Flying Skynyrdのブログ

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貫井徳郎の『修羅の終わり』を読む

貫井徳郎『修羅の終わり』を読了しました。忘れないうちに書いておきます。

 

この作家の小説は既に相当な数を読みました。この作品は文庫本800ページの大作です。

いわゆる叙述トリックと言われる推理小説です。叙述トリックとはアガサ・クリスティの『アクロイド殺し』に代表されるような、読者の先入観や思い込みなどを利用して騙す手法です。

 

この小説は

若き新米公安刑事・久我恒次の編

極めつけの悪徳刑事・鷲尾隆造の編

記憶を失った青年の編

 

以上の3人の物語が同時進行で語られていきます。

通常こういったケースは、最後にはバラバラだったピースが組み合わさって謎が解けるというスタイルが多いのです。しかし、今回は最後になってもピースがかみ合いませんでした。不思議な感じでした。読後にしばし考えて自分なりに納得させました。

 

 

「久我恒次の編」は社会の出来事などの描写から年代は1971年と推定されます。

「鷲尾隆造の編」は1992年と推定されます。

「青年の編」は最後の1行まで不明です。

 

久我恒次は公安刑事で過激派組織絶滅のために高校生・斎藤をスパイに仕立て上げます。斎藤は自分がスパイにされたことを知って久我を激しく憎悪します。久我は斎藤の姉をも上司・藤倉の命令でスパイに仕立て上げます。久我は姉に対し好意を持ち始めていたのです。藤倉は久我の正義感が公安刑事として必要な資質の邪魔になるとして、ある女性スパイに対する強姦を命じます。久我は止む無く命令に応じます。久我の心は壊れていきます。一方斎藤はスパイであることがバレて殺されてしまいます。久我は良心の呵責に悩み、上司・藤倉に対する復讐を誓い、実行します。

 

鷲尾隆造は平気で強姦もする残酷な悪徳刑事です。秘密売春組織の存在を突き止めるために逮捕した女から逆にやってもいない強姦罪で訴えられ、警察を追われます。鷲尾はこの処分に対し、上層部の何らかの思惑があるとして警察に対する敵意を燃やします。そこに白木と名乗る男が近づき、警察に対する復讐を手伝うと申し出ます。そして次々と警察官に対する復讐を開始するのでした。

 

記憶を失った青年はある女性から、あなたの名前は斉藤拓也だと知らされます。ある時、青年に山瀬という男が近づきます。彼は「君には姉さんがいたが、すでに死んでいる」と告げます。そして青年の記憶が戻ります。青年の名前は真木俊吾といいます。そして真木は山瀬から自分の姉は公安刑事にスパイに仕立て上げられ、自殺したと打ち明けます。真木は山瀬からその公安刑事の名前を聞きだし、復讐に向かいます。

 

これで久我の編と青年の編は繋がりました。しかし、鷲尾の編は年代も全く違い、繋がりません。

 

そこで私が考えたのが、真木に公安刑事の名前を教えたのは藤倉ではないだろうか、ということです。藤倉は久我に局部を切り取られるという復讐を受けています。それに対する復讐を真木を操って成し遂げようとしたのではないでしょうか。真木の姉は藤倉の命令によって久我が強姦した女スパイだったのです。そして女は自殺しました。これが真木の姉です。

 

そして鷲尾に近づいた白木は実は20年後の真木の姿だったのではないでしょうか。真木は鷲尾を利用して警察に対する復讐を成し遂げようとしたのではないでしょうか。これで鷲尾の編が繋がりました。

 

この小説を読んでいない方は、こんなザックリとした話を聞いてもチンプンカンプンでしょう。私も読んだ後、「あれ、なんだこれ」と思ってちょっとモヤモヤしました。このままでは気分が悪いというのでちょっと想像し、このような結論に達し、自分を納得させた次第でした。

 

はじめの頃、斉藤拓也と高校生の斎藤が同一人物かと思ったら、「さい」の字が違っているのに気がつき別人だとわかりました。騙されるところでした。


それにしても鷲尾の悪徳ぶりや藤倉の冷酷ぶりには読んでいて胸糞悪くなりました。

 

それでも叙述トリックは面白いです。

 

それでは今日はこの辺で。