昨日のキネ旬シアターは先週に引き続き【華麗なるフランス映画特集】です。またまた2本観てしまいました。
まず1本目は『エヴァの匂い』です。
監督:ジョセフ・ロージー
原作:ジェームズ・ハドリー・チェイス
音楽:ミシェル・ルグラン
制作:1962年 フランス
監督のジョセフ・ロージーはアメリカ生まれでヨーロッパで活躍した映画監督です。赤狩りでアメリカ合衆国を追われイギリスに亡命、それ以降イギリスやフランスで映画を撮り続けました。
1971年の『恋』でカンヌ国際映画祭でパルムドール賞、1967年の『できごと』でカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞しました。その他に『召使』『唇からナイフ』『夕なぎ』『パリの灯は遠く』『暗殺者のメロディー』などの作品を残しました。
主演のジャンヌ・モローは昨年89歳で亡くなりました。訃報記事を書いていますので参考までに。
アンニュイな雰囲気の役をやらせたら天下一品です。この映画の悪女役もはまり役です。
原作者のジェームス・ハドリー・チェイスは『ミス・ブランデッシの蘭』『蘭の肉体』『悪女イブ』などでおなじみのイギリスのハードボイルドやスパイ小説家。
音楽は『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人』『華麗なる賭け』などでおなじみのミシェル・ルグランです。ルグランについても色々なところで書いていますので省略します。この映画でも全編に流れるルグラン・ジャズが素晴らしい。
主人公のエヴァはレコード好きで、すぐにレコードをかけます。流れてくるのはビリー・ホリデイ。これがまたいい。さらに途中で流れるブルースナンバーも映画のぴったりです。
映画の内容は金にしか興味が無い高級娼婦エヴァに翻弄され、もてあそばれる新進小説家のタイヴィアンの悲劇の物語。
ある大雨の日、エヴァとその客がタイヴィアンの別荘で雨宿りをします。それ以来彼女の姿が脳裏から離れません。フランチェスカという恋人がいるにもかかわらずです。そしてとうとうエヴァと関係を結びます。それ以来、タイヴィアンはエヴァの肉体の虜になってしまいます。しかし、エヴァの態度はそっけない。エヴァの目的は金だけです。「恋愛感情は持たないでちょうだい」と釘を刺されます。
タイヴィアンはフランチェスカとの結婚を決断します。すると、エヴァから電話があり「今すぐヴェニスにいきましょう」と言われます。タイヴィアンは全てを捨て飛んでいきます。酒と肉欲の時間、それも長くは続きません。タイヴィアンは小説は自分で書いたものではない、兄貴が書いたものだと打ち明けます。するとエヴァの態度が変わり、「あなたからはお金はもらえない、近寄らないで」と冷たくされます。タイヴィアンは怒り、金を叩きつけ、再びフランチェスカの元に戻り、結婚式を挙げます。
すると再びエヴァからの電話。結婚式を見ていたのです。そして「あなたの金は汚らわしい、送り返した」と言われてしまいます。それでもエヴァを諦めきれないタイヴィアンはエヴァを捜し歩きます。そして他の客といるところを見つけ、別荘に連れていきます。しかしエヴァは指1本触れさせませんでした。そこにフランチェスカが帰ってきます。フランチェスカは2人を見て絶望して自殺してしまいます。
もうすべてを失ったティヴィアン。それでもエヴァの面影を探し求めます。仕事もせずに浮浪者同然です。2年が経っても諦めきれないタイヴィアンはある日、エヴァの住居に忍び込み、寝込みを襲い首を絞めますが、思い止まり、今度は「お前がいないと駄目なんだ」といって無理やり関係を結ぼうとします。気がついたエヴァは鞭でタイヴィアンを叩き、追い出します。エヴァには「みじめな男」と言われてしまいます。それでもタイヴィアンはエヴァの心変わりをして自分のところに帰ってくるのを今日も待っているのです。
女々しい男と、太々しい女の情けなくも悲しい物語です。
Eva (1962) Bande Annonce originale US [HD]
2本目は『太陽はひとりぼっち』です。
音楽:ジョバンニ・フスコ
主題歌:ミーナ
制作:1962年 イタリア、フランス
監督のミケランジェロ・アントニオーニはイタリアの監督。1955年の『女ともだち』でヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞し一躍脚光を浴びます。1957年には『さすらい』でロカルノ国際映画祭の金豹賞を受賞しました。
1960年の『情事』ではカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。1961年には『夜』でベルリン国際映画祭で金熊賞、1962年には今日の映画『太陽はひとりぼっち』で審査員特別賞を受賞します。この3作品は以後、『愛の不毛3部作』と呼ばれるようになりました。
1964年には初めてのカラー作品『赤い砂漠』でベネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞。1966年には初の英語作品『欲望』でカンヌ国際映画祭のパルム・ドール賞を受賞し、世界三大国際映画祭の最高賞を獲得した2人目の監督となりました。ちなみに一人目はフィルム・ノワールで有名なアンリ=ジョルジュ・クルーゾーです。『情婦マノン』『恐怖の報酬』『悪魔のような女』などがあります。
その後は学生運動やヒッピー文化を扱った初のアメリカ映画『砂丘』、さらにジャック・ニコルソンを起用した『さすらいの二人』を撮りました。
1985年に脳卒中を患い、半身麻痺と言語障害になりますが、1995年にヴィム・ヴェンダースとの共同監督で『愛のめぐりあい』で監督復帰します。2007年死去。
私は高校生の時に観た『欲望』ですっかりアントニオーニ作品のとりこになり、それから後追いですがずっと観てきました。高校生には『愛の不毛』などと言われてもピンときませんが、『欲望』の不条理の世界には惹かれてしまいました。アントニオーニは一貫して男女間の愛の不毛や不条理感を描いた監督でした。
というわけで、『愛の不毛3部作』のラストを飾る『太陽がひとりぼっち』も久しぶりのご対面となりました。ちなみにこの後の『赤い砂漠』を入れて『愛の不毛4部作』と呼ぶこともあります。
主演のアラン・ドロンは先週の『太陽がいっぱい』で人気俳優になり、その後、ルキノ・ヴィスコンティの『若者のすべて』、そして再びルネ・クレマンの『生きる歓び』に出演と人気スター街道まっしぐらでした。
この『太陽はひとりぼっち』の後は、『地下室のメロディ』『冒険者たち』『サムライ』『さらば友よ』『太陽は知っている』『ジェフ』『シシリアン』『ボルサリーノ』『仁義』など犯罪アクション映画に多数主演します。1971年には三船敏郎とチャールズ・ブロンソンとの共演で『レッドサン』にも出演します。またヴィスコンティの『山猫』にも出演し評判を呼びました。
若い頃のアラン・ドロンはとにかくカッコよかった。もう一人の人気俳優、ジャン・ポール・ベルモンドと人気を二分しており、両者が共演した『ボルサリーノ』は話題になりました。昨年正式に引退を表明しました。
主演女優のモニカ・ヴィッティはアントニオーニ作品には欠かすことの出来ない女優です。アントニオーニ映画『さすらい』でデビューし、以後『情事』『夜』『太陽はひとりぼっち』『赤い砂漠』に出演します。
その他には先ほどのジョセフ・ロージーの『唇からナイフ』、ルイス・ブニュエルの『自由の幻想』などに出演しています。
彼女もジャンヌ・モロー同様、アンニュイ感たっぷりの演技はピカイチです。
1960年を通してアントニオーニとは事実婚のような関係でしたが、正式には結婚はしませんでした。モニカの方が断っていたようです。モニカは1995年に正式に別な男性と結婚しました。
主題歌を歌ったミーナは日本でも有名なイタリアの歌手です。日本語で歌った『別離』など1960年代には結構名前も売れていました。まだ存命でした。78歳。
映画の内容は、婚約者と深い訳もなく別れてしまったヴィットリア。自分でも理由は判りません。相手にも判ってもらえません。母に相談したくても母親は株取引に夢中で聞いてくれません。友人たちと遊んでも、飛行機に乗っても、楽しいのはその場だけ。気は晴れません。そんな時証券取引所で顔を合わせていた証券会社のピエロと話すようになり、街を歩き、公園で話をし、親しくなり、そしてピエロのオフィスで結ばれます。そして「明日も会おう、明後日も、その次も、その次も」と言って別れます。今度こそ確かな愛を、と思うのですが・・・。ヴィットリアの表情は不安でいっぱいでした。
ラストの10分は一見何の脈絡もない風景が延々と映し出されます。人が通らない廃墟のような住宅街。水が漏れ出すドラム缶。蟻の行列。地割れのしたアスファルト。道路を走る馬車。工事中のマンション。不安げな人々の表情。街灯が灯り出す夕暮れの街並み。仕事を終え、廃墟のような住居へ帰る人々。バスから降りる客が読んでいる新聞の見出しには『進む核開発競争、見せかけの平和』の文字が踊ります。
冒頭のシーンで映し出された建物は「きのこ雲」のイメージでしょうか。
途中、米ソの冷戦で株の大暴落が起こります。すべてを無くし呆然とする母親や投資家たち。そしてピエロも破産の不安におびえます。
明日をも知れない社会で愛し合って何の意味がある?
ヴィットリアの不安の根源、いや民衆の不安の根源は何だ!
「愛の不毛」とは何ぞや!
ちなみに原題の「L'eclisse」は「蝕」、つまり「日蝕」。太陽が喰われてゆく、ですか。
また、ヴィットリアとピエロを捉えた有名なシーン。こういう構図はアントニーニの得意とするところです。
証券取引所でのシーン。断絶する二人。
ガラス越しのキスシーン。ここでも二人は遮断されている。
L'Eclisse Trailer - Digitally Restored - In Cinemas Aug 28
"L'eclisse twist" - "L'eclisse" soundtrack - Mina - 1962 - a tribute
ミーナ 別離・わかれ(日本語)1965 / Un Anno D'Amore
今まで観た5本のフランス映画特集、舞台は全てフランス以外です。 面白い。
こういう映画を観ていると、高校生・大学生の頃の自分が思い出され、懐かしくもあり、恥ずかしくもあり、困ったものです。成長しませんねえ。
それでは今日はこの辺で。