Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

映画『COLD WAR あの歌、2つの心』を観る

今日のキネ旬シアターは『CALD WAR あの歌、2つの心』でした。

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監督:パヴェウ・パヴリコフスキ

主演:ヨアンナ・クーリグ、トマシュ・コット、ボリス・シィト

制作:2018年 ポーランド、イギリス、フランス

 

この映画はカンヌ国際映画祭パルムドール賞を競い、監督賞を受賞しました。ヨーロッパ映画賞では5部門で受賞、アカデミー賞にも外国映画部門でノミネートされた他数多くの表彰を受けました。

監督のパヴェウ・パヴリコフスキは今やポーランドを代表する監督です。2013年の前作『イーダ』アカデミー賞外国映画賞を受賞しました。

 

映画の内容は1949年から1964年までの時代を背景に、ポーランドの音楽舞踊学校で知り合ったピアニストのヴィクトルと歌手志望のズーラとの恋愛物語です。といってもただの恋愛物語ではなく、その時代背景を写し出しながら二人の運命を描いていくというものです。

 

1949年というと冷戦の真只中です。ポーランドソ連の傀儡政権が一党独裁体制を敷いていました。民族舞踊団でピアノを弾き、入団試験の試験官をしているヴィクトルは入団試験に集まった大勢の歌手志望者の中でズーラという女性の歌声に惹かれます。そして彼の後押しでズーラはマズレク舞踊団に入団できました。

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やがて二人は愛し合うようになります。しかし、西側の音楽に興味を持つをもつヴィクトルは政府の監視を受けるようになります。その監視役は舞踊団の管理部長カチマレクです。カチマレクはズーラにその役目をさせていたのでした。ズーラは父親を刺した罪で執行猶予中だったのです。したがってカチマレクの言うことをきくしかなかったのです。ズラーはそれをヴィクトルに打ち明けました。それでも二人は離れられませんでした。

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やがて舞踊団は実力もつき海外遠征もするようになりました。モスクワ、ベルリンと公演が行われました。そしてベルリン公演の後、ヴィクトルはズーラにパリへの亡命を持ちかけます。待ち合わせ場所で待つヴィクトリアですが、ズーラは来ませんでした。止む無くヴィクトルは一人でパリへ向かいました。

 

2年後、パリでヴィクトルはピアノを弾いて生計を立てています。ズーラは舞踊団のパリ公演のためにやってきて、二人は再開します。今は互いに恋人がいることを認めます。それでもまだ愛し合っていることも確認します。

 

時は流れて、ヴィクトルは舞踊団のユーゴスラヴィア公演へ向かいます。公演の後、ポーランドの警察にパリへ強制送還させられます。

 

また時は流れて、ズーラはパリへやってきます。結婚したので合法的にやってきたと言います。そして二人は共に暮らします。ヴィクトルは映画音楽の仕事や作曲、編曲をこなしたり、クラブでジャズの演奏をしています。ズーラも歌手としてポーランドの歌をジャズ・アレンジで歌いレコードも出します。

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しかしこのパリでの生活は二人の関係を怪しくしていきます。ズーラはヴィクトルのかつての恋人で詩人に嫉妬し、ヴィクトルはズーラの怠惰な生活や友人との不倫などで嫌気がさしてきます。そんな時、ズーラはポーランドへ帰ってしまいます。意気消沈したヴィクトルはズーラを追ってポーランドへ帰ります。

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しかし、ヴィクトルは捕まり、15年の強制労働を言い渡されます。その手はもうピアノを弾ける手ではありませんでした。そこにズーラが現れ必ず釈放させると言います。そしてヴィクトルは釈放されたのです。そして舞踊団の舞台を観に行きます。ズーラは舞踊団で歌っています。カチマレクがズーラとの間に出来た子供を抱いていました。ヴィクトルを助けるためにカチマレクと結婚したのでしょう。

 

舞台を終えたズーラは主人も子供も無視しヴィクトルに駆け寄り、「私をどこかへ連れてって」と言います。そして二人バスに乗りは廃墟となった教会へ入ります。そこで結婚を誓います。祭壇には睡眠薬があります。二人はそれを飲みどこかへ消えてゆくのでした。

 「cold war あの歌、2つの心」の画像検索結果

 

第2次世界大戦中、ナチスの占領下にあったポーランドがドイツの敗戦により、戦後解放されました。しかし、それは一時のこと。続いてはソビエト連邦による共産党一党独裁体制での国家づくりとなったのです。

 

この映画はそうした社会背景を直接は表現していませんが、音楽の使われ方でそれを感じます。ある意味で音楽映画です。最初はポーランド民族音楽が流されていますが、次第にソ連に気を使いスターリン賛歌やロシヤ民謡を歌わされるようになります。パリでは西側を代表する音楽ジャズとロックンロール、そして最後はラテン・ミュージックです。「2つの心」というポーランドの歌を前半部分ではマズレク舞踊団が合掌します。後半のパリではジャズ・ヴォーカルとしてズーラが気だるく歌います。この東側と西側の対比が面白いのです。

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この映画は80分という短い映画で15年間を描いています。時はどんどん進みますが、その間の説明は一切ありません。会話も少なめです。余計な部分は語らないのでしょう。映像と音楽で想像するしかありません。私もこの文章を想像を含めて書いています。そのギリギリまでに削ぎ落したストーリー性が逆に緊張感を生み、ラストの二人の愛の結末に生きてきたのでしょう。

 

二人の純粋なラブストーリーという単純な映画ではありません。男はひたすら女を求めますが、女はしたたかです。スパイを演じたり、パリ亡命はドタキャン、愛のない結婚・出産。男はそれに翻弄されるように自分の人生を彼女に委ねていきます。そして最後まで「世界の果てまで一緒よ」というズーラの言葉どおりになりました。やはり女は強い、です。

 

それにしてもラストで平原の十字路の隅に座る二人の風景はとても印象的でした。そこでズーラが「あちら側へ行きましょう。もっと綺麗な景色よ」と言って歩き出し、画面から消えます。画面には風になびく草むらだけが映し出されました。この画面での白黒映像は抜群の効果でした。久々の極上ラブストーリーでした。

 

自国のアイデンティティさえ持てなかった国の男女を通して重苦しい時代を映し出した映画です。モノクロでスタンダードサイズの画面がその時代性を映し出しているようで印象的でした。このような映画を以前観た様な気がしたのですが、思い出せませんでした。

 

近年のポーランドは若者の流出に歯止めがかからないようです。国としての危機感を感じ対策に追われているというニュースが報じられています。

 


映画『COLD WAR あの歌、2つの心』予告編

 

それでは今日はこの辺で。