監督：大島渚
製作：１９７６年 日本・フランス
先週の『戦場のメリークリスマス』に続いて大島渚監督の『愛のコリーダ』の２Ｋ修復版が公開されました。
この作品は『夏の妹』以来、久しぶりの作品でした。大島監督がポルノ映画を製作したと話題になりました。当時私は大学生だったと思います。ただただ驚きました。ただし、この時公開された日本版は大幅に修正が加えられたものでした。先行上映されたフランスでは完全ノーカット・無修正で公開されました。ところが逆輸入となった日本ではそうはいきません。この年、映画の写真を載せた書籍も出版されましたが、これがワイセツに当たるとして裁判になりました。大島監督は「ワイセツの何が悪い！」と語気を強め主張しました。結局、裁判は無罪になりました。その後、２０００年に日本でもノーカット版が上映されましたが、それでもボカシ修正が加えられました。
今回は修復版ということで画像がより鮮明になりました。ボカシはあります。
話の方は、昭和の女性版猟奇事件の筆頭に挙げられるであろう『阿部定事件』を題材にしています。
私もこの事件には興味があって何冊か本も読みました。非常に興味深い事件です。
阿部定の簡単な経歴は紹介します。詳しく書くときりがないので極々簡単に。
阿部定は神田の畳屋に生まれました。８人兄弟で、幼いころから三味線や常磐津など稽古事もさせてもらっていました。ところが１４歳の時に大学生に強姦され、それから人生が狂い始めました。まともな結婚もできないと思い込み、学校は退学し、芸妓、娼婦、妾へと身を落としていきました。
そして３０歳のころ、石田吉蔵の経営する料亭・石田屋に仲居として働き始めました。吉蔵と定は互に一目惚れでした。すぐに肉体関係が出来ましたが、これが吉蔵の妻にバレ、二人は出奔しました。都内の旅館を転々としながら、最後に荒川区尾久の待合旅館「満佐喜」に滞在し、ここで事件が起きました。
極限の快楽を得るために、定は吉蔵の求めに応じ首を絞めます。それが行き過ぎ、とうとう殺してしまいました。そして吉蔵の局部を切断し、それを身に着けて逃げたのです。１９３６年の出来事でした。その年は二・二六事件が起きた年でした。布団には血染めで「定 吉 二人きり」と書かれてありました。
事件の４日後に逮捕されました。懲役６年の判決、１９４１年には「紀元二千六百年」の恩赦で出所しました。出所後は料亭で知り合ったサラリーマンと結婚しますが、阿部定であることがバレて破局。その後はおにぎり屋を開業するなどしていましたが、１９７１年に失踪、以来行方が分かりません。
彼女本人の映像が石井輝夫監督の映画『明治大正昭和 猟奇女犯罪史』で見られました。監督が橋の入り口付近で定にインタビューするシーンが出てきます。この時彼女は６３歳でした。
映画の話より阿部定の話になってしまいました。
この映画はハード・ポルノというよりは究極の恋愛映画なのかもしれません。
それにしても藤竜也は凄かった。藤竜也と言えば『野良猫ロックシリーズ』などの日活ニューアクションや、テレビドラマ『時間ですよ』などで名を馳せた俳優です。この映画でさらに知名度を上げ、今も活躍しています。役者は凄いです。あんなシーンが撮れるのですから。
主演女優の松田英子（後に松田暎子に改名）は寺山修司の「天井桟敷」の劇団員でした。この映画の主演に抜擢されたときはほとんど無名でした。「本番」女優として話題になり、その後数本のポルノ映画に出演し引退しました。その後の消息は不明でしたが、２０１１年に脳腫瘍で亡くなりました。謎に包まれた女優でした。どこか阿部定を思い起こさせます。
製作には若松孝二が参加しています。
吉蔵と定の関係は何故か無理心中した太宰治と山崎富栄の関係を思い出させるのです。定と富栄の愛情表は異なっていても根底は同じだったのではないのかな、などと勝手に想像しています。いや、あるいは大杉栄と伊藤野枝か。
どうせなら完全無修正版を見たかったです。
それでは今日はこの辺で。
