Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

松本俊夫監督逝く!

本日、松本俊夫監督逝去の訃報に接しました。85歳でした。

以前、私が高校生の頃に難解な映画に興味を持ち始めた話を書きましたが、その類いの映画について映画好きの従兄に「映画がよくわからないよ」みたいな話をしたところ「これを読んでみるといいよ」と薦めれたのが松本俊夫の『映像の発見』でした。この本はその類いの映画の解説、映画とは何か、みたいなものが分かりやすく書いてあり、すぐさま納得、感銘しました。その後も『表現の世界』『映画の変革』と読み、これらによって映画のなんたるかを学びました(当時の理解として)。

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彼は元々は記録映画や実験映画を専門とした映像作家でした。そういう意味では映画はあくまでも映像で表現するものだという信念があったように思います。映画雑誌では大島渚と論争していたような記憶があります。

初めての長編映画はピーター(池畑慎之介)主演の『薔薇の葬列』でした。ピーターは当時16歳でキャバレーの踊り子をやっていて全くの新人だったらしいですが、この映画にピッタリということでスカウトされたようです。

この映画はギリシャ神話のオイディプス王の話の逆バージョンで母親を殺して父親と寝るという話で、ピーターがゲイボーイの少年を演じます。ドラマとドキュメンタリーが交錯しながら映画は進行します。最後に自分と寝た男が父親で殺したのが母親だと知ってピーターは釘で自分の両目を刺してしまいます。そして目から血を流しながら新宿東口にフラフラと現れます。この場面はドキュメントタッチでインタビューも交えます。映画とは、映像とは、何か頭が混乱してきそうな映画でした。衝撃的でした。

ピーターが女装して新宿の公衆便所の男子トイレで立小便をしているシーンが何とも面白かったことを憶えています。

次の映画は『修羅』です。四谷怪談で有名な鶴屋南北の原作を映画化したものです。

主演は中村賀津雄、唐十郎、三条泰子(いい女です)。当時はすでに珍しいパートカラーでした。これも『薔薇の葬列』と同じく日本ATG(アートシアターギルド)映画で新宿のATGの劇場で観たと思います。まだ高校生だったのでわざわざ東京まで観に行ったのでしょう。不条理の世界を描く凄惨な映画です。興行的には駄目だったと思いますが。

ATGは今はもうありませんが当時は芸術的映画の製作や配給・上映で一時代を築きました。日本では大島渚吉田喜重今村昌平など、海外ではゴダール、レネ、トリフォーなど芸術系監督の作品が多く特に若者には人気がありました。私もATG映画はたくさん観ました。パンフレットもその都度買っていたのですが今は残念ながら残っていません。とっておけばよかったな、と後悔しきりです。

彼はその後も秋吉久美子の初主演となる『16歳の戦争』夢野久作原作の『ドグラマグラ』を製作しました。

 

実験映画もいろいろな会館(映画館ではなく)で上映され、そのたび見に行きましたが理解不能でした。それでも気持ちは高揚していました。面白かったのは来ている人がいつも同じような顔ぶれだったことです。みんな解っていたのかなあ?

松本俊夫先生、楽しい青春時代ありがとうございました。

心よりご冥福をお祈りします。