昨日のキネ旬シアターは『早春』でした。『早春』といっても小津安二郎監督作品ではありません。
監督:イエジー・スコリモフスキ
制作:イギリス、西ドイツ合作 1970年公開(日本公開は1972年)
この古い映画が今頃再上映とは驚きました。今までDVDの発売も無しで、今回デジタルリマスターで46年ぶりの再上映とは一体どういうことなのでしょうか。
映画のストーリーを簡単に書くと、15歳の少年が学校を辞め、ロンドンの公衆浴場に就職するところから始まります。
少年マイクは、先輩従業員のスーザンに指導されながら、徐々に彼女に好意を持ち始めます。しかし彼女は奔放な生活ぶりで、婚約者がいながら、他の男性とも付き合っています。
マイクは気持ちが抑えきれなくなっていき、次第に今で言うストーカーまがいの行動に出るようになります。そしてついには・・・・
という、思春期男子の苦悩と危うさを描いた青春映画です。今の男の子はこんな気持ちを理解できるのでしょうか。
監督のイエジー・スコリモフスキはポーランド出身です。
ポーランドの映画監督というと私たちの世代では、すぐにアンジェイ・ワイダ、イエジー・カワレロウィッチやロマン・ポランスキーの名前が浮かびますが、このイエジー・スコリモフスキもアンジェイ・ワイダの1960年の作品『夜の終わりに』やロマン・ポランスキーのデビュー作『水の中のナイフ』の脚本を書いています。
ポーランド映画で印象深いのは、古いところではやはりワイダ監督の『灰とダイヤモンド』『地下水道』、カワレロウィッチ監督の『夜行列車』、ポランスキー監督の『反撥』『吸血鬼』『ローズマリーの赤ちゃん』などが鮮烈に記憶に残ります。
最近では(最近でもないか)『カティンの森』(ワイダ)や『赤い航路』『戦場のピアニスト』(ポランスキー)などが思い出されます。
今回の『早春』はこういった傾向からはちょっと違う、青春の無軌道さと性に対する羨望を描いたような作品です。私の勝手な思い込みで、今まで観てきたポーランドとはずいぶん趣が違ったなという感想でした。
それも当然で、舞台はロンドン、おそらく1960年代末あたりでしょうか。スウィンンギング・ロンドン時代のファッションに彩られています。
女優のジェーン・アッシャーはまさに当時の女性のファッションを思い起こさせてくれました。マイク役のジョン・モルダー=ブラウンは大昔のマーク・レスター(小さな恋のメロディ)のようなイケメン坊やで、こういう二人だから映画が引き立つのでしょう。
1970年代にこの映画を観ていたら、おそらく今とは全く違う感想を抱いたでしょう。
ラストのプールのシーンの映像の鮮やかさには感動します。これはデジタルリマスターの効果もあるのでしょうが、この色使いには驚きます。
音楽はイギリスのシンガー・ソングライターのキャット・スティーヴンスとドイツのプログレバンド、カン(CAN)です。
キャット・スティーヴンスは当時日本でも「雨にぬれた朝」のヒットで人気がありました。来日公演も行いましたが、70年代後半に活動中止。その後2000年代に音楽界に復帰しました。
またカンはジャンルでいうとプログレに括られていましたが、実際はジャズから現代音楽、実験音楽とジャンル分け出来ないバンドでした。映画の中でも効果的に使われていました。1979年に解散。
イエジー・スコリモフスキ監督は1967年の『出発』でベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞しています。この作品にはヌーベルヴァーグ映画でおなじみのジャン=ピエール・レオが出演しています。最近では2008年に17年ぶりの監督作品『アンナと過ごした4日間』が公開されています。その後も『エッセンシャル・キリング』『イレブン・ミニッツ』が公開されています。2016年にはヴェネツィア国際映画祭で生涯功労金獅子賞を受賞しています。また俳優としても活躍しています。
なんとなく懐かしさに浸れた1日でしたが、この作品が今になって上映された謎は解けませんでした。
映画「早春 デジタル・リマスター版」予告 2018年1月13日公開
それでは今日はこの辺で。