Flying Skynyrdのブログ

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映画『告白小説 その結末』を観る

今日のキネ旬シアターは『告白小説 その結末』でした。

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監督:ロマン・ポランスキー

主演:エマニュエル・セニエエヴァ・グリーン

制作:2017年 フランス、ベルギー、ポーランド 2018年日本公開

 

ロマン・ポランスキー監督はなじみの深い監督で、特に60年代の作品はよく観ました。『水の中のナイフ』カトリーヌ・ドヌーヴ『反撥』、ドヌーヴの姉のフランソワーズ・ドルレアック『袋小路』シャロン・テート『吸血鬼』、ミア・ファーロウのローズマリーの赤ちゃんなど面白い作品ばかりでした。

 

1933年、ポーランド人の両親の元パリで生まれました。国籍はポーランド、フランスです。『水の中のナイフ』がポーランドでは受け入れられず、イギリスやアメリカで評判になったためイギリス、アメリカに居を構えるようになりました。

 

ポランスキーの父親はユダヤ人です。第2次世界大戦時はゲットーに住まわされ、一斉逮捕の時に父親は有刺鉄線を破り息子を逃したそうです。父親は強制収容所終戦まで生き残りましたが、母親は虐殺されました。そのような過酷な経験がその後の創作活動や私生活に影響を及ぼしているのは間違いないでしょう。

 

1968年には『吸血鬼』に出演したシャロン・テートと結婚するも、翌年テートはお腹の子供と共に殺害されるという悲劇が起こりました。これは人違い殺人でした。なんともやりきれない事件でした。

 

1970年代にはフェイ・ダナウェイ『チャイナタウン』ナスターシャ・キンスキー『テス』などの作品を送り出しました。

 

一方でポランスキーは少女に対する性的暴行で逮捕されるという嫌疑をかけられました。本人は無実を主張しましたが、アメリカの司法当局は国外追放を命令しました。ポランスキーアメリカを捨てイギリスに渡り、その後パリへ移住しました。

 

ナスターシャ・キンスキーとは彼女が15歳の頃から性的関係を結んでいたというし、2010年には女優のシャーロット・ルイス(ポランスキーの映画でデビュー)が16歳の時に性的暴行を受けたと告白しました。やはりそういう性癖があったのかも。

 

2002年に戦場のピアニストでようやくカンヌ国際映画祭パルムドール賞、並びにアカデミー賞を獲得しました。ただし逮捕・収監の恐れがあるのでアメリカでの授賞式には参加しませんでした。

 

私が観たポランスキー作品も『戦場のピアニスト』が最後でした。ですから久しぶりのポランスキー作品です。

 

さて、すっかり前置きが長くなってしまいました。

映画の方はというと、心を病んで自殺した母親との私生活を描いた私小説がベストセラーになった女流作家デルフィーヌ。彼女のサイン会には長蛇の列ができるほどの人気です。しかし途中で切り上げてしまいます。彼女は次作の構想も浮かばずスランプ状態に陥っていました。匿名の手紙が届くのも悩みの種でした。そこには家族を晒して金儲けをしているみたいなことが書かれてありました。

 

サイン会の後はパーティーです。疲れて控室に引き上げると、先ほどサインを断った女性が座っていました。名前を聞くとエル(ELLE:彼女)と応えました。デルフィーヌはなぜか彼女に好感を持ちました。

 

後日、エルから電話があります。待ち合わせてエルと会いました。電話番号を教えた覚えはありませんでした。エルは教えてもらったと言います。エルはゴーストライターだということがわかりました。出版社に向かう途中の地下鉄で小説のネタを書き留めておく4冊のメモ帳が無くなっていることに気がつきます。カバンに穴が開いていたのです。

 

ある日、筆が進まずバルコニーに出ると再び電話がかかってきました。エルが真向いのアパートに引っ越してきてそこから手を振っているのでした。

 

彼女の誕生パーティーに招かれましたが、そこには誰も来ていません。夫の死後は招待状を出しても誰も来ないとの事。理由は今は言えないとのことでした。デルフィーヌ自身も夫とは自由でいたいため別居中で、夫は頻繁に海外出張、子供達も独立して一人暮らし、ますます気が合うようになりました。

 

帰りにデルフィーヌはエルに次作の構想を書いたものを渡します。それはフィクションでした。後日エルは「つまらない」と突き放し、あなたは私小説を書くべきだと言います。

 

匿名の手紙は相変わらずですが、エルがやってきて今度はフェイスブックをやってもいないのに誰かが彼女になりすまし、好き勝手なことを書いて炎上しているというのです。エルがパソコンのパスワードを聴きだし処理してくれました。

 

エルのアパートの住人が帰国するということで、アパートを出なければならなくなり、次が決まるまでということで二人は同居することになりました。すると次第にエルの奇行が始まりました。優しさと感情むき出しに怒り狂う二面性が現れてきたのです。しかしデルフィーヌは精神的に追い込まれ、彼女なしでは生活できないくらい頼り切ってしまっていました。

 

ある日エルがデルフィーヌに届いたメールに勝手に返信して、連絡してこないようにしていたことを友人から聞かされました。エルに文句を言うと、エルは小説に集中するためだと言って怒りだし家を出ていってしまいました。

 

その後一人暮らしになったデルフィーヌが階段から落ちて足を骨折したときに一番に駆け付けて世話をしてくれたのがエルでした。二人の関係は元に戻りました。エルは小説に集中するために別荘で暮らそうと提案し、出発しました。

 

エルは今まで語らなかった自分の過去を語り始めました。19歳で結婚、その後夫は自殺。母親の自殺、父親の暴力。空想上の友人キキのこと。デルフィーヌはこれを小説にしようと思い立ちました。そしてあれこれと聴きだし始めました。

 

ある日エルが突然悲鳴をあげました。ネズミが出たというのです。翌日エルは殺鼠剤を買ってきて、デルフィーネにそれを地下室に置いてくるように頼みました。仕方なく殺鼠剤を地下室まで下りて撒いてきました。しかしその日からデルフィーヌは体調を崩し出しました。夫からの電話にもエルが出て今食中毒で寝ていると答えていました。

 

エルは執拗にスープや食事を勧めますがデルフィーヌはすぐに吐いてしまいます。作った食事に手を付けないデルフィーヌに対し怒って部屋を出ていってしまいました。デルフィーヌはもしかしてエルが小説のことに気がついたのかもしれないと思い机を調べると、エルのことを書いていたメモが破られていました。

 

危険を感じたデルフィーヌは大雨の中、別荘から逃げ出します。松葉杖で逃げていると、後ろから来た車に轢かれそうになり、そばの側溝に落ち動けなくなってしまいました。幸い翌日、道路工事の人に発見され助かりました。

 

慌てて出張から帰った夫はデルフィーヌが自殺を図ったと思いました。体内から硫酸タリウムが見つかったのです。それは殺鼠剤に含まれていたものです。デルフィーヌはエルの仕業だと言いますが夫は信じません。エルとは話したことも無いというのです。電話してもいつも切れていたというのです。

 

やがて回復し出版社を訪ねると編集者に、素晴らしい小説だと絶賛されます。そんなものは書いていないと言いますが、ちゃんと送られてきたと言われます。エルの仕業だな、と思いました。

 

デルフィーヌの新作「真実に基づいた物語」は大好評でサイン会が開かれています。デルフィーヌの視線はエルの姿を探しますがエルは見当たりませんでした。

 

このエルというのはデルフィーヌが創り出したもう一人の自分、あるいは空想の友人ということでしょうか。それはエルという人物と誰かが話しているとか視線を交わしているという場面が一つもないことからもわかります。つまりエルは現実には存在していないのです。したがってこれはミステリーというよりは心理映画というべきかもしれません。

それでもラスト近くのデルフィーヌが大雨の中松葉杖で逃げて、真暗闇の中その後ろからヘッドライトのみが急速に近づいてくるシーンはポランスキーらしいスリリングなシーンでした。

サイン会で始まりサイン会で終わるという構成も洒落ています。

 

精神的に追い詰められた人間が逃げ道としてもう一人の自分を作り出してしまう。デルフィーヌにとって自分の母親を題材にした私小説を書いたことへの後悔が、自分を追い詰めてしまう。もう私小説は書かない、と決心しますが、もう一人の自分は、あなたは私小説を書くしか能がないと言います。そしてもう一人の自分を題材にした小説を書きあげてしまうのです。「真実に基づいた物語」はやはりある意味私小説なのでした。

 

エルを演じるエヴァ・グリーンの美しさと、ゾッとする様な冷たい視線が忘れられません。この女優さんはどこかで見た気がするのですが思い出せません。 

デルフィーヌを演じるエマニュエル・セリエは3番目の奥方です。ポランスキー、56歳での結婚でした。

名作も作り出しますが私生活では問題も多い監督です。しかし現在85歳。いまだにメガホンをとっているという、このバイタリティはどこから来るのでしょう。恐れ入ります。「男はタフでなければ生きていけない」とは誰のセリフだったけ。フィリップ・マーロウか。

 

 

 


映画『告白小説、その結末』2018.6.23(土)公開 予告編

 

 

それでは今日はこの辺で。