1966年、ジェファーソン・エアプレインの初代ドラマーだったスキップ・スペンス(Skip Spence,vo,g)がドラム担当であることに不満でバンドを脱退し、放浪しているときにジェファーソンのマネージャーだったマシュー・カッツに新バンドの結成を促され、スキップは知り合いのジェリー・ミラー(Jerry Miller,g,vo)、ドン・スティーヴンソン(Don Stevenson,ds,vo)、ピート・ルイス(Pete Lewis,vo,g)、ボブ・モズレー(Bob Mosley,vo,b)に声をかけ、モビー・グレイプが結成されます。
全員がヴォーカルをとり、曲も作れ、当時は珍しいトリプルギターというメンバー構成でした。
この珍しいバンドに早速コロムビアレコードが飛びつき契約を交わします。そして1967年にファーストアルバム『Moby Grape』が発表されます。
今でもサイケデリックロックの最高峰と評価されているアルバムです。今聴くとさすがに古臭さは否めませんが、それでも当時としての斬新さはひしひしと伝わってきます。
ジェリー・ミラーとドン・スティーヴンソンの曲から始まって、ボブ・モズレー、ピート・ルイス、スキップ・スペンスの曲と次々と曲調も変わり、ヴォーカルも変わるという、次はどんなのが出てくるのかという期待が膨らみます。「8.05」などの小曲も実にそれまでと打って変わってメロディアスでドキッとします。
さらに同年「モンタレー・ポップ・フェスティバル」への出演で決定的な人気を獲得しました。
続いて1968年にセカンドアルバム『WOW』を発表します。発売当初は『Grape Jam』が付属する2枚組として発売されたようですが、後にバラバラに発売されるようになりました。
『WOW』の方は、ファーストのサイケデリックはやや後退し、カントリー、ブルース、R&Bなどアメリカのルーツミュージックに根差したアルバムづくりを目指そうという姿勢は感じられたものの、スタジオエフェクトが多く、日本の『帰ってきたヨッパライ』並みの曲まで飛び出します。おまけに78回転じゃないと聴けない曲まであり、私などはCDが発売されるまでその曲は聴けませんでした。それでも「Three-Four」などの名曲もあり、「Miller's Blues」のジェリー・ミラーの素晴らしいブルースギターも聴くことが出来ます。
『Grape Jam』の方は、アル・クーパーとマイケル・ブルームフィールドがゲスト参加した、ブルースセッションアルバムになっています。アル・クーパーとマイケル・ブルームフィールドはこの後の歴史的名作『スーパーセッション』のヒントになったと述懐しています。
この後、スキップ・スペンスが麻薬取締法で起訴、病院に収容されてしまいます。
残った4人は契約上の義務であるところの3枚目のアルバムを制作しました。そして1969年『Moby Grape'69』を発表します。
リーダー役のスキップ・スペンスを欠いたモビー・グレイプはジャケットからもわかるように、落ち行く夕陽を眺めるような虚脱感を感じさせますが、アルバムの内容も同じように、ゆるいフォーク調の曲が目立ちます。
この後、ボブ・モズレーが脱退します。それでも契約上の最後のアルバム制作に取り掛かります。プロデューサーにボブ・ディランなどで有名なあのボブ・ジョンストンを迎え、同じ年に4枚目として『Truly Fine Citizen』を発表します。
ベースにはセッションマンのボブ・ムーアを迎えたこのアルバムは、ほとんど知られずに終わり、この後解散します。
バンドとしての生命は短かったですが、多くのミュージシャンに与えた影響は大きかったようです。レッド・ツェッペリンのロバート・プラントやドゥービー・ブラザースのパトリック・シモンズ、日本でもはっぴいえんどのメンバーたちが口を揃えて、あの時代のサンフランシスコ・バンドの最高峰の一つだと語っています。
1976年にボブ・モズレーとジェリー・ミラーが組んで『ファイン・ワイン』なるバンドを結成します。メンバーにマイケル・ビーン(Michael Been,vo,g)とジョン・クラヴィオット(John Craviotto,ds)を迎え、アルバム『Fine Wine』をリリースします。
モビー・グレープ時代の名曲「8.05」なども入っていて、私は大いに気に入り、この後にも期待したのでしたが、やはりこれっきりでした。残念です。
今回、モビー・グレイプのCDを紹介しようとしてAmazonを検索してみましたが、恐ろしく高価な中古値段が付いていて驚きました。『Fine Wine』などはCD化もされていませんでした。どういう訳でしょう。まあ、『Fine Wine』などを聴く人はいないだろうというレコード会社の判断ですね。
モビー・グレイプに関してはベストアルバム『VIntage』がいいと思います。2枚組で未発表音源も結構収録されています。78回転の曲も聴けます。ただし、不思議なことに名曲「Three-Four」が入っていません。これは謎です。名曲だと思っているのは私だけということでしょうか。
それでは今日はこの辺で。