Flying Skynyrdのブログ

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映画『命みじかし、恋せよ乙女』を観る

昨日のキネ旬シアターは『命みじかし、恋せよ乙女』でした。

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監督:ドーリス・デリエ

主演:ゴロ・オイラー、入月絢、樹木希林

制作:2018年 ドイツ、2019年 日本公開

 

樹木希林さんの遺作ということで観に行きました。

この映画はドーリス・デリエが10年前に監督した、小津安二郎の『東京物語』に着想を得たという映画『HANAMI』の続編だそうですが、そんなことを知らずに観てしまいました。この監督は日本に対しての造詣も深く、これまでに『フクシマ・モナムール』や『HANAMI』など4作品でメガホンを撮っています。

樹木希林さんはこれが最初で最後の外国作品への出演となりました。

 

舞台はドイツ、ミュンヘン。主人公のカールは別れた妻と娘の所に酔っぱらってやってきて、娘の誕生日を台無しにしてしまいます。

カールは両親を亡くしてから酒に溺れ、職も失い、妻と娘は出て行ってしまったのです。

家に帰ったあとも酒を飲み続けると、得体の知れない黒い影が迫ってきます。恐怖におびえながら眠りにつきます。

翌朝、ユウという日本人の女性が訪ねてきます。ユウはカールの父親ルディと親交があり、彼の最後を看取ったということでした。ユウに頼まれてルディの墓参りをし、空き家になっている実家に足を運びました。そこで一晩過ごしますが、再び黒い影が現れ、カールは怯えます。ユウは「あれは悪霊だ」と告げます。そしてユウは黒い影と会話をかわします。それ以降、カールは既に亡くなった両親の幻影を度々目撃するようになります。そして両親と会話も交わします。

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カールは兄姉との仲が悪く、それを両親が嘆いていたことに心を痛めていました。ユウはそれを聞いて「あなたはそのままでいい」といいます。カールは次第にユウに惹かれていきます。ユウのおかげで出直せるかと思った矢先、ユウがいなくなってしまいます。

 

その夜、カールは引きこもりになった甥の幻を見ます。甥が自殺するのではないかと思ったカールは兄の家に行きますが、甥は無事でした。帰り道、酒に酔ったカールは森の中で寝込んでしまいます。病院に運び込まれますが重度の凍傷で、生命維持装置を付けなければならないほどでした。兄姉はもはや生命維持装置を切る決断をしなければいけないと頃まで追い込まれましたが、カールは奇跡的に助かりました。しかし、凍傷により生殖器を失い、またも深く傷つきました。しかし、一方で男性器を失ったことで、男らしくあらねばならないという感情からは解放されました。

 

カールは何とかユウを探し出したいと日本へやってきました。ユウが育ったという茅ケ崎に来ると、ユウの姿を見ました。その後を追うと、茅ケ崎館という旅館にたどり着きました。旅館の女将(樹木希林)は彼を迎え入れました。女将はカールに浴衣を着せますが、カールは女性用の浴衣を選びました。カールはユウの写真を見せ、彼女を知らないかと尋ねますが、女将は首を振りました。

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翌朝、女将はユウがもうこの世にはいないことを告げました。ユウは入水自殺をしたのです。ユウの母親も同じように入水自殺していたのです。俄かには信じられないカールですが、これまでの不思議な体験を考えると、ある面納得もしたのです。

その日、女将とカールは母娘の幻影を見ます。明日は二人の命日です。女将は今年も帰ってきてくれたと嬉しそうです。カールは後を追いますが見失ってしまいます。

 

翌日、祭りの中、カールは再びユウを捜しに海岸へ行きます。探し疲れ寝込んでしまいます。そして目覚めると、ふるいピンクの受話器が落ちていました。受話器のコードは海の中へ続いていました。カールは受話器に話しかけると、海の中からユウが現れました。カールはユウの後に続いて海の中へと入っていきます。ユウはカールを海の中へ沈めようとします。カールは必死に抵抗し、抜け出します。そしてもう少しこの世にいたいと言います。ユウは「人生を楽しんで。また逢える日まで」と言い、海の中へと消えました。

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女将はスノードームを見つめながら『ゴンドラの唄』を口ずさんでいます。

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まるっきり予備知識がないまま観たのですが、想像とは全く違った内容で驚きました。これは幻想、幻影映画、あるいは幽霊映画です。前作の『HANAMI』を観ていませんので、続編と言われてもピンときません。おそらくカール一家とユウとの繋がりみたいなものが描かれていたのかもしれませんが、それはよくわかりません。

 

カールが父親から求められた男性的なものへの反発、そしてその反動なのか母親への異常なほどの執着といった、心理状態を描いた映画です。その心の不安定さがアルコールに向かわせ、家庭崩壊につながります。

しかし、カールは男性器を失ったせいで、求められた男らしさから解放され、女性になることへの抵抗感も薄れていき、本来臨んだ自分になれることで、生きる欲望が生まれたのではないかと思います。といった解釈も成り立ちますが、なにか漫画チックな感じがしてなりません。改めて精神世界の映像化の難しさを感じました。

また、カールとユウがドイツと日本、あるいは男性と女性という対比を象徴しているようにも受け取れました。

 

樹木希林さんが登場するのはラストの15分ぐらいです。身体がしんどそうっだったのは演出ではないと思います。出演時間は短いですが、その存在感はやはり大きいものがあります。

それにしてもポスターにしてもタイトルにしても、まるで樹木希林さんの映画のようで、まさに日本受けを狙った広告宣伝です。タイトルの「命みじかし・・・」は大正時代の『ゴンドラの唄』の歌詞です。黒澤明の『生きる』で志村喬が口ずさんでいた唄です。このタイトルとこの映画の内容がどうも結びつきません。女将と孫のユウがこの歌を口ずさんでいたことから日本のタイトルが付けられたのでしょうが、あまり映画との関連性は見出せませんでした。原題は「桜と悪魔」です。ますますわかりません。

 

それらを差し置いても、この映画の映像美は素晴らしいものがあります。とくにドイツ、ミュンヘン郊外の山や平原の美しさ、昼と夜の対比は目を見張ります。さらに茅ケ崎館の夜のライトアップされた庭園の美しさは何とも言えません。

 

 


【公式】『命みじかし、恋せよ乙女』8.16(金)公開/本予告

 

それでは今日はこの辺で。