Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

『ニーゼと光のアトリエ』を観る

今日のキネ旬シアターは『ニーゼと光のアトリエ』でした。

監督:ホベルト・ベルネール

主演:グロリア・ペレス

2015年の7ブラジル映画です。

 ポスター画像  f:id:lynyrdburitto:20170522135201p:plain

ブラジル映画というと、私の場合『黒いオルフェ』(これまた古い)ぐらいしか見た記憶がありません。ほとんど初体験のようなものでした。

この映画はニーゼという実在の女性精神科医の話です。

1944年、リオ・デジャネイロの国立医療センターに再赴任したニーゼは、精神病患者に対する治療方法が電気ショックや外科手術(ロボトミー手術)など暴力的な治療が中心に変わってきてしまっていることにショックを受けます。その治療方法に反対するニーゼは窓際の作業療法所の責任者に指名されます。着任するとやる気のない看護師たちとまったく生気のない、または暴力的な患者たちが待っていました。

ニーゼは手始めに薄汚れた作業所の掃除から始め、患者の様子をじっくりと観察します。暴れる患者を暴力で押さえつけようとする看護師にも、手出しを許さず、好きなようにさせなさいと命令します。

ある日、ニーゼは患者に絵筆を持たせてみたいとの提案を受けます。半信半疑でニーゼはやらせてみました。すると患者の中に絵筆を持って、キャンバスに絵を描くものが現れ、中には初めから素晴らしい絵を描く患者までいました。そしてその輪は徐々に広がり多くの患者が絵を描き始め、その表情や行動はは穏やかになっていきました。ニーゼは無意識を自由に表現させることが大切なのだと気づきます。

さらに施設内で犬を飼い始め、動物療法のようなことも始めました。しかし、病院施設内で犬を飼うことは禁止されており、すぐにやめなさいと警告されます。それでもニーゼは頑として言う事を聞きません。ある日、犬は皆殺しにされました。患者のショックは大きく、中には看護師に暴力をふるい大けがをさせてしまった者もいました。その患者は、ニーゼの反対にも拘わらず、手術を受けさせられました。

それでも絵画や彫像による治療方法の効果は大きく、退院できる患者まで出てきました。そしてブラジルでも著名な美術評論家がその絵の芸術性の高さを認め展覧会の開催を提案します。ニーゼは心理学者のユングに芸術療法の効果についての書簡を送り、ユングもそれを絶賛しました。やがて、展覧会は開催され多くの観客の感動を与えました。

最後に患者の実際の映像や写真は公開され、さらにニーゼの実際の映像が流されました。

この当時の精神病患者(統合失調症)に対する治療法というのは大体が外科的療法だったということです。この映画の中でもニーゼのように外科的療法以外の精神療法を唱えるのはごく少数で、しかも男性優位の社会の中で芸術療法なるものを実践していく苦悩は相当なものっだたことは簡単に推測されます。それでもニーゼが権威主義の男性医師に屈服することなく、自分の確信に基づく治療方法を貫く強さには感服します。

ロボトミー手術は1949年にはノーベル生理学・医学賞をとったそうです。しかし、術後廃人同様になった患者の家族からは抗議を受けた例もあったようです。ロボトミー手術というのは映画でも説明されていましたが、前頭葉の神経をアイスピックで切断するという乱暴な手術です。患者のその後1950年代になるとその治療方法が人道的に問題があるとして廃止されるようになったそうです。また電気ショック療法というのは高圧の電流を患者の首に当て、一時的に暴れるがその後はおとなしくなるという、なんとも乱暴な非人道的な療法です。これも映画で実演していましたが、こういう治療で統合失調症が治るなんて本気で考えていたのでしょうか。恐ろしいです。というか、精神を病んだ患者は人間扱いされていなかったという事でしょう。

オープニングの場面でニーゼが病院の門を叩きますが誰も出てきません。しつこくしつこく叩いてようやく開けてもらいます。この場面で象徴されているように女性への差別そしてさらに精神病患者への差別など当時のブラジルだけではなく世界的な社会風潮を描いた作品でした。

最後にニーゼ本人が「1万人いたら1万通りの生き方、人生がある」と言っています。彼女が言うと重みがあります。