昨日のキネ旬シアターは『男と女 人生最良の日々』でした。
監督:クロード・ルルーシュ
音楽:フランシス・レイ
主演:ジャン=ルイ・トランティニアン、アヌーク・エーメ
製作:2019年 フランス
この映画はなんと1966年に上映されたフランス映画『男と女』の続編です。いや、正確に言うと続々編です。
1986年に『男と女Ⅱ』という続編が上映されました。
私が『男と女』を観たのが1970年頃だったと記憶していますから、再々上映ぐらいだったのでしょう。ストーリーはほとんど憶えていません。まだ高校生だったので中年子持ちの恋愛とはこんなものか、というような印象だったと思います。フランシス・レイが作曲したテーマ曲の「ダバダバダ、ダバダバダ」というのはあまりにも有名で、それを聴きたくて観に行ったのかもしれません。
残念ながら続編の『男と女Ⅱ』は観ていません。続編はちょうど主役の二人の20年後を描いていたようです。
そして今回の『男と女 人生最良の日々』は53年後の二人ということになります。監督も音楽も主演もそのままに制作されました。
残念ながらフランシス・レイは2018年に亡くなっています。これが遺作となりました。フランシス・レイといえば映画音楽の世界では第1人者でした。この『男と女』が出世作となり、以後『パリのめぐり逢い』『個人教授』『白い恋人たち』『雨の訪問者』『あの愛をふたたび』『ある愛の詩』など映画音楽というジャンル確立の立役者でした。『ある愛の詩』ではアカデミー賞の作曲賞を受賞しました。監督のクロード・ルルーシュとのコンビも数多くありました。
クロード・ルルーシュはこの作品が49本目で、その内35本をフランシス・レイとのコンビで制作しました。現在も健在で50本目を制作中とのことです。彼もこの『男と女』で芽が出ました。
主演のジャン=ルイ・トランティニアンは現在89歳。『危険な関係』や『流れ者』『Z』など多くの作品に出演しています。この『男と女』で一躍有名になった俳優です。
もう一人の主演、アヌーク・エーメは現在87歳。フェリーニ監督の『甘い生活』や『82/1』などの出演があります。その他『太陽は傷だらけ』など出演多数。『男と女』でゴールデングローブ賞を受賞しています。
これらの人たちが再会して出来上がった作品が『男と女 人生最良の日々』ということになります。
今回の映画では、かつてレーシング・ドライバーだったジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニアン)は認知症で過去の記憶もあいまいになっています。心配する息子がかつて愛した恋人アンヌ(アヌーク・エーメ)を探し出して再会させるというお話です。
ジャン・ルイはアンヌに会っても思い出せません。しかし、「あなたによく似た女性をかつて愛した」と語ります。そしてアンヌについて多くを語り始めます。アンヌは自分がどれだけ愛されていたかを悟ります。
さて、ジャン・ルイはアンヌを思い出すのでしょうか、そして二人の恋の行方は・・・
中年の恋愛から老人の恋愛になりました。それにしても53年も経って同じスタッフ・キャストで同じ映画の続編を撮るなんて長い映画の歴史の中でも初めてではないでしょうか。また、それに立ち会えた私自身も奇跡のようです。アヌーク・エーメもジャン=ルイ・トランティニアンも、メーキャップのせいもあるのでしょうが見事に年老いました。すでに90歳も近いので当たり前ですが。しかし、魅力的な年老い方です。
もうこれはストーリーなどどうでもよくなってきます。「ダバダバダ」を聴きながら、ただ画面に酔いしれているだけでいいのです。クロード・ルルーシュはもともと洒落た映画を撮るので有名ですが、今回も実に洒落た映画です。懐かしの『男と女』の回想映像をふんだんに取り込んでいます。これによって忘れていた『男と女』が甦ります。
男と女の違いがよく表されていました。男は過去を引きずる。女は過去を断ち切る。必ずしもそうとは限らないでしょうが、我が経験からもこのジャン・ルイの気持ちはよくわかります。認知症になっても忘れられない人がいるというのはある意味幸せなことだと思います。
果たして、私が認知症になっても忘れられない人は誰でしょうか。楽しみです。
それでは今日はこの辺で。