Flying Skynyrdのブログ

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映画『悪なき殺人』を観る

先日のキネ旬シアターは『罪なき殺人』でした。

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監督:ドミニク・モル

出演:ドゥニ・メノーシェ、ロール・カラミー、 ダミアン・ボナール

制作:2019年  フランス・ドイツ  2021年  日本公開

 

同じ出来事を複数の人物の視点で語るサスペンス・ドラマ仕立てです。黒澤明の『羅生門』のような手法です。

 

完全ネタバレです。

吹雪の夜にフランスの山村で一人の女性が行方不明になりました。この事件を巡って五つの物語が展開します。

 

主な登場人物はジョゼフ。ジョゼフと不倫するアリス。アリスの夫ミシェル。失踪した女エヴリーヌとその夫ギョーム。エヴリーヌの同性愛者マリオン。アフリカ・コートジボアールに住む若者アルマン(アマンディーヌ)。

 

映画はアリス、ジョゼフ、マリオン、アルマン(アマンディーヌ)、ミシェルの順で物語が進んで、最後に真相が判明するという仕掛けです。

 

アリス編

アリスは共済組合の外交員。養牛業の夫ミシェル、それと父親と暮らしています。クライアントの羊飼いジョゼフとは不倫関係です。ある日、アリスがジョゼフを訪ねると、何やら不安げな様子です。帰り道、不審な車を見かけます。家に帰ると女性が行方不明になっているというニュースが流れてきました。翌日友人の警官が訪ねてきて、行方不明の女性はエヴリーヌだと教えてくれました。警官はジョゼフが関係しているのではないかと疑っているようでした。心配になってジョゼフを訪ねるとけんもほろろに追い返されてしまいました。

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ジョゼフ編

吹雪のあった翌日、ジョゼフは敷地内に横たわる死体を発見しました。エヴリーヌでした。そこにアリスが訪ねてきたのです。ジョゼフは慌てて死体を物陰に隠しました。アリスと情事に耽るも上の空でした。その日の夜、死体を草原に捨てに行きますが、考え直して持ち帰ります。そして倉庫の奥に隠します。ジョゼフはエヴリーヌの遺体に添い寝をして過ごします。最愛の母を亡くした時もそうでした。ところが飼い犬が臭いを嗅ぎつけ吠え続けます。ジョゼフは犬を射殺します。そこにアリス訪ねてきて、犬の死体を発見しました。ジョゼフはアリスを追い返しました。ジョゼフはこれ以上隠しきれないと思い、遺体を背負って運び、山の中の深い谷底へ遺体を投げ捨てます。そして自分もその谷底へ身を投げます。

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マリオン編

エヴリーヌが殺害される以前の話になります。エヴリーヌはレストランで働く女性マリオンに一目惚れしました。マリオンの方も同様でした。相当な歳の差でしたが、二人とも夢中で抱き合いました。ある朝、エヴリーヌは書置きを残しホテルから去りました。エヴリーヌには家庭がありました。マリオンは彼女の話を糸口に捜し歩き、とうとう彼女の家にたどり着きました。しかし、彼女の家には夫が帰ってきます。エヴリーヌはマリオンにホテルに泊まるように説得して連れ出しました。マリオンは彼女が差し出した金を受け取らず、キャンプ場のキャンピングカーに寝泊まりするようになりました。ある日散歩からキャンピングカーに戻るとドアに金が差し込んでありました。怒ったマリオンはエヴリーヌに電話して「金じゃない、会いたの」とせがみます。エヴリーヌは訪ねてきて別れを切り出します。激しい口論の末、エヴリーヌは帰っていきました。

翌朝、警官が訪ねてきました。エヴリーヌが行方不明だと知らせます。その夜、帰る支度をしていると見知らぬ男が訪ねてきました。アリスの夫ミシェルです。彼はマリオンをアマンディーヌと呼び近寄ってきました。マリオンは恐ろしくなってミシェルを蹴りつけました。慌てたミシェルは立ち去りました。

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アルマン編

コートジボアールに住む若者アルマンは一獲千金を狙ってSNS詐欺を働いていました。若い女性になりきって男を騙し金を奪うのです。それに引っ掛かってきたのがミシェルでした。アルマンは若い女の画像を付けてアマンディーヌと名乗り、ミシェルに甘い囁きをかけるのです。まんまと引っ掛かったミシェルは次々に金を振り込みます。アルマンは大金を手に入れ、かつての恋人モニークと付き合い始めます。彼女には二人の間の子供もいました。しかし、現在はフランス人の男に囲われています。月に1回くらいは訪ねてくる、だから結婚はできないといいます。

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ある日、ミシェルはヒッチハイクする女性を見かけます。それはアマンディーヌ(マリオン)でした。隣にアリスが乗っていたため、やり過ごしましたが、SNSでアマンディーヌにフランスに来ているのかと確認したところ、そうだとの返信がありました。アルマンは内心驚きました。自分がフランスに行っていることになっていると。ミシェルはアマンディ―ヌの居場所を突き止めますが、不在だったためキャンピングカーのドアに金を挟んで去りました。

その日の夜、再びキャンピングカーを訪ねると、アマンディーヌとエヴリーヌが激しい言い争いをしていました。そして出てきたエヴリーヌを追跡し、雪道で車を止めさせ、アマンディーヌを困らせるなと絞め殺してしまいます。そして死体をジョゼフの敷地に運び遺棄したのです。

 

一方、コートジボアールでは詐欺グループが摘発され、アルマンも逮捕されました。ミシェルに警察から連絡があり、騙されていたことがわかりました。ミシェルはコートジボアールに向かいアマンディーヌ(アルマン)を探します。そしてとうとう見つけ、問い詰めますが、結局逃げられました。ホテルに戻り呆然としていると、アマンディーヌからチャットがありました。「まだそこにいるの?」。ミシェルは思わず微笑むのでした。

アルマンの彼女モニークはフランスへ行くことになったと別れを告げに来ました。

場面はエヴリーヌが住んでいた別荘です。車から降り立ったのはアルマンの彼女モニークでした。そして一緒に降りてきたのはエヴリーヌの夫ギョームでした。

 

最後の結末は意外でした。が、この映画はサスペンスという括りではないようです。なぜなら犯人は途中で判明してしまいます。謎解きはありません。この映画のテーマは『満たされぬ愛』と言ったところでしょうか。

アリスとミシェルの冷え切った夫婦関係。それを埋めるための不倫とSNS。エヴリーヌとマリオンの快楽と恋愛のすれ違い。アルマンとモニークの貧困ゆえに結ばれぬ愛。

飽きの来ない2時間でした。

 でもなんで「悪なき殺人」なんだ?

この映画は2019年に東京国際映画祭『動物だけが知っている』というタイトルで上映されたそうです。

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それでは今日はこの辺で。