Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

映画『ノマドランド』を観る

先日のキネ旬シアターはノマドランド』でした。

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監督:クロエ・ジャオ

原作: ジェシカ・ブルーダー『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』

出演:フランシス・マクドーマンドデヴィッド・ストラザーン

製作:2021年 アメリカ合衆国

 

この作品は多くの映画賞を総なめにした映画です。ベネチア国際映画祭では最高賞の金獅子賞を受賞。アカデミー賞では監督賞、作品賞、主演女優賞の3部門で受賞しました。アカデミー監督賞で非白人の女性が受賞するのは初めてだそうです。

監督のクロエ・ジャオは中国人で、アカデミー賞の前哨戦であるゴールデン・グローブ賞の作品賞と監督賞を受賞した時には中国政府も大絶賛しておりましたが、その後クロエ監督が中国に批判的なインタビュー記事がかつて雑誌に載ったということで中国での上映は禁止になったそうです。ネットでの検索もできないそうです。凄い国ですね。

 

ノマド」とはフランス語で「遊牧民、放浪者」という意味です。最近、「定住地を持たず移動しながら暮らす人」という意味から派生して「IT機器を利用して会社だけではなく様々な場所で働くというワーキング・スタイル」という使われ方をするようです。

このような人たちを「ノマドワーカー」と呼んだりするそうです。

 

この映画のノマドはそのような前向きな働き方ではなく、2008年のアメリカのリーマン・ショックによってもたらされた経済危機で止む無く家を手放さざるを得なくなった高齢者たちの物語です。

 

映画の主人公・ファーンはネバダ州エンパイアに住む60代の女性です。夫に先立たれ、鉱山は閉山、町の工場は軒並み倒産。そしてとうとう町自体が閉鎖になりました。郵便番号も抹消されました。彼女も家を手放す羽目になり、家財道具を売り払って、自家用バンに最低限の家財道具を詰め込んで、日雇いの仕事を探して放浪の車上生活を始めることになりました。

映画はその放浪の旅の中で同じ境遇の人たちとの交流を描いていくドキュメンタリー・タッチのロードムービーです。

ノマドランド|映画|サーチライト・ピクチャーズ

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映画の中の登場人物には実在のノマドが何人も登場します。ファーンは彼らとの交流を深めながら、アメリカの大自然に抱かれながら自由というものをかみしめてゆくのです。そして夫との悲しい別れに沈んでいた心も徐々に癒されていくのです。勿論生活は不便で、働く場所も限られています。その不自由さを超える自由が彼女にノマド生活を続けさせるのです。家の中での普通の生活に 戻れる機会もあるのですが、彼女はノマドを選択します。

 

わが国でもリーマン・ショックの折には派遣切りが頻発し、年越し派遣村が出来るなど生活困窮者の支援にあたりました。そして今もコロナ禍はそれに拍車をかけ、多くの生活困窮者、路上生活者が溢れています。このような路上生活者、いわゆる「ホームレス」は1980年代頃から多く見られるようになりました。新宿西口の地下道にはホームレスが溢れていました。ここに来ての経済格差は様々な格差を生み出し、その幅は大きくなる一方です。しかしお偉い方は解決は自助努力でしろとおっしゃるのです。お見事ですね。

 

一方で、コロナ禍のなかで政府はテレワークを盛んに推奨し、それを機会にキャンピングカーで寝泊まりしながら仕事をするノマドワーカーも増えています。彼らは「家」に縛られず毎日を違った環境で自由に暮らしたいと、前向きに「ホームレス」を選択しているのです。「家」というものに対する考え方が大きく変わろうとしているのかもしれません。そして「働き方」も大きく変わろうとしています。通勤はしなくてよし、副業もオーケー。一昔前には考えられませんでした。社会のかたちと既存の価値観がコロナの影響もあってか、大きく変わろうとしているような気がしてなりません。古い価値観で生きて来た人間にはこれから大変な世の中になりそうです。もちろん私もですが・・・。

 

主演のマクドーマンドは役作りのために実際に車上生活を経験したそうです。また映画の中でAmazonの物流センターで働くシーンがあるのですが、ここでも梱包の日雇い労働を経験したそうです。

それにしても、アメリカ西部の大自然の景色には圧倒されました。

 

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それでは今日はこの辺で。