先日のキネ旬シアターは『旅と日々』でした。

原作:つげ義春 『海辺の叙景』 『ほんやら洞のべんさん』
監督・脚本:三宅唱
出演:シム・ウンギョン、河合優実、高田万作、斉藤陽一郎、佐野史郎、堤真一
製作:2025年 日本
自分の能力に限界を感じている脚本家が、ある人物との出会いから自分を見つめ直していくというお話です。
脚本家の李は大学の授業で自分が手掛けた映画が上映され、学生からの質問に自分には才能が無いと答えるのです。彼女の心情を案じた大学の教授は気晴らしに旅行にでも行ってきたら、と促します。


冬になり、李は宛もなく旅に出ます。トンネルを抜けたら雪国です。町をふらついた後、旅館を探しますがどこも満室で泊まれません。紹介された旅館は雪の深い山奥の古びた、とても旅館とは呼べない、ただの民家です。泊まれる部屋などなく、囲炉裏のある茶の間に宿の主人と同室です。主人のイビキがうるさく眠れません。

そこの主人は一人で切り盛りしていますが、やる気が無く、暖房もなくまともな食事もありません。李が脚本家だと聞いて、アイデアを色々出すのですが李は気に入りません。逆に主人に錦鯉でも飼って金儲けをしたらと焚き付けます。

すると主人は夜中に李を雪原へと連れ出します。そしてある家にたどり着きます。そこは主人の別れた女房と子供がすんでいる家でした。女房は再婚しています。その家の池で李の反対にも関わらず錦鯉を盗んでしまうのです。翌日、警察が来て主人はあっさり逮捕されてしまいます。李は言葉の檻から解放されたように脚本の筆が進みます。そして李は主人の帰りを待たず再び雪の中を旅に出るのです。

以上が簡単なあらすじです。最初の30分ほどは劇中劇になっています。李がつげ義春の『海辺の叙景』を元に脚本を書いた映画が上映されているのです。その内容は一組の男女が海辺で知り合い、親しみを感じ合うというものですが、その映画を観て自分の才能の無さを感じてしまうのです。そして旅に出る。旅先で出会った旅館の主人との交流で行き詰まっていた自分の心が解放されていくという心象風景を描いており、特別なドラマもなく、静かに淡々と進行し、そして突然終了します。瞬間、あれっと思いますが、その後に不思議な余韻が残るのです。
日常生活に疲れたり、限界を感じている人達にとっては、一人旅というものは日常を忘れさせてくれ、新たな一歩を踏み出すきっかけを与えてくれるものなのかもしれません。この映画はそのような人達への静かなるエールになっているのでしょうか。
それでは今日はこの辺で。