Flying Skynyrdのブログ

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映画『レ・ミゼラブル』を観る

昨日のキネ旬シアターはレ・ミゼラブルでした。『レ・ミゼラブル』といっても、あのビクトル・ユゴーの小説を映画化したミュージカル映画ではなく、今年公開された、小説とは無関係な映画です。

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監督:ラジ・リ

主演:ダミアン・ボナール、アレクシス・マナンティ、ジェブリル・ゾンガ

製作:2019年 フランス 2020年 日本公開

 

第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞、台5回セザール賞では4部門受賞、第92回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、韓国映画『パラサイト』と競い合ったという映画です。

この映画は実話を元に製作されています。

ビクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』の舞台となったパリ郊外のモンフェルメイユ。このは今や移民や低所得者が多く住んでいる犯罪多発地域となっています。

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2018年、ワールドカップ優勝に沸き立つフランス・パリ。その近郊の街で犯罪防止班に新しく加わることになったステファンは仲間と共にパトロールするうちに、移民問題や宗教対立など街の複雑な力関係やきれいごとでは犯罪防止などできない現実に行き当たります。仲間の警官は白人のクリスと黒人のグワダです。二人とも暴力には徹底的に暴力で抑え込むという姿勢です。そして絶対に謝るな、という信念で働いています。

レ・ミゼラブル : 作品情報 - 映画.com

 

そんな中、サーカスのライオンの子供が盗まれるという事件を起きます。この事件をきっかけに街を仕切る複数のグループが緊張関係に陥ります。ステファン達はライオンの子供を探し始めますが、そこで犯人がイッサという黒人少年だということが判明します。イッサは盗みを繰り返し、親には虐待を受けていました。ステファン達はイッサを追いかけますが、悪いことにクリスが逃げるその少年をゴム弾で撃ってしまいます。それがあろうことかドローンで撮影されていたのです。幸い命に別状はありませんでしたが、これが引き金となって事態はさらに悪化してゆきます。

 

ドローンで撮影していたのはやはり黒人の少年でした。警官たちはそのSDカードを取り戻すことに必死になります。これが公になったら大暴動が起きてしまいます。それでなくても街は警察と市民とが一触触発の無法地帯と化しているのです。何とかステファンがSDカードを平和的に取り戻します。しかし、これで問題が解決したわけではありませんでした。

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そしてとうとう市民による暴動がおこります。しかし、この暴動の主役は黒人の子供たちでした。激しい暴力が警官や大人たちに対して向けられます。子供たちは大人たちの解決の仕方に反抗したのです。貧困層が住む団地に誘い込む少年たちを追いかけてステファン達3人も団地へと突入します。そこには迫撃砲や火炎瓶による攻撃が待ち構えていました。怪我を負うクリス。応援を呼ぶステファン。階段の上にはイッサが火炎瓶を持ち、今にも投擲しようと構えます。階段の下ではステファンがたまらず銃を構えて狙いを定めます。そして睨みあいが続きます。果たしてその結果はどうなるのでしょう。

 

物凄い映画でした。現在、アメリカを始め世界中で黒人差別に対するデモが行われています。元を糺せば、白人警官による黒人殺害でした。取り締まりの行き過ぎによる殺害ですが、その奥底には黒人に対する憎悪感があったのでしょう。

この映画でも、グワダが黒人少年を撃ってしまったことについて、ステファンがその真意を糺すと、グワダは「抵抗を止めさせるためもあるが、それ以上に少年に対してむかついた」と白状します。感情が理性を超えて思わぬ行動を誘発します。アメリカで起きた警官による立て続けの黒人殺害事件もこれと同じ構図でしょう。権力が感情で動いてはいけません。

 

そしてこの映画が凄いのは子供たちによる発起です。大人たちの勝手極まりない解決の仕方に対する激しい抵抗です。子供たちの暴力に大人たちはなす術を持ちません。平和的な解決を信条とするステファンの叫びも届きません。ラストの20分は息をつかせぬ迫力がありました。

 

香港の国家安全維持法に反対する大規模デモも中国の国家権力の前に虚しく敗れ去りました。アメリカの差別反対デモの先行きは果たしてどうなるでしょう。アメリカの権力者は典型的な差別主義者です。世界中で民主主義などと言う言葉は死語になりつつあります。勿論我が国もしかりです。

 

レ・ミゼラブル」とは「哀れな人々」「悲惨な人々」という意味です。この映画で「哀れな人々」とは誰のことでしょう。

そして最後のエンドロールで「 世の中には悪い草も悪い人間もいない。ただ育てるものが悪いだけなんだ」というヴィクトル・ユゴーの言葉が流れます。

子供は親の背中を見て育ちます。

 

監督はマリ共和国出身で、小さい頃からこの街の住民です。華やかなイメージのパリに隠れて移民国家フランスにはこんな無法地帯があることにも驚きました。

 


映画『レ・ミゼラブル』予告編

 

それでは今日はこの辺で。