Flying Skynyrdのブログ

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現代にも通じる  映画『キューポラのある街』

昭和37年公開の日活映画、キューポラのある街です。吉永小百合さんの出世作となった映画です。カンヌ映画祭に出品した際に浦山桐郎監督がフランス・ヌーヴェルバーグのフランソワ・トリュフォー監督と対談した際には、主演の女優が素晴らしいと話したそうです。

同時にこの映画は浦山桐郎監督の監督デビュー作でもあります。寡作な監督でこの後『私が棄てた女』『非行少女』『青春の門を撮り、そして1985年の夢千代日記が遺作となりました。奇しくもデビュー作品と遺作に吉永小百合さんが主演しました。

脚本は師匠の今村昌平監督との共同執筆でした。享年54歳でした。

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監督:浦山桐郎

脚本:今村昌平浦山桐郎

原作:早船ちよ

主演:吉永小百合浜田光夫東野英治郎

 

この映画を最初に観たのは封切時ではなく、もう少し経ってからだったと思います。その後も何回か観ました。

 

舞台は鋳物工場が立ち並ぶ街、川口です。キューポラとは鉄の溶解炉のことですが、その煙突が何本も立っている街です。

 

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ジュン(吉永小百合)は中学3年生。高校進学を希望しています。父親(東野栄治郎)は頑固な鋳物職人で、母と弟2人の5人暮らしで、家は長屋住まいで貧乏です。

ある日、父親の鋳物工場が買収され、父親は解雇されました。その日に母親は出産。父親は飲んだくれて病院には顔も出さず。一家はますます貧乏に。ジュンは楽しみにしていた修学旅行も諦めるほかありませんでした。やっと再就職が決まった父親ですが機械化についていけずまた退職。貧乏は続き、ジュンは進学を諦めました。

しかし、そんな中でも明るく前向きなジュンを学校の先生や工場の若手職人塚本(浜田光夫)たちが助けてくれます。そしてジュンは働きながら定時制高校に通う決心をします。

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この映画は当時17歳の吉永小百合さんの魅力が全面に出て、彼女自身もブルーリボン賞を受賞しました。

そしてもう一方で、当時の貧困問題、人種差別問題、労働運動問題などが織り込まれており、半世紀以上も前の映画ですが現代にも共通する諸問題を提起していました。

 

貧困問題は現在でも大きく取り上げられる大問題です。貧困ゆえに進学も出来ず、そして就職にも大きく影響し、それが再び貧困を招く、いわゆる負の連鎖です。この図式は全く変わっていません。違うところはこの映画の時代背景は、この後高度経済成長が訪れたことです。そして1億総中流社会が生まれたのです。しかし、現在は将来への明るい展望がありません。非正規社員の増大、高齢社会による社会保障問題、年金制度、財政赤字などなど問題山積です。

 

民族問題でいえばジュンと弟には在日朝鮮人の友人がいました。父親は彼らと付き合うことを快く思っていません。ジュンは父親に「差別はだめなのよ」と諭します。そしてこの当時、日本では在日朝鮮人の「北朝鮮帰国運動」というのがありました。在日朝鮮人は日本では差別を受け、暮らしも貧しい。しかし、「地上の楽園」と呼ばれた当時の北朝鮮に帰国すればバラ色の生活が待っていると宣伝されていました。そして日本もそれを後押しし、多くの朝鮮人が帰国しました。これが当時は是とされた風潮でした。この映画もそれを宣伝する映画だと一部で批判を受けました。現在でもヘイトスピーチ問題など、差別は根強く残っています。映画でもジュンの親友が帰国することになり、その別れのシーンは有名です。

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労働組合問題でいえば、父親が解雇になった時に、退職金も出ない。それを組合員の塚本が会社に掛け合ってくれます。しかし、父親は「アカの世話にはならねえ」と突っぱねます。手に職を付け、腕1本で働いてきた職人にとっては、皆でつるんで親方をいじめるなんてとんでもないことだと映ったのでしょう。ましてや労働組合などソ連や中国の共産主義からきている、ようするに「アカ」思想だ。軍国主義によって教育された戦前世代がそう簡単に受け入れられません。昨今、労働組合の組織率も組合員の数も激減していますが、賃金格差は開くばかりです。

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この映画は見方を変えれば、戦前世代と戦後世代の思想の対立を描いた作品です。民族差別と民主化、徒弟制度と労働組合。1960年の安保闘争以来、労働者も学生も民主主義に芽生えました。私が高校生の頃にもジェネレーション・ギャップという言葉が流行りました。若者世代が親世代を批判する、そんな構図はいつの時代にもあったのでしょう。技術革新が異常な速さで進んでいる現代社会では、世代間格差はますます激しさを増すのではないでしょうか。私なども既に時代に取り残されつつあります。それでも、それも是とします。

 

この後この映画の続編が公開されます。1965年公開の『未成年 続・キューポラのある街です。

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それにしてもなんてかわいいのでしょう。

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映画「キューポラのある街」予告編

 

それでは今日はこの辺で。