。映画では浩一の自殺の原因などはわかりません。「引きこもり」という腫物にはさわらずに、それぞれが距離を置いた対応をしていた結果、更なる悲劇を生む。家族は必死にその原因を探ろうとしますが、結局はわかりません。そして重い荷物を背負って生きることになるのです。

 

どこの家庭でも起こりそうな出来事ですがその原因は様々です。その対応の仕方はマニュアルなどでは決められないでしょう。そして自殺を止められなかったことには無力感を感じてしまうでしょう。実に重いテーマの映画でしたが、救いはユーモラスな場面が散りばめられていることです。涙の中にも笑いありでした。無償の愛を注ぐ原日出子の迫真の演技が印象的でした。

 


映画『鈴木家の嘘』予告編

 

 

それでは今日はこの辺で。