先日のキネ旬シアターは『月』でした。
原作:辺見庸『月』
監督:石井裕也
製作:2023年 日本
「相模原・津久井やまゆり園」の大量虐殺事件を題材にした辺見庸の小説を映画化した作品です。監督は『舟を編む』の石井裕也監督。
元有名作家だがあることがきっかけで書けなくなった堂島洋子は深い森の奥にあるの重度障害施設で働き始めます。アルバイトをしながらアニメ映像作家を目指す夫・昌平と二人で慎ましい暮らしをおくっています。施設の職員には作家を目指す陽子や絵が上手な青年さとくんらがいます。入所者には視力と聴力がなく動くこともできないきーちゃんがいました。
子供を亡くした洋子はそのきーちゃんに親近感を抱くようになりました。ところが施設では入所者に対する暴力が振るわれていました。洋子がそのことを園長に報告するも取り合ってくれません。一方、さとくんも施設内の問題に怒りを抱えていました。その怒りはやがて正義感と使命感となってある行動に移っていくのですが・・・。
まだ記憶に新しい津久井やまゆり園の大量虐殺事件。この事件によって障害者施設の実態が少しは明らかになりましたが、本当のところは経験した人でなければわからないのでしょう。この施設で働いていた犯人はやがて「生産性が無い人間は生きてる価値がない」という優生思想に取り憑かれるようになりました。
これは明らかな差別意識。ある自民党の女性議員にも同性カップルに対して似たような生産性発言がありました。映画の中のさとくんは「心がない人間は人間じゃない。だから排除する。間違っていませんよね?」と、洋子に問います。洋子は「それは間違ってる」と応えますが、自分の心の中に潜んでいる優生意識を否定できないでいる自分に気が付きます。洋子にも障害児を失くしたという過去があったのです。そして新たに妊娠した子を産むことで悩んでいたのです。
先日の映画『正欲』でも性意識に対する差別が描かれていましたが、マイノリティに対する差別意識が心の何処かに潜んでいることは否定出来ないのではないでしょうか。
さとくんは「あなたに心はありますか?」と入所者に尋ねながら犯行に及びます。まさに使命感に取り憑かれたように次々と実行します。そして達成感に浸ります。原作はどうなっているのかわかりませんが、この犯人を主人公にするとどのような内容になったのでしょう。興味が沸きます。
辺見庸の作品はいくつか読んでいますが、この小説は未読でした。彼は小説家ですが、ドキュメンタリーも数多く書いています。おそらく書かずにはいられないという心境で書いたのでしょう。原作ではその犯行シーンがどのように描かれているのかはわかりませんが、映画では残虐なシーンは無かったのがせめてもの救いでした。
最初から最後まで重苦しい気分の2時間30分でした。
それでは今日はこの辺で。