Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

映画 『汚れたミルク~あるセールスマンの告発』を観る

退院して初めてキネマ旬報シアターに出向きました。本当に久しぶりです。

年間パスポート制度は廃止になってしまいましたので、友の会に入会しました。5本観ると1本無料になるという仕組みです。年会費は2千円です。得なのか損なのか微妙ですが数多く見るという前提で入会しました。

 

ということで本日の映画は『汚れたミルク~あるセールスマンの告発』です。

 

監督:ダニス・タノヴィッチ

主演:イムラン・ハシュミ、ギータンジャリ

制作:インド・フランス・イギリス 2014年公開 日本公開は2017年

 

この映画は1997年に発覚した、巨大食品・飲料メーカー「ネスレ」が引き起こした粉ミルクによりる乳幼児死亡事件に対し、一セールスマンが巨大企業を告発するという事実に基づいた映画です。

 

映画はこのセールスマンの告発を映画化するかどうかの検討をする場面から始まります。実際にセールスマンのアヤンに対し様々な質問が投げかけられます。そしてアヤンの回想が始まります。

パキスタンの国内製薬会社のセールスマン、アヤンは有能な営業マンですが、近年、多国籍企業の製薬会社の進出により国内の薬品はさっぱり売れなくなってしまっていました。病院も薬局も外資系の大手製薬会社の品質の評判の良さに引きずられ、国内の製薬会社には見向きもしなくなってしまったのです。アヤンの業績もさっぱり上がりません。父親も職を失い両親と弟たち、それに婚約者がいて結婚する予定なのに家計は苦しくなるばかりです。

ある日婚約者のザイナブがネスレ(映画では仮名を使おうということでラスタ社となっている。登場人物もすべて仮名としています)の求人広告を持ってきて、チャレンジしてみたらと言います。アヤンはラスタ社は大卒しか採らないと断ります。アヤンは家計を助けるために大学を中退していたのです。それでもザイナブの熱心な勧めで受験することにしました。試験当日、監督官の質問にあやふやな答えをして不合格にされそうになりましたが、自分のこれまでの実績を述べ、自分を採らないと大損をすると豪語し、それが逆に気に入られ合格できたのです。

入社すると、人気のある医者に対し、賄賂を与え、商品(乳児用粉ミルク)を売り込むよう指示され、もともと顔が広いうえに、賄賂の金まで支給されるので業績は確実に上がっていきました。

やがて子供も生まれ順調な生活をしていましたが、営業活動中に懇意になった医者のファイズ貧困層の乳児が次々に死んでゆく実情を知らされます。そしてその現場を見せられます。やせ細った乳児。貧困層はきれいな水を手に入れることが出来ず、汚れた水でミルクを溶かしているため、下痢をして脱水状態になり、さらに粉ミルクを頻繁に買うことが出来ない理由から、多めの水で溶かしているため栄養が不足し、死んでゆくのです。

その実態を目の当たりにしたアヤンはショックで会社を辞めてしまいます。そして会社に対し、粉ミルクの販売を止めるように訴えます。しかし逆に上司のビラルから服務規律違反だと警告をうけ、監視される破目に陥ります。それでもアヤンはめげずにWHOに訴えます。WHOから質問を受けた医者たちは怒ってアヤンに対して出入り禁止措置を取り、アヤンは町で孤立します。

やがて協力的だった医師のファイズの家族にまで危険が及ぶようになり、アヤンは人権擁護団体に相談します。アヤンはそこで働くマギーという女性にラスタ社の実態をさらけ出します。賄賂の実態まで明らかにします。ラスタ社程の会社ですから当然国との癒着もあり、アヤンは軍の大佐に呼び出され、訴えを取り下げなければ拘束すると言われ遂に留置されてしまいます。

釈放されて家に戻ると、ファイズとマギーとザイナブがテレビのドキュメンタリーを見ていました。そしてマギーがドイツのテレビ局がこの実態を放映できるかもしれないと告げます。アヤンは家族に危険が迫っていると言って申し出を断ろうとします。しかし、妻のザイナブは「真実に背を向ける夫を尊敬することはできない」と言い放します。アヤンはドイツ行きを決断します。

ドイツで撮影が進んでいく中で、ラスタ社とテレビ局の対談の中でラスタ社の責任者はパキスタン政府の環境整備の悪さまで責任を負う必要は無い、従って我が社にはこの問題の責任はないと言って席を立ってしまいます。テレビ局ではいい場面が撮れたと上機嫌です。

しかし、最終段階になって、待ったが入ります。役員室に呼ばれた監督とアヤンとマギーはあるテープを聞かされます。それはアヤンが軍に拘束されたときに、アヤンがラスタ社と示談交渉をした時のテープでした。その中でアヤンは金額の提示もされていたのです。そして彼は了承してしまったのです。アヤンがドイツ行きを渋ったのはこれが原因だったのです。ただし、彼は金は受け取ってはいませんでした。

それでも結局テレビ放映はされず、アヤンは故郷にも帰れず、カナダに移住せざるを得ませんでした。

そしてこの映画の制作をするかどうかについて、マギーと監督(この映画の)と弁護士が協議する場面へと戻ります。アヤンは全て話したから、あとは好きにしてくれと言って監督の判断に委ねます。

ということで、「ネスレ」という社名と登場人物名を仮名にしてこの映画が制作されたということです。

 

この映画は単なる告発ものとはちょっと違っています。以前観た『スノーデン』は完全なる告発ものでしたが、この映画は告発する人間の正義感の強さと大切なものを奪われそうになる時の人間の弱さを描いているのだろうと想像します。あのやせ細った乳児の姿(実際の映像)や貧民街で粉ミルクを汚れた水で溶かす母親の姿を見た時のアヤンの正義感は本物だったでしょう。一方友人家族や自分の家族に危機が迫った時に、やはりそれは守らなければならない、この葛藤にアヤンは悩んだのでしょう。金で妥協したほうがいいのではないだろうかという、一瞬の迷い。当たり前の迷いだと思います。

また一方で、世界の大企業が一個人の告発を暴力まがいで抹殺しようとする現実には改めて驚きます。それと商品を使用するときの説明責任は企業にはないのでしょうか。発展途上国だからといってなんでもいいから売ってしまえというのはあまりにも無謀です。商品に瑕疵はないし、インフラの整備は国の責任であって、企業はそこまで責任を負う必要は無いというのは一見正論に聞こえますが、企業の社会的責任が謳われて長い年月が経ちます。しかも世界に名だたる大企業がこのようなことをするとは、驚くほかありません。ネスレはこの映画に対し、全く事実と違うと自身のホームページで反論しています。

https://www.nestle.co.jp/aboutus/ask-nestle/answers#nutrition_08

 

アヤン、本名サイヤド・アーミル・ラザ・フセイン氏はパキスタン当局からも目を付けられ2000年にカナダのトロントに移住し、タクシーの運転手をして暮らしています。2007年にようやく妻子を呼び寄せることが出来ました。その間両親を相次いで亡くし、死に目にも会えませんでした。

 

監督のダニス・タノヴィッチは旧ユーゴスラヴィア、現在のボスニア・ヘルツェゴビナ出身でボスニア戦争を描いた初監督作品『ノー・マンズ・ランド』でアカデミー賞外国語映画賞カンヌ映画祭脚本賞などを取った監督です。

これほどの監督が制作した映画が上映までに3年も要したという理由は何だったのでしょうか。

 


汚れたミルク あるセールスマンの告発 PV

 

話は変わりますが、やっぱり映画館はいいですね。

 

それでは今日はこの辺で。