今年最初のキネマ旬報シアターは『ヒトラーに屈しなかった国王』でした。何故かヒトラー関連が多いです。但し、題名にヒトラーと付いていますが直接ヒトラーが出てくるわけではありません。第二次世界大戦時のノルウェー国王の決断を描いた映画です。
監督:エリック・ポッペ
主演:イェスパー・クリステンセン、カール・マルコヴィクス、アンドレス・バースモ・クリスティアンセン
制作:ノルウェー、2017年公開
1905年、ノルウェーは隣国スウェーデンから独立し、国民投票により立憲君主制の国家に生まれ変わりました。国王は議会の満場一致でデンマークのカール王子を迎え入れました。カール王子はホーコン7世として即位しました。
それから35年経った1940年、第二次世界大戦の戦火はノルウェーまで忍び寄ってきました。英仏との戦争においてナチス・ドイツにとってノルウェーは地理的に重要な位置を占めていました。ヒトラーは何としてもノルウェーを我が手に落とそうと躍起になっていました。そしてノルウェー沖に軍艦を進め、威嚇してきました。ノルウェーはこれを敵とみなし軍艦を砲撃し沈めました。これを機にドイツはノルウェーに対し攻撃を仕掛けてきました。
ノルウェーの内閣は首相が弱腰で内閣総辞職を願い出ますが、議長がこれを認めません。本来、国王は政治に対する権限はないのですが、この時は異例の措置で、議長に同意し内閣の継続を要求します。
そうこうしているうちに、ドイツの空襲は激しくなり、国王一家と政府は首都オスロから脱出し北部の街へと移動します。
一方、ドイツのノルウェー駐在公使ブロイアーは本国からノルウェー政府に対しドイツの要求を受け入れるよう説得しろとの命令が下ります。ノルウェー外相は我が国は独立国であるとしてこれを拒否します。
ここでノルウェー国内でクーデターが起きます。政府がオスロを去ったのを機にこれまでの野党が政権を奪取したと宣言します。そして新政権はドイツの侵攻を認めます。しかしこの政権は国民に認められたわけではありません。国王が信任する手続きは出来ていません。
ブロイアーはドイツ外相のリッペンドロップに電話して「あの政権を国王に認めさせることは無理、考え直してほしい」と依頼しますが、途中でヒトラーに電話が代わり、「何とかして来い」と言われます。ヒトラーに命令されたら従わざるを得ません。
何とか国王に会える手はずをして、国王と面会します。ブロイアーはドイツの侵攻さえ認めてくれれば、新政権を認めなくてもよい、それさえ認めればヒトラーも納得するはずだと、国王に迫ります。しかし、国王は我が国は民主国家だ、私が決めることはできない、議会に相談して返事をすると突っぱねます。そして議会はこれを拒絶します。
途端に国王、政府に対する空爆が始まります。そして戦争へと突入します。
1945年のドイツ降伏によって第二次世界大戦のヨーロッパ戦線は終了します。
その間、国王と皇太子はイギリスに亡命、皇太子妃と王子たちはアメリカに亡命していました。そして終戦とともにノルウェーに帰還しました。
国王はノルウェーの民主主義を守った英雄になりました。一方ブロイアーは交渉失敗の責任を取らされて東部戦線に送られソ連の捕虜となり、1969年に死亡しました。
国王はヒトラーに屈服することでノルウェー国民の命を守るか、ノルウェーの民主主義を守るかの二者択一で悩みました。国王の兄、デンマーク国王はやはりドイツに攻められ、国民の命を守るためにあっという間に降伏しました。ブロイアーがそのことを国王に進言すると国王は烈火のごとく怒り、兄とは関係ないと一喝します。あくまでも自分は民主主義の国民投票で選ばれた初めての国王であり、その民主主義を守らなければならないとの強い使命感があったのでしょう。
世界の歴史の中で、このようにその後の国家や世界の将来を左右する様な判断をしなければならない場面というのは数多くあるのでしょうが、その判断が正解なのかあるいは誤りなのかはその後の歴史の評価に委ねるしかないことなのでしょう。
ノルウェーにとって、ホーコン7世の存在は今でも燦然と輝く星のような存在のようで、この映画もノルウェー人の7人に1人が鑑賞するという大ヒット作となり、アカデミー賞外国語映画賞のノルウェー代表作に選ばれるなど、多くの映画賞を受賞しました。
ブロイアー役のカール・マルコヴィクスは『ヒトラーの贋札』に、ブロイアーの妻役のカタリーナ・シュットラーは『ヒトラー暗殺/13分の誤算』に、ブロイアーの秘書役のユリアーネ・ケーラーは『ヒトラー~最期の12日間~』にそれぞれ出演していて、ヒトラー映画との縁も深いです。
この映画はドイツ侵攻後の緊迫の3日間を中心に描いています。ノルウェーの歴史には詳しくなかったので大変興味深く観ることが出来ました。136分と比較的長い映画でしたが全く飽きることなく鑑賞できました。
今年一発目の映画は気合が入りました。これからが楽しみです。
それでは今日はこの辺で。