Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

ブラジリアン・メタルの先駆け『ヴァイパー(Viper)』

もう随分前になりますが、アングラ(Angra)の記事を書きました。ところがそのアングラのヴォーカリストアンドレ・マトスが以前に在籍していたヴァイパー(Viper)については書いていないことに気付きました。順番が逆になってしまいました。なにしろその場の思い付きで書いているものですから、全く脈絡がありません。ということで遅ればせながらヴァイーパーを書いてみたいと思います。

アンドレ・マトスは残念ながら先日亡くなってしまいました。ご冥福をお祈りします。

 

ヴァイパーは1985年、サンパウロでの結成です。当時のブラジルにはまだまだヘヴィメタ・バンドなど数少なく、セパルテュラ(Sepultura)が頑張っていたくらいでしょう。

メンバーは

ピット・パシャレル(Pit Passarell,b)

イヴ・パシャレル(Ives Passarell,g)

フェリペ・マチャド(Felipe Marchado,g)

カシオ・アウディ(Cassio Audi,ds)

アンドレ・マトス(Andre Matos,vo)

でした。

 

1987年には早くもファーストアルバム『Soldiers of Sunrise』がリリースされます。

このアルバムはアイアン・メイデンやハロウィンのようなヘヴィメタで、ブラジルでも高い評価を得ました。アンドレ・マトス、この時若干15歳。そのハイトーン・ヴォイスが光ります。

 

ここでメンバーチェンジがあります。カシオ・アウディが脱退して、グィルヘルム・マーティン(Guilherme Martin,ds)が加入。しかし、すぐにレナート・グラッシア(Renato Graccia,ds)に替わります。

 

1989年にセカンドアルバム『Theatre of Fateをリリースします。

 

このアルバムが日本のデビューアルバムになります。クラシックの要素を多分に取り入れメロディアスなスピード・メタルが完成しました。しかし、このアルバムが日本で発売された1991年には既にアンドレ・マトスはバンドを去っていました。

 

代わりのヴォーカリストは入れずに、ピット・パシャレルがヴォーカルを兼任します。

1992年にサードアルバム『Evolution』を4人編成で発表します。

クラシックの要素が抜けて、ヘヴィメタ然としたアルバムになりました。アンドレ・マトスが抜けた影響を危惧しましたが、どっこいピットのヴォーカルもなかなかイケます。

 

1995年に4枚目のスタジオアルバム『Coma Rage』、1996年にはポルトガル語『Tem Pra Todo Mundo』をそれぞれ発表します。

 

 

両アルバムとも日本での発売は見送られました。すでにセカンドアルバムのような日本人受けするメロディック・スピードメタルではありませんでした。

 

これをもってヴァイパーは活動を停止しました。

 

 

その後、2001年に活動を再開します。2012年にはアンドレ・マトスも復帰します。現在もパシャレル兄弟とアンドレのオリジナルメンバー3人を中心に活動中です。

 

1980年代後半のヴァイパーの築いたブラジルのメロディック・パワーメタルの基礎は、アンドレ・マトスが結成したアングラに引き継がれたのでした。

 


Viper - At Least A Chance


Viper - A Cry From The Edge


Theatre Of Fate


Viper - Moonlight

 

それでは今日はこの辺で。

「歴史」への目覚め 『竜馬がゆく』

小・中学時代、特に「歴史」という教科に興味のある少年ではありませんでした。もっとも小・中学時代は「社会」という教科の中の歴史でしたが。

小学時代にも家族が観ている歴史物のドラマなどは観ていましたが、特別面白くて見ていたわけでもなく、なんとなく観ていたという感じでしたでしょうか。

それが中学生時代の1968年のNHKの「大河ドラマ」の竜馬がゆくを1年間通して観て、その意識がガラリと変わりました。特に「幕末」という時代に大いなる興味を抱いたのです。その前年も確か『三姉妹』という幕末ものでしたが、こちらにはさほどの興味はありませんでした。坂本龍馬西郷隆盛も出ていたと思うのですが、ほとんど記憶がありません。山崎努岡田茉莉子が出ていたのは憶えています。

「大河ドラマ 竜馬がゆく 画像」の画像検索結果

何故興味を持ったのでしょう。今考えると、時代を変える若者たちの燃えるような意志と行動力に惹かれたのかもしれません。ちょうど大学生たちの学生運動たけなわで、彼らも世の中を変えようと戦っていました。それと重ね合わせたのかもしれません。また、このドラマでは北大路欣也が龍馬役がぴったり嵌っていましたし、おりょうさんの浅丘ルリ子も大好きな女優でしたのでそれらも合わさってのことだと思います。

 

それ以来、司馬遼太郎歴史小説を幕末に限らず片っ端から読み漁りました。中でも『翔ぶが如く』や『坂の上の雲』、『世に棲む日々』などは面白く読ませてもらいました。

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ただ後で調べてみると、この『竜馬がゆく』は大河ドラマとしては1994年の『花の乱』が更新するまでは歴代最低視聴率の記録保持者でした。幕末ものは人気が無いというのが定説となりました。私個人としては未だに最高の「大河ドラマ」だと思っております。

 

その後、坂本龍馬の役は多くの俳優が演じましたが、北大路欣也のイメージが強く、なかなかなじめませんでした。この他でよかったのは黒木和夫監督の映画竜馬暗殺での原田芳雄、それから同じく大河ドラマ勝海舟での藤岡弘です。さらに中村錦之助(後の萬屋吉永小百合さんが共演した伊藤大輔監督の映画『幕末』もよく憶えています。

f:id:lynyrdburitto:20190625121644p:plain 「勝海舟 (NHK大河ドラマ)」の画像検索結果

 

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司馬遼太郎の小説はあくまでも小説であり、歴史書ではありません。ですから人物像は司馬遼太郎の作り物です。この他にも多くの作家が坂本龍馬を描いています。それぞれの坂本龍馬像が存在します。見方によってはこうも違うのかということにも驚かされました。

 

私自身も歴史小説では飽き足らず、歴史書にまで踏み込んで歴史を学び始めました。学んだと言ってもあくまでも趣味の範囲で、研究したわけではありません。幕末のみならず、明治から昭和史へと知れば知るほど面白くなってきます。特に昭和史は学校でも時間切れでほとんど勉強しませんから新鮮です。身近な昭和の歴史なのに知らないことが多すぎて驚きます。教科書にはほとんど載っていない、昭和史の裏側は実に面白いです。

 

ただ、面白いのは年齢を重ねるごとに、時代への見方が変わってくることです。若い頃には尊王討幕を実行した薩長の志士たちに拍手を送っていましたが、その後の日本の政治の在り方を見るとそのような見方にも疑問符が付いてきます。藩閥政治は今でも続いているような気がしてなりません。年のせいでしょうか。

 

とにかく、たった一本のテレビドラマによって、歴史というものに大いなる興味を持つようになった少年が存在したということだけでも「大河ドラマ」の存在意義はあったのではないでしょうか。なんて、偉そうなことを言っています。

 

音楽や映画そのものに興味を持つと同時に、その音楽や映画の歴史についても知ることによって、一段と面白さが増すのです。そういう意味でもその歴史を知るということはどんな分野においても大切なことなのです。歴史を知ることによって、同じ過ちを繰り返さないことが大事なのです。

 

ただ単に『竜馬がゆく』について書こうと思っていたのに、いつの間にやら説教じみた話になって、尻切れトンボになってしまいました。ご容赦願います。

 

 

それでは今日はこの辺で。

この人の、この1枚 『竹内まりや/REQUEST』

1980年頃のデビュー当時の竹内まりやの透き通るような声に惹かれ、「ドリーム・オブ・ユー」や「不思議なピーチパイ」などのドーナツ盤を買ったりしていました。だからといって彼女のコアなファンでもありませんでした。

それからしばらく彼女の名前も聴かなくなりました。もっともこの頃はJポップというものはほとんど聴いていなかったので詳しいことはわかりませんでしたが。

 

それが、1980年代の後半ごろでしょうか、車を運転している時にラジオから偶然竹内まりやという名前が聞こえてきて、続けて「駅」という曲が流れてきました。これには驚きました。デビュー当時の明るい曲調とは違って、マイナー調の曲に載せた切ない曲だったのです。その歌詞の情景が自分の過去の経験と重なって目に浮かぶようでした。「思わず涙、溢れてきそう・・・」

 

早速レコード屋に走りドーナツ盤を手に入れました。

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さらにアルバムに収録されていることも知って、そのアルバムを手に入れました。

それが『REQUEST』です。

 

01.恋の嵐

02.OH NO,OH YES!

03.けんかをやめて

04.消息

05.元気を出して

06.駅

07.テコのテーマ

08.色・ホワイトブレンド

09.夢の続き

10.時空の旅人

 

私は良く知らなかったのですが、デビュー当時は楽曲の提供を受けて歌っていたと思ったのですが、いつの間にか自分で曲を作るようになっていました。このアルバムも全曲オリジナルです。このあたりは山下達郎の影響が相当あったのでしょう。

さらに、02と06の「駅」はもともと中森明菜に提供した曲です。そして03の「けんかをやめて」は河合奈保子、05の「元気を出して」は薬師丸ひろ子に、08の「色・ホワイトブレンド」は中山美穂に提供したものでした。それらをこのアルバムでセルフカバーしたのです。

中森明菜の「駅」は聴いたことがありませんが、この曲は何といっても竹内まりやでしょう。今でも時々聴いています。このアルバムは愛聴盤です。

 

この後5年ぶりのアルバム『Quiet Life』を買いました。

 

ここでは火曜サスペンス劇場の主題歌「シングルアゲイン」「告白」、さらにTBSドラマ『木曜日の食卓』の主題歌「家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)」などのヒット曲が含まれています。

このアルバムでは全曲自身のための曲になっていて、全体としてはいい曲揃いです。

 

そしてそれから約9年後にアルバム『Bon Appetit!』がリリースされ、これも買ってしまいました。

 

ここには『日曜劇場・白い影』の主題歌「真夜中のナイチンゲールを始め、テレビ・映画の主題歌やCMソングが多く含まれています。

 

私が買った彼女のアルバムはこの他にライブ盤『Souvenir』がありました。

 

彼女はアルバムをリリースするごとに1位を記録する超売れっ子シンガー・ソングライターです。たまにテレビなどを見るとCMやドラマに彼女の曲が使われています。さらに楽曲の提供も相当な数にのぼっているのでしょう。

 

まだ昭和だったころにデビューした、元気溌剌なお嬢さんが今では日本を代表するミュージシャンに成長しました。

それでも私の中ではやはり『駅』に尽きます。なんでこんな曲が書けるのだろう、と30年経った今でもただただ感服するばかりです。

 


駅 (Eki) - Mariya Takeuchi


竹内まりや告白 本人


竹内まりや/ けんかをやめて

 

それでは今日はこの辺で。

フランスの妖精『シルヴィ・バルタン(Sylvie Vartan)』

またまた1970年のことになります。以前も書きましたが、この頃が洋楽、特に映画音楽、ポップスなどの全盛期でした。ラジオからはひっきりなしにポップスが流れてきます。

そんな中で女性歌手と言えば、イタリアのジリオラ・ティンクエッティ、イギリスのメリー・ホプキンアメリカからはカーペンターズなど数え上げたらきりがありません。以前書いたヴィッキーはギリシャ~ドイツでした。そしてフランスからはダニエル・ビダルシルヴィ・バルタンでした。

シルヴィ・ヴァルタン(Sylvie Vartan)といえば私などより前の世代は「アイドルを探せ(La plus belle pour aller danser)」ということになるのでしょうが、私がシルヴィ・ヴァルタンをまともに聴いたのはやはり1970年の「悲しみの兵士(Les hommes (qui n'ont plus rien à perdre))」でした。

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シルヴィはこの前に2度の交通事故に遭い、顔面を負傷して形成外科手術を受けていました。その前を知る人に言わせると顔が変わったと言いますが、昔の写真と比べてもさほど変わった様子はなかったように記憶しています。傷は残っているらしいですが。

この歌は、男性のナレーションのようなセリフが入って、その後シルヴィの歌が聞こえてくるという、ちょっと変わった曲でしたが、そのメロディといい歌声といい引き付けられました。

 

これが日本でも大ヒットし、同じ年に「あなたのとりこ(Irrésistiblement)」が再発され、これもまた大ヒットを遂げました。

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これは軽快な歌で、シルヴィ・バルタン人気はますます高まりました。

 

その後も「アブラカタブラ(Abracadabra)」、さらにモーツァルトの曲をベースにした「哀しみのシンフォニー(Caro Mozart)」など次々にヒットを飛ばしました。

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私生活ではやはりフランスの歌手ジョニー・アリディとの結婚、そして離婚。

来日公演数多くこなしています。ちなみにウルトラマンに出てくるバルタン星人の名前はシルヴィ・バルタンが元になっています。

現在74歳。まだまだお元気なようで何よりです。

 

「フランスの妖精」なんていうタイトルをつけてしまいましたが、このタイトルにはダニエル・ビダルの方が合っていたかもしれません。失礼しました。

 

次々に思い出されて困りました。昔を懐かしむのは年を取った何よりの証拠です。

 


悲しみの兵士Les Hommes/シルヴィ・バルタンSylvie Vartan


あなたのとりこ【訳詞付】- シルビー・バルタン


シルヴィ・バルタン「アブラカダブラ」 (Sylvie Vartan - Abracadabra)


哀しみのシンフォニーCaro Mozart/シルヴィ・バルタンSylvie Vartan


天使のらくがき/ダニエル・ビダル Aime Ceux Qui T'aiment/Danièle Vidal


カトリーヌ/ダニエル・ビダル Catherine/Danièle Vidal

 

それでは今日はこの辺で。

ブラジリアン・メタル『ウィザーズ(Wizards)』

例によってCD棚を探していると、ウィザーズ(Wizards)なるバンドのCDが2枚も出て来ました。思い出しました。ブラジルのメタルバンド、「アングラ(Angra)」の子分的なバンドです。「ヴァイパー、アングラに続く秘宝・・・」と帯に書かれては買うしかなかったのでしょう。

lynyrdburitto.hatenablog.com

 

結成は1992年、サンパウロです。その前身は「MASKED LIES」というバンドでそのキャリアは長く、1983年頃らしいです。

元のメンバーは

クリスチャン・バッソス(Christian Passos,vo)

メンデル・ベン・ワイズバーグ(Mendel Ben Waisberg,b)

ベッシ―・ワイズバーグ(Bezi Waisberg,ds)

の3人でした。

そこに1992年、

カドゥ・アーヴェルバック(Kadu Averbach,g)

レアンドロ・フローレンス(Leandro Florence,g)

が加わって、バンド名もウィザーズに変えました。

このバンド名は彼らが最初に作った曲名から取ったものでした。

 

彼らはアングラのメンバーとの付合いも長く、ファーストアルバムのレコーディングもアングラのドラマー、マルコ・アントゥネスに協力を得たようです。

 

そして1995年にファーストアルバム『Wizards』をリリースします。

 

日本先行発売だったようです。どちらかというと、メロディアスなロックです。アングラの弟分という触れ込みでしたが、まだまだそこまではいっていないようでした。難点はヴォ―カルが弱いところでしょうか。キーボードでチャールズ・デラ(Charles Dalla)が参加しています。

 

翌年にはセカンドアルバム『Sound Of Life』をリリースします。

 

このアルバムではレアンドロ・フローレンスが抜けています。このアルバムも日本先行発売です。ここでもキーボードでチャールズ・デラが曲作りにも参加して大きな役割を果たしています。でも正式メンバーではありません。

前作同様メロディアスなハードロックになっています。ヴォーカルはやや上手くなっているような気がします。

 

この後のアルバムは未購入です。

 

1998年にサードアルバム『Beyond The Sight』、その後も3枚のアルバムをリリースしているようです。

 

私見ですがヴァイパー、アングラの領域には達しなかったような気がします。あくまでもセカンドアルバムまでの話ですが。最近のアルバムも聴いてみたいような気がします。中古で見つけたら買おうと思います。

 


Banda Wizards


Wizards - Sound Of Life (Full Album)

 

それでは今日はこの辺で。

これホラー? 小説『アンダー・ユア・ベッド』を読む

ブックオフで何気なく本を物色していると『アンダー・ユア・ベッド』というタイトルの小説が目に入りました。作者は大石圭という作家です。この作家の小説は読んだことはありません。しかも出版社が角川書店の『角川ホラー文庫』です。ホラー物は滅多に読みませんので、素通りかと思いましたが、なぜかタイトルが気になり、裏表紙の紹介文を読んでみるとなかなか面白そうなので100円で購入しました。

 

しばらく放っておいたのですが、ちょうど読む本が途切れたので読み始めました。するとこれが面白く、一気読みしてしまいました。読み終わって、「えっ、これがホラーなの?」というのが感想でした。ホラーではなく純愛物語でした。ただし、単なる純愛物語とはちょっと違います。

アンダー・ユア・ベッド (角川ホラー文庫)

アンダー・ユア・ベッド (角川ホラー文庫)

 

 

ネタバレ覚悟でストーリーを少し書いてみます。

主人公の三井直人は自分のことを敷石の下で蠢く虫と同じく、誰からも認められず、誰からも思い出されず、忘れられた存在だと自認しています。名前さえ呼ばれたこともない、そんな男です。

そんな三井が学生時代にたった一度だけ喫茶店でお茶を飲み話をした女性がいます。佐々木千尋です。千尋は美人で活発で皆の注目の的でした。そんな彼女とひょんなことから一度だけお茶を飲んだのです。

 

あれから9年、三井はエレベーターの中でユリのような香りの香水の臭いを嗅いで、ふと彼女のことを思い出したのです。そして早速興信所で彼女の行方を捜しました。三井は大学卒業後、熱帯魚店に勤めその後も熱帯魚店を転々とした挙句解雇されたばかりでした。

 

千尋は既に24歳の時に結婚しており、浜崎健太郎という男と結婚し平塚に住んでいました。三井は一目だけでも彼女の顔が見たくて、その住所を訪ねました。家の周りをうろうろしていると、彼女が庭先に出て来ました。その姿を見て驚きました。まだ28歳だというのに40歳と言ってもいいほどに老け込んでいました。キュートでファッショナブルでチャーミングだった彼女の影も形もありませんでした。疲れ切った彼女の姿を見て茫然とするばかりでした。

 

三井は彼女の変貌ぶりの原因を知りたくて、近くのビルで熱帯魚店を開店しました。その3階からは望遠レンズで彼女の家が見えるのです。ある日、千尋が生まれたばかりの子供を連れて熱帯魚店を訪ねてきました。三井はドキドキしましたが、彼女のほうはやはり覚えていませんでした。彼女は熱帯魚を買いたいが水槽が高そうなので無理だと言いました。三井は傷物の水槽があるのでそれを譲りますと言って、取り付けに自宅に行きました。そこでカギを盗んで合いかぎを作りました。

 

それから千尋が外出するスキを狙って家に忍び込み、寝室にライター型の盗聴器をセットしました。そして自宅で夫婦の会話を聞くようになりました。すると千尋の変貌ぶりの原因がわかりました。彼女は激しいDVを受けていたのです。さらに買い物以外の外出は認めず、必要以外の金銭は与えず、家の中はゴミ一つ残さず掃除させ、庭の手入れも毎日、そして給料に見合わない屋敷を賃貸で借りているため、内職をさせノルマを与えています。典型的な見え張り男です。ちょっと気に入らないことがあると激しい暴力を振るいます。そのくせ外面は良く、女には持て、近所の評判も良しの好青年です。千尋もそれに騙されました。千尋は親の反対を押し切って結婚した手前親にも相談できずにいました。

 

三井は毎月定期的に花束を贈ります。そして家に忍び込んでは水槽の掃除をしたり、時には内職の手伝いまでします。千尋は当初は花束を気味悪がって棄てていましたが、その内自分を励ましてくれてる人がいるんだと思い花を飾るようになりました。そして家に誰かが忍び込んでいるような気がしてなりませんでした。三井は時にはソファーの下やベッドの下に潜り込んで一晩過ごすこともありました。そしてDVの様子を目の当たりにするのです。

 

そんな日々が2年ほど過ぎました。千尋と初めて会った日から11年が経っていました。ある日、千尋の父親が癌かもしれないという連絡が新潟の母親からありました。千尋は思い切って健太郎に実家に帰して欲しいと頼みましたが、「ふざけるな、ばか」と一蹴されまたDVを受けました。その日も三井はソファの下の潜り込んでいました。そして帰り際に千尋の財布に現金を入れておきました。

 

千尋はとうとう堪忍袋の緒が切れて家出を決意します。財布を除くと5万円もの金が入っていました。おかしいとは思いましたが、幸いとばかりに子供を連れて家を出ました。その時に寝室でライター見つけてそれも持って出ました。健太郎はタバコを吸わないのに寝室にライターが置いてあるというのも変だとは思いましたが、千尋は隠れて吸っていたので、ついでに持って出たのです。とりあえずホテルに身を寄せました。タバコを吸おうと思てライターを取り出すと100円ライターにしてはちょっと重いので不思議に思い、分解してみると何やら変な部品が出て来ました。近くの電気店に持っていくと、これは盗聴器が仕込まれていますと言われました。驚く千尋ですがこれで何となくこれまでの不思議な出来事が納得できたような気がしました。確かに誰かがあの家にいたのです。

 

一方三井は盗聴器が持ち出されてしまったことを知り、もはや家の様子が分からないことにショックを受けます。あの盗聴器は150メートルぐらいが限度なのです。

 

千尋健太郎に電話して離婚を言い渡します。健太郎は表面上穏やかに「許してくれ、お前なしじゃ生きていけない」などと言いますが、千尋は「もう決めたの。あんたみたいな最低な男とは金輪際関わりたくない、本当に最低の6年間だったわ」と突き放します。

 

しかし、次の日、ホテルのドアをノックされます。覗くと従業員が花束を抱えて立っています。ドアを開けると横に夫がニヤリとしながら立っていました。そして「さあ、家に帰ろう」といって連れ出されます。携帯に電話したときにホテルの電話番号が表示されていたのです。

 

家に帰ると、これまで以上のDVが待っていました。千尋の顔は人間の顔とは思えないほど変わり果てていました。DVが一段落すると、夫は2階に上がりました。そのすきに千尋はライターに向かって「助けて、健太郎を殺して」と訴えます。それを聞いた三井はスタンガンを握りしめ、家に向かいました。そして家に忍び込むと、2階の寝室に入り、背を向けている健太郎にスタンガンを当てようとした瞬間、振り向いた健太郎に逆に捕らえられ、激しい暴力を受けてしまいます。もはや瀕死の状態にまでなった三井を引っ張って階段を降りようとした時、三井が振り払うと健太郎は階段を転げ落ちました。打ち所が悪かったせいで、後頭部からは出血、腰も激しく打ったのか立てません。千尋は降りてきた三井と倒れている健太郎を見て驚きます。三井は「殺します、いいですね」と聞きます。そして自分のベルトを引き抜いて健太郎の首を絞めて殺しました。夜中、死体は庭に埋めました。

 

三井は思い切って千尋に尋ねました。「僕のこと憶えていませんか?」と。しかし、千尋は全く憶えていませんでした。喫茶店での会話の内容、着ていた服、身に着けていたアクセサリー、すべて当時のことを昨日のことのように話す三井でしたが、千尋はどうしても思い出せません。三井は「もう一度だけ、一緒にコーヒーを飲みたかっただけです。それとお礼が言いたかった。あの11年前の日が人生で一番しあわせな1日だった。」「もう、付きまとうのは止めます。許してください」と言います。千尋は「ありがとう」と囁きます。千尋は「明日お店に行きます。そこでこれからのことを話し合いましょう」と言います。

 

三井はあり得ない将来を夢見て、想像を膨らまします。店に戻って暫くすると、インターフォンが鳴ります。千尋でした。「なんだか怖くて。迷惑じゃなかったら、今晩一晩泊めて下さい。」三井は「もちろん、どうぞ」と言って3階に案内します。そして「コーヒーを飲みませんか」と言って淹れたてのマンデリンを出しました。千尋はそれを飲みながら、「三井クン、ありがとう」、11年ぶりに三井クンと呼ばれました。三井は頷き、マンデリンを飲む。眼を閉じると微かにユリのような甘い香水が匂いました。

 

名もない虫にも彼らなりの小さな希望と欲望があり、夢、怒り、悲しみ、そして情熱に満ちた恋と喜びがあるのです。

 

以上、完全ネタバレでした。

 

物語ではやはり三井と同じような、存在を忘れ去られた水島という男が登場して、これまた殺人を犯します。この男の物語がところどころ挿入されます。三井はこの水島を自分と同じ人間と評価します。

 

三井はまさにストーカーですが、ここまで純粋に人を好きになれるのでしょうか。11年間も忘れられず、そして彼女のために殺人まで犯す。純愛以外何物でもありません。初めの頃は変態男に思えた主人公ですが、健太郎のあまりの横暴さに「早く千尋を助けてやれ」、と応援している自分が可笑しくなってきます。千尋の子供、木の実ちゃんが三井のことを「ナオチョ、ナオチョ」と呼び懐いているところがこれまたかわいいのです。

 

冒頭のシーンは何故かカフカの『変身』を思い出してしまいました。全く関係ありません。ベッドの下に潜り込んでいるシーンから始まるのですが、その描写と虫のたとえが『変身』のザムザを想像してしまったのでしょう。

 

ホラー小説かと思ったらとんだ肩透かしでした。それは嬉しい肩透かしでした。

 

ちなみにこの小説映画化されたようです。全く知りませんでした。観るつもりはありませんが。小説以上のグロテスクとエロチシズムはちょっと期待できません。

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それでは今日はこの辺で。

ザ・サベージから「ルビーの指環」へ 『寺尾 聡』

グループサウンズの時代、フォークロック的なバンドで人気を博したザ・サベージ寺尾 聡は在籍していました。

サベージはグループサウンズと言ってもカレッジ・ポップスのバンドのような感じでした。確かテレビ番組の「勝ち抜きエレキ合戦」で優勝したと思います。腕前は確かなバンドでした。デビュー曲の「いつまでもいつまでも」がヒットし、続く「この手のひらの愛を」もヒット、ブルー・コメッツやザ・スパーダースと並んで人気バンドになりました。

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バンドはリーダーの奥島吉雄以下寺尾聡を含め4人組でした。寺尾聰はベースとヴォーカル担当です。この2曲がヒットしたものの、ジュリーのザ・タイガースショーケンテンプターズなどアイドル的なバンドが続々と登場してくると、おとなしめで地味なバンドのサベージの人気は下火になり、結局1968年には解散しました。

 

活動期間は2年強と短かったですが、一時期は凄い人気でした。その一つの原因は寺尾聡の存在です。リーダーの奥島もヴォーカルをとりますが、やはり寺尾聡の甘いヴォーカルには敵いません。それに寺尾聡は宇野重吉の息子だということで有名でした。そういうこともあってサベージは人気バンドでした。

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ところが寺尾は「この手のひらの愛を」がヒットすると、あっさりバンドを脱退してしまいます。その後は俳優に転じます。石原裕次郎主演の映画黒部の太陽に出演したのをきっかけに石原軍団に入りました。『大都会』西部警察での刑事役はカッコよかったです。その他多くのテレビドラマや映画に出演しました。

 

そして1981年、久しぶりに歌を聴かせてくれました。それが寺尾聡のソロ・デビュー作となる『Reflections』です。

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Side A

1.HABANA EXPRESS

2.渚のカンパリソーダ

3.喜望峰

4.二季物語

5.ルビーの指環

 

Side B

1.SHADOW CITY

2.予期せぬ出来事

3.ダイヤルM

4.北ウィング

5.出航 SASURAI

 

プロデュースは武藤 敏史寺尾 聡です。

作曲は全曲寺尾聡。作詞はA-2,3,5が松本 隆、他は有川 正沙子です。

 

テレビでルビーの指環を聴いて、一発で気に入り、即レコードを買いに行きました。

この曲は、当初はそれほどではなかったようですが、次第に売れ出し『ザ・ベストテン』では12週連続1位という大記録を達成しました。そしてこの年のレコード大賞に輝きました。

この曲を石原軍団の裕次郎と小林専務に聴いてもらったところ、専務は「こんなお経みたいな曲、売れるわけがない」と否定的でしたが、裕次郎が「いいんじゃない」と言ったのでレコード化が決定したという逸話が残っています。

 

「この手のひらに愛を」から15年、楽曲もすっかりシティ・ポップになり垢抜けました。

 

そして寺尾聡の俳優としての活躍は目を見張るものがあります。黒澤作品にも出演したり、日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を「雨あがる」と「半落ち」で受賞しています。その他多くの賞を受賞しています。すっかり父親の宇野重吉のような性格俳優になってきました。いぶし銀な演技が魅力です。

「雨あがる」の画像検索結果 「半落ち」の画像検索結果

 

現在72歳、まだまだ健在です。

 


寺尾聰 ルビーの指環


ザ・サベージThe Savage/いつまでも いつまでもItsumademo Itsumademo (1966年)  視聴No.2


ザ・サベージThe Savage/この手のひらに愛をKono Tenohira Ni Ai Wo (1966年) 視聴No.14

 

 それでは今日はこの辺で。