昨日のキネ旬シアターは『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』でした。
監督:アグニェシュカ・ホランド
出演:ジェームズ・ノートン、 ヴァネッサ・カービー、 ピーター・サースガード
イギリスのジャーナリスト、ガレス・ジョーンズがスターリン政権下のソビエト連邦の真実に迫った、実話に基づいた映画です。
1933年、ヒトラーのインタビューにも成功した若きジャーナリスト、ガレス・ジョーンズは世界恐慌の中、ソ連だけが繫栄していることに疑問を持ちます。そこで彼は、彼が外交顧問をしている政治家、ロイド・ジョーンズのコネでモスクワへ向かいます。モスクワにいる仲間のポールに電話をすると、すごい情報を掴んだと言った途中で電話が切れてしまいました。
モスクワに到着すると、すでに何人かのジャーナリストもいて、その中にはニューヨーク・タイムズのモスクワ支局長のウォルター・デュランティもいました。しかし、彼らはパーティーで酒と女に夢中、とても仕事をしているようには見えません。デュランティも御用記者に成り下がっていました。
ジョーンズはホテルをあてがわれ行動を監視されています。その中でデュランティの部下、エイダからポールはウクライナへ行こうとして殺されたのだということを聞かされます。ジョーンズは監視の中、単身ウクライナへ潜入します。そこで彼が目にしたものは・・・・。
この映画はソ連のスターリン時代に行われた、ホロドモールのことを描いています。これはドイツ・ナチスのホロコーストと並んで20世紀の歴史的大量虐殺です。ホロドモールとはソ連の5か年計画一環として行われたコルホーズ(集団農場化)、クラーク(富農)撲滅運動によりウクライナ地方で起きた大規模飢饉による多数の餓死者を出した事件のことです。その数は強制収容所での死者数も合わせると500万人とも1500百万人ともいわれています。この大規模飢饉は人為的なものだったのです。つまり農民に達成不可能と思われる高いノルマを課し、出来高をモスクワへ納めさせ、外貨を稼いだのです。結果、ウクライナ人は自分たちの食糧さえ提供せざるを得なくなり、餓死者が続出したのです。ウクライナは肥沃な土地があり小麦の大生産地でした。それを工業化を進める、ウクライナ嫌いのスターリンに狙われたのです。村には死体が溢れ、農民は人肉までむさぼるという悲惨な状況になったのです。しかし、この実態をソ連はひた隠しに隠しました。この大飢饉をソ連が認めたのはソ連崩壊後でした。ただし、ジェノサイドについては国際的な見解にもかかわらず完全に否定しました。
この悲惨な出来事が現在進行形で行われています。現在のロシア・ウクライナ戦争はロシアによる大量虐殺に他なりません。今まさにテレビ報道でロシアによるジェノサイドが映し出されているのです。両国の複雑な歴史は度外視して、今すぐ戦争を止めなければなりません。さもなければ、プーチンはヒトラー、スターリンと同様、未来永劫、悪の代名詞としてその名を歴史に刻むことになるでしょう。
もう一つ、この映画にはジョージ・オーウェルが登場します。オーウェルと言えば有名なイギリスの作家ですが、彼の著書『動物農場』はスターリン・ソ連をモデルにしていると言われています。この映画の中でもオーウェルはその書籍と思われる小説を執筆中です。高校1年生の時に原書購読でこの本がテキストになったことがありました。英語では何が何だかわかりませんでしたが、後に日本語で読んで理解しました。全体主義の怖さを実によく描いていました。日本でも60年代から70年代の若者たちのあこがれだった社会主義・共産主義への強烈な批判でした。英語の先生もそれを意識して読ませたのでしょうか。
ガレス・ジョーンズはウクライナ・ソ連の実態について報道することに成功しますが、ウォルター・デュランティはこれを真っ向から否定しました。このデュランティはスターリンへの取材等でピューリッツァー賞を受賞していたのですから、報道の危うさというものを痛感させられます。「真実の報道」とはなにか、考えさせられました。今のロシアを見て、改めてプロパガンダの怖さを感じています。かつての日本のように。
ガレス・ジョーンズはわずか30歳を目前に満州で暴漢に襲われ殺されます。ソ連による謀殺との見方もあります。一方、デュランティは73歳まで生き、ピューリッツァー賞の取り消しはありませんでした。
今この時期にこの映画を上映するなんて、『ひまわり』といい『禁じられた遊び』といい。キネ旬さんもやりますね。
それでは今日はこの辺で。