Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

映画『白いカラス』を観る

昨日の自宅シアターは『白いカラス』でした。

監督:ロバート・ベントン

主演:アンソニー・ホプキンスニコール・キッドマン

2004年公開(日本)アメリカ・ドイツ・フランス制作

 

この映画はアメリカの作家ネイサン・ザッカ―マンの回想という形をとっています。現在と過去が何度も入り混じって進行します。

1998年、アメリカ・マサチューセッツ州の大学教授のコールマン・シルク(アンソニー・ホプキンス)は、やり手で合理化を推し進め、大学を一流に押し上げた実績で、全米でユダヤ人初の古典文学の学部長になっています。

ある日、講義に欠席が続く二人の学生に対し「スプーク(幽霊)」だと発言したことが、問題となりました。「スプーク」には二義的に黒人を侮蔑する意味があるのです。教授会でも揉め、彼は辞職に追い込まれます。それを知った妻は心臓麻痺で急死してしまいます。失意のどん底に落ちたコールマンは人里離れた村で隠遁生活を始めます。

ある日、同じく隠遁生活をするネイサンのところにコールマンが訪ねてきます。コールマンはネイサンがスランプで書けないのでは?と訊ね、私の身の上を書くように勧めます。ネイサンは断りますが、会話を交わすうちに友情が生まれます。ネイサンも癌を患い二度の離婚を経験し、隠遁生活を送っていたのです。

コールマンは偶然出会ったフォーニア(ニコール・キッドマン)と急速に惹かれ合います。フォーニアは自分の子供ほどの年齢で、大学の掃除婦、牧場の仕事、郵便局のバイトをこなし、そして山奥での一人住まいと正体不明の女です。

ある日、コールマンが彼女の家にいるときに、彼女の元の夫だという男レスターが現れます。彼女はレスターにDVを受け逃げていたのです。レスターは彼女を連れ戻しに来たのです。警察に連絡し、事なきを得ますが、レスターは彼女が他の男と寝ているときに火事になって二人の子供を死なせたと主張しています。理由は異なっていますが、二人の子供を火事で死なせたという事実は彼女を苦しめます。元々彼女の家は裕福でしたが、幼少の頃父親が亡くなり、母親は再婚しますが、その再婚相手に犯されます。母親に話しても信用されず、いたたまれなくなって14才で家出します。ベトナム戦争帰りの狂暴なレスターと知り合い結婚しますがDVの連続。このような彼女の境遇を聴き、ますますコールマンは彼女にのめり込むのです。

二人の仲は街中でも噂になり、ネイサンは身の危険があるから別れろとコールマンに進言しますが、コールマンはこれが最後の恋なんだと、耳をかさず怒って去ってしまいます。

コールマンには妻にも言えない秘密がありました。コールマンは実は肌が白く生まれた黒人だったのです。それを隠して、海軍にも入り、大学にも進みました。

大学時代、図書館で知り合った女子学生と恋に落ち、結婚の約束をし、彼女を実家に連れて行きました。彼女は母親が黒人なのを見て驚き、やっぱり自分には無理、と彼の元を去りました。彼はショックを受け、今後二度と黒人であることを話すことはしないと誓います。

そして、その後知り合った結婚相手にも両親は死んだことにし、兄弟もいないということにしました。母親は悲しみました。「あなたはまるで囚人みたいよ。雪のように白い顔をしているのに奴隷みたいよ」と言われます。せめて孫の顔だけでも遠くからでも見せてほしいと頼むのが精一杯でした。コールマンは家族との縁を切る決心をしました。

フォーニアはコールマンとのちょっとした言い争いで、家を飛び出し、馴染みの野鳥センターに行きます。そこでかわいがっていたカラスのプリンスがいないことに気づきます。センターの職員がプリンスは外へ放してやったが、襲われた際にプリンスは鳴けないので助けを求められずに、死んでしまったことを聞かされます。人は誰にも人に言えない傷を持っているものだと思い、フォーニアは帰って、コールマンに謝ります。コールマンは謝る必要は無いと諭し、誰にも話さなかった自分の出自を打ち明けます。

雪道を車が走ります。コールマンがフォーニアを抱きかかえるようにして運転しています。正面からレスターの乗った車が来ます。衝突寸前、コールマンはハンドルを切って、がけ下に転落します。二人は即死でした。ブレーキ痕が無かったことから、おそらく自殺だったのでしょう。実は、この雪道を走るシーンでこの映画は始まります。

コールマンの葬儀の時、コールマンが採用した初めての黒人教師が、彼の辞職の時に味方になれなかった罪を告白します。

ネイサンは墓地でコールマンの妹に出会います。そして妹から兄は黒人だったことを聞かされます。他の兄弟は縁を切ったが、妹だけは繋がっていました。妹はコールマンが大学で糾弾されたことを聞き、「人はどんどん独善的になり、馬鹿になっていく。黒人であることを話せば、差別発言ではないことは分かるはず。」と言います。

ネイサンは二人が亡くなった場所を訪れます。そこではレスターが穴釣りをしていました。ネイサンはレスターに子供がいたら何がしたいか尋ねます。レスターは一緒に釣りがしたいと答えます。

ネイサンはコールマンの人生を書く決心をし、筆を執ります。

 

家族を捨ててでも生涯守り切りたい秘密。人によっては人生の大事件と思われる事柄でも、別な人にとっては些細な出来事。コールマンが守りたかった秘密の重さは、黒人ではない我々には計り知れません。またコールマンにとって、失業は大事件ではありますが、フォーニアにとっては些細な事。フォーニアの傷の深さも、経験しない限り計り知れません。コールマンが最後の恋としてフォーニアを愛したのは、その悩み、傷の深さを理解できたこと、またフォーニアもまたしかり。

人種差別問題を扱った社会派ドラマのようですが、実は心に深い傷を負った人たちの物語なのでした。その傷の痛みを理解し合えた極上の恋愛映画なのではなかったのでしょうか。

邦題の『白いカラス』はどうなんでしょう?『白い顔』と『鳴けないカラス』で『白いカラス』でしょうか。原題は『The Human Stain』でした。

アンソニー・ホプキンスの迫力ある演技、ニコール・キッドマンの計り知れない美しさ、見事でした。

 

それでは今日はこの辺で。