先日のキネ旬シアターは『MINAMATA-ミナマタ-』でした。
監督:アンドリュー・レヴィタス
製作:2020年 アメリカ合衆国 2021年 日本公開
アメリカの著名な写真家ユージン・スミスが遺した写真集を基に、俳優のジョニー・デップが制作・主演を兼任して映画化した作品です。
先日観た『ジャズ・ロフト』はやはりユージン・スミスが遺した膨大な写真と録音を基に1950年代から60年代にかけてのジャズ・セッションを描いた作品でした。このタイミングで『ジャズ・ロフト』が日本で公開されたのは、やはりこの『MINAMATA -ミナマタ-』の宣伝も兼ねていたのでしょう。
映画の方はこの『ジャズ・ロフト』の後の物語です。
ユージン・スミスは戦争写真が高い評価を受けアメリカを代表的する写真家として認められていましたが、今は酒に溺れてすさんだ生活を送っています。
ある日、アイリーンと名乗る女性から日本の熊本県水俣市で起きている問題を写真家として取り上げて欲しいと依頼されます。ユージンは戦争中に沖縄の取材で体験した出来事で日本に対するアレルギーを持っていたので断ります。ところが後でその資料を読み、日本を訪れる決断をします。通訳としてアイリーンも同行します。一方、「ライフ」の編集長に日本で起きている公害問題の特集を組むように依頼します。
水俣市を訪れたユージンは驚くべき実態を目の当たりにするのです。住民たちは神経症に苦しんでいました。原因は株式会社チッソが流す水銀を含んだ廃水でした。しかし、チッソも政府もそれを認めません。ユージンは写真を撮ろうとしますが、住民たちは差別を恐れて協力を拒みます。それでも協力してくれる連中も現れるのでした。ユージンは彼らと共に写真を撮り続けるのでした。
ある日、ユージンはチッソの社長に呼び出されます。社長は5万ドルでこの件から手を引けと迫ります。ユージンはキッパリと断ります。その直後からユージンは嫌がらせを受けることになります。それでも取材を続けましたが、ユージンが留守にした隙に写真や資料を保管した空き家が放火されてしまいました。さすがにユージンも心が折れますが、「ライフ」の編集長に叱咤激励され再び取材を開始します。
チッソの株主総会の日、ユージンは取材に出かけました。工場の前には500人もの人が集まり、ユージンはその写真を撮り始めます。するとチッソの社員と住民が衝突、暴動騒ぎになりました。ユージンもこれに巻き込まれ、チッソの社員から暴力を振るわれ重傷を負い病院に搬送されました。脊椎骨折と片目の失明でした。
入院中のユージンをチッソの社員が訪れます。彼の母親は水俣病患者で、ユージンに対する暴力を謝罪し、火事で失われた思われたネガを返したのです。「ライフ」に送られた写真を見た編集長は感銘し、特集記事を組みました。これが世界中で話題となり、チッソも認めざるを得なくなりました。そして裁判でチッソ側の過失が認められ住民たちの勝訴となりました。しかしそこには晴れがましい笑顔はありませんでした。
ユージンとアイリーンはその後結婚しましたが、1978年にユージンはこの時の怪我が遠因で亡くなりました。59歳でした。住民たちの苦しみは今なお続いています。
ユージンが初めて水俣を訪れた時に世話になった家の娘・アキコは水俣病を患っていました。ユージンは「アキコの写真を撮らせて欲しい」と頼みますが、主人は「それは勘弁してください」と断ります。しかし、ユージンが大怪我をしてもなお水俣のために写真を撮り続けるを知ると、その撮影を許可してくれました。そして母子の入浴シーンの写真は多くの人に感銘を与えたのです。このシーンでは思わず涙が出てしまいました。
人類は科学の発展、人類の進歩という名のもとに、結果多くの犠牲を払ってきました。さも、人類の進歩のためには、若干の犠牲もやむを得ないのだとでも言うように。戦争しかり、公害しかり、原発しかり。しかし、その後遺症は未だに消えないのです。
水俣闘争を主導し、勝利を勝ち取った住民たちに敬意を表します。
それでは今日はこの辺で。