原作:ダリル・ポニクサン『Last Flag Flying』
主演:スティーヴ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーン
主題歌:ボブ・ディラン『Not Dark Yet』
制作:2017年 アメリカ 日本公開2018年
妻を亡くし、息子をイラク戦争で亡くした男が、かつてのベトナム戦争での戦友と30年ぶりに再会し、3人でその息子の遺体を引き取りに行くというロードムービーです。
2003年12月。ラリー・シェパード、通称ドクはサル・ネルソンが経営する酒場を訪れます。ネットで調べたのです。二人はかつて一緒にベトナム戦争に従事した戦友でした。30年ぶりの再会でした。一晩飲み明かします。そして見せたいものがあると誘います。
そこは教会でした。そこの黒人牧師はかつての戦友リチャード・ミューラーでした。昔荒くれ者だった男です。ベトナム戦争で怪我をし、今も杖を突いています。サルはかつての殴り屋が牧師になったミューラーの変貌ぶりに驚きます。
その後2人を家に招いて、ミューラーの妻を加えての食事中、ドクは妻を亡くしたことを告げます。さらに子供の話になった時に、ドクが自分の息子はイラク戦争で勇敢に戦って戦死したと話します。そして息子の遺体を引き取りにワシントンまでいかねばならないが、心細いので一緒に行って欲しいと頼みます。ミューラーは教会もこともあるし、2人といると昔のことを思い出してしまうからと渋りますが、妻の説得で行くことになりました。こうして3人の車での旅は始まりました。
サルはすっかり変わってしまったミューラーが面白くありません。ミューラーの方も成長しないサルに失望しています。しかし、道中のやり取りで、昔のような3人に次第に戻っていくのでした。
ワシントンに着いてアーリントン墓地に行きますが閉まっています。実際はデラウェア州のドーバー空軍基地で面会することになっていたのです。さっそく3人は夜通しでそこに向かいます。そして到着すると、息子の遺体に面会させろと言いますが、応対に出た息子の上官のウィリッツ大佐は「後頭部を撃たれており、損傷が激しいので遺体は見ないほうがいい」と言いますが、ドクはやはり会わなければいけないと無理を通します。そして遂に遺体と面会しますが、ドクはその遺体を見て愕然とし、気を落としてしまいます。
サルとミューラーは離れた場所で見守っていましたが、息子の同僚のワシントンに戦死したときの状況を聞かされれました。ワシントンの話によると、息子は戦闘による戦死ではなかったのでした。買い物の途中で後ろから撃たれたとのことでした。その買い物は本当はワシントンがするはずのものでしたが、かわりに息子が行ってくれたのでした。
ウィリッツ大佐は遺体はアーリントン墓地に埋めましょうと提案しますが、ドクは遺体は持ち帰り故郷で埋葬する。軍服ではなく高校の制服で埋葬すると言います。
遺体を運ぶためにレンタカーを借りようとしますが、不審に思ったレンタカー屋の女性が警察に連絡してしまいます。3人はテロリストと勘違いされ、遺体は再び軍に接収されてしまいます。やむを得ず3人はホテルに泊まることになります。
そのホテルで3人はベトナム戦争の時の話になりました。3人がずっと引きずってきたことが話し出されます。戦時中3人は死の恐怖から逃れるためにモルヒネを服用していたのです。ドクは衛生兵でしたのでモルヒネを所有していたのです。サルは特にひどく中毒状態になっていました。
ある日黒人兵士のハイタワーが撃たれ、瀕死の状態になりました。痛み止めとしてのモルヒネは既に使い果たしており、ハイタワーには処方してあげられませんでした。ドクはその責任を問われ刑務所行き。サルは軍に残りましたが、大怪我をして退役。ミューラーも責任を感じ牧師になりました。
翌日3人は再び遺体を引き取りに軍へ行き、ウィリッツ大佐の了解を取ります。そして列車で運ぶことになりました。ワシントンが付き添いで同行することになりました。ウィリッツ大佐は軍服を着せて埋葬してやれ、とワシントンにはっぱをかけました。
4人は列車の中でくだらない話をしながら打ち解けていきました。ドクも明るさを取り戻してゆきました。列車はニューヨークに到着。3人は久しぶりにニューヨークではしゃぎまわり、電車に乗り遅れてしまい、一晩酒場で過ごします。翌朝、列車に乗り、ワシントンと合流します。
そこから車でドクの家に向かいますが、途中でサルがハイタワーの実家に寄ろうと提案します。実家には母親がおり、3人は正直に謝るつもりでしたが、母親が息子は死ぬ前に3人を助けたと聞いていると言われ、その通りです、命の恩人ですと言うのが精一杯でした。「いったい何のための戦争だったの」の言葉が重く響きました。
家に戻って葬儀の準備を始めました。そしてやはり軍人として死んだのだから軍服を着せようとのことになりました。サルとミューラーはとも軍服を着て、軍隊式の葬儀を行いました。息子の遺体は母親の隣に埋葬されました。
葬儀後、ワシントンはドクに息子の遺書を渡します。軍隊の慣例で必ず遺書を書くことになっていました。ドクはそれを読みます。父親への感謝の気持ちと「自分は軍隊に入ったことを誇りに思う。死んだら軍服で埋葬して欲しい」と書かれていました。ドクは座り込んでうなだれます。サルはそっとドクの肩に手を置きます。
主題は何やら重たいですが、3人のギャグやトークで笑いに包まれます。それが救いとなっています。
戦争とは何を目的としているのか。イラク戦争は大量破壊兵器を隠し持っているからとの容疑で始めた戦争ですが、あくまでそれは大義名分だったのです。9.11への報復です。ただただイラク、フセイン憎しで始まった戦争でした。結局何も解決しませんでした。それどころかその後のイラクを見れば一目瞭然、事態は悪化の一途をたどりました。何のための犠牲者だったのでしょう。日本政府は一も二もなく賛成に回りました。
映画の中でサダム・フセインが捕まった時の様子がテレビで放映されている場面が何回か映し出されました。それとブッシュの勝ち誇った顔と。ドクは「フセインも子供を二人亡くしたんだな」とつぶやきます。
サルは「国も政治家も信用などできない。しかし戦った兵士たちに名誉があるのは当然だ」みたいなことを言います。戦争に何の意味も無いとなったら、国のためにと戦死した兵士たちは浮かばれないでしょう。
アメリカ服従の日本政府はこれからどこへ向かうのですか。8月9日、長崎原爆の日。被爆者と安倍首相のと面談で被爆者の質問に型通りの受け答えに終始した安倍晋三首相。被爆者からは「どのツラ下げて来たんだ」と言われる始末。世界唯一の被爆国、そろそろまともな判断をお願いしたいものです。
世間では何やら戦争を美化する動きが始まっているようです。法的な整備も始まってきています。現政権は少なくともあと3年は続きます。くれぐれもそのような時代にならないとこを願います。
エンディングではボブ・ディランの『Not Dark Yet』が流れます。これは1997年のアルバム『Time Out of Mind』からの曲です。「まだ暗くないよ、でももうすぐ闇になるよ」です。
それでは今日はこの辺で。