Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

『ブルーに生まれついて』を観る

今日のキネ旬シアターは『ブルーに生まれついて』です。

監督:ロバート・バドロー

主演:イーサン・ホークカルメン・イジョゴ

カナダ・イギリス合作映画 2015年

 ジャズ・トランぺッターであり、シンガーであるチェット・ベイカー(Chet Baker)の伝記映画です。伝記と言っても、彼がヘロインで捕まって以降、復活するまでの記録です。

私は彼のレコードやCDを数枚持ってはいますが、そこまで詳しい情報を持っているわけではありませんでしたので、彼の絶頂期からの転落の人生について、今回知ることができて楽しめました。

ウェストコーストジャズは白人が多く、当時(1950年代)は黒人が多い東海岸のジャズが主流で、映画にも出てきますがマイルス・デイヴィスからもチェットは馬鹿にされたりします(実際は仲が良かったとも)。

チェットは出所後、自身のドキュメント映画の撮影をした時の相手女優と恋仲になります。が、麻薬の売人に薬の代金を払わないと言いがかりをつけられ、殴られあごの骨を砕かれ、前歯も折られ、トランペットを吹けなくなってしまいます。そしてすべての仕事を失います。恋人のジェーンはそんな彼を献身的に支え、彼は二度と薬には手を出さないと誓い、復帰を目指します。しかし、その道のりは厳しく、痛みでペットはなかなかうまく吹るようになりません。生活の方ははガソリンスタンドのバイトなどをしながらやっと生計を立てているというような状態です。それでも徐々に回復し、ハンバーガーショップでの飛び入り演奏などをしながら、力をつけていきました。そしてかつての親友であるプロモーターに依頼しようやくレコーディング復帰を果たします。そのレコーディングにかつての盟友であるディジー・ガレスピーがあらわれ、チェットは彼にニューヨークのバードランドでの演奏ができるように頼み込みます。ディジーはそれを引き受けます。チェットはジェーンに結婚を申し込み、彼女も了解します。

そしてバードランドでのライブ当日。会場にはディジーの他にマイルスもいました。チェットは緊張し、ヘロインの治療薬メタドンも切れてしまってすっかり落ち着きを失ってしまいます。恋人のジェーンも自身のオーディションのために同行できていませんでした。プロモーターがメタドンを探し当てて控室に戻ってきたときには、チェットの前にはヘロインがありました。プロモーターは「これを使えばジェーンは去るよ」と

言います。チェットは「ヘロインを使えば音の中に入れるんだ」と答えます。プロモーターは「自分のチョイスに任せるよ」と言って部屋を出ます。そして演奏がはじまり、彼は歌を歌い始めます。その時、恋人ジェーンが予定が変更になったからと、会場に駆け付けていました。その歌を聴きながら、ジェーンはチェットがヘロインを使ったことを悟り、もらった結婚指輪をプロモーターに託し会場を去ります。演奏は素晴らしくマイルスもディジーも惜しみなく拍手を送りました。

この恋人は架空の人物のようですが、最高の演奏をするためには、恋人も、家庭も、その後の自分の姿も顧みない、というミュージシャンの本能というのか、私などには到底理解できない世界した。音楽と薬物の密接な関係、本人じゃないとわかりませんね。

彼はこのあとヨーロッパに移り住み、1988年にアムステルダムのホテルから転落死します。58歳でした。

この主人公役のイーサン・ホーク、私にはちょっとチェットのイメージと合わないなという気が最後まで拭えませんでした。評判は良かったようですが。私のチェット・ベイカーに対するイメージが強すぎたせいかもしれません。本物のボーカルはもっとソフトで女性的でした。それはそれとして楽しめました。