Flying Skynyrdのブログ

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イヤミスの極致『ケモノの城』

真梨幸子の『殺人鬼フジコ』以来、イヤミスに嵌っていますが、今回の誉田哲也『ケモノの城』の読後感の悪さは極め付けでした。

ケモノの城 (双葉文庫)

ケモノの城 (双葉文庫)

 

 

この小説は2002年に発覚した「北九州監禁殺人事件」をモデルとし、そこにもう一つのミステリアスな物語を加えたものです。

 

この「北九州監禁殺人事件」については、豊田正義のノンフィクション『消された一家―北九州・連続監禁殺人事件』をかつて読んでいたので、その事件部分は大体わかっていました。 

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

 

 

主犯の松永太と共犯の緒方純子が犯した連続監禁殺害事件です。小説では当然ながら名前は変えてあります。

マインド・コントロールによって人の心を支配し、たとえ家族であっても互いに憎み合い、殺し合いまでさせる、まさにサイコパス人間が確かに存在するということを確認させられた事件でした。サイコパスとは一見、外面は良く、他人には好印象を与えるが人間の心のカケラも持っていない、冷酷非情な人間です。主犯の松永は死刑判決後も反省などさらさらしていない様子です。共犯の緒方純子はある意味被害者です。虐待によって松永の言いなりになって殺人まで犯してしまいました。松永は手を下さず見ていただけでした。

結局、緒形純子の家族を含め7人の人間を殺害したのです。しかし、この事件はあまりの残虐性のため、報道機関が自主規制を行ったため、一般には詳細が明らかになっていませんでしたが、このノンフィクションによって明らかになりました。

 

小説もほ事実に基づいて書かれていますが、肝心の主犯は行方不明という設定です。実際に生き残った二人の女性、一人は殺害された父親の娘で17歳の少女。もう一人は主犯の男の内縁の妻です。この二人の証言で事件の全容が明らかになっていくのですが、その主犯の男に関しては、小説として別のストーリーが設けられています。

 

弱みを握り、虐待を繰り返し、反抗する意思を削いでいく。その虐待の方法は読み進めるのが辛くなるような描写の連続です。爪ハギ、手・足・太腿・尻・乳首・顔そして性器への通電(電気ショック)、ペンチによる肉挟みなど。また生活面も食事制限、トイレの使用制限。大便を漏らしたらそれを食べて始末させる。緒形純子の妹や母親との性交、それを写真撮影し、逃げられないようにするなど。これらはノンフィクションにも書いてありましたので事実なのでしょう。想像しただけでゾッとします。

 

しかし、被害者たちは抵抗しません。主犯の言いなりです。みんな弱みを握られ、誓約書を書かされ、脅されているのです。そしてお互いを憎み合うようにそれぞれに相手が悪口を言っていると囁かれます。通電もそれぞれにやらせます。殺害も死体の解体も主犯が命令するのではなく、そうせざるを得ないように被害者自身に仕向けて行くのです。まさにマインド・コントロールです。このような被害者の心理は「学習性無力感」とか「情動麻痺」と呼ぶそうです。日常のDVなどもそうなのです。

 

小説はこの主犯を追うのですが、とうとう見つからず、もうひとつのストーリーに飲み込まれてゆきます。なんとも歯がゆい結末です。あとは読者の想像にまかされます。

 

虐待場面や死体の解体場面のグロテスクさと結末の消化不良はなんとも言えない読後感の悪さをもたらしてくれました。これも作者の意図だとするとある意味脱帽です。

 

2012年に発覚した「尼崎事件」も似たような構図でした。この事件の主犯・角田美代子は獄中自殺したため、彼女が語る真相は闇に葬られました。 この事件も衝撃的でした。この事件の詳細は以下の書籍で読めます。

家族喰い――尼崎連続変死事件の真相

家族喰い――尼崎連続変死事件の真相

 

 

モンスター 尼崎連続殺人事件の真実 (講談社+α文庫)

モンスター 尼崎連続殺人事件の真実 (講談社+α文庫)

 

 

もう一つ、1971年から72年にかけて起きた連合赤軍によるリンチ殺人事件も、「革命」を標榜し「総括」の名のもとに集団リンチ・粛清を繰り返したのも似たような精神状態に陥ったものでした。いまでもまざまざと思い出します。この事件に関してはここでは語り尽くせませんので、またの機会にしましょう。

 

この『ケモノの城』の作者、誉田哲也の小説は初めてでした。テレビドラマになったストロベリーナイトの作者でもあるようです。

文章はうまいです。グロテスクな小説が得意なのでしょうか。機会があったらもう1冊ぐらい読んでみましょうか。

 

それでは今日はこの辺で。