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映画『記者たち 衝撃と畏怖の真実 』を観る

昨日のキネ旬シアターは『記者たち 衝撃と畏怖の真実 』でした。

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監督:ロブ・ライナー

主演:ウディ・ハレルソントミー・リー・ジョーンズ

制作:2018年 アメリカ、2019年 日本公開

 

イラク戦争開戦の真実を探ろうとする記者たちの実話に基づいた映画です。

 

映画の冒頭、退役軍人のアダム・グリーンが車椅子姿で議会の委員会の公聴会に出席します。そこで議長に言いたいことを述べて下さいと促されます。アダムは用意してきた文書を読み始めますが、自分の言葉で話してよいかと了承を取り、議会の委員たちに質問します。「なぜ戦争を始めたのか?」と。

 

2001年9月11日、アメリ同時多発テロが発生。ジョージ・W・ブッシュ大統領は国連での演説で「テロとの戦い」を宣言します。テロの首謀者はオサマ・ビン・ラディンを主導するアルカイダである、そしてイラン、イラク北朝鮮悪の枢軸国と名指しし、イラクアルカイダと繋がり、大量破壊兵器を所有していると発表し、イラクへの侵攻を始めようとしていました。

 

一方、地方新聞31社を傘下に持つナイト・リッダー社のワシントン支局の支局長ジョン・ウォルコットは部下のジョナサン・ランデイとウォーレン・ストローベルにイラクが本当に大量破壊兵器保有しているかどうかを探るよう命令します。また、同時多発テロの首謀者と思われるオサマ・ビン・ラディンイラクとの関係を探るよう命じました。ウォルコットは政府の発表に疑問を感じていたのです。

f:id:lynyrdburitto:20190507130534p:plainアメリカ政府はビン・ラディンを追いアフガニスタンに侵攻します。ビン・ラディンを拘束することはできませんでしたが、アフガニスタンを解放したと勝利を宣言し、今度はイラクへの侵攻を開始しようとします。

 

記者たちは大量破壊兵器保有の証拠をつかめません。さらにビン・ラディンイラクとの関連もないことを取材から得ました。ウォルコットは元従軍記者で「伝説の記者」と呼ばれるジョー・ギャロウェイの協力を得て、政府への批判記事を掲載します。

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その頃、高校を卒業したアダム・グリーンは志願してイラクへ行くと両親に告げます。両親は必死に止めますが決意は固かったのです。自分はこの手でアメリカを守りたいと。

 

そんな時、ウォーレンとジョナサンに大量破壊兵器保有は嘘であるという情報がもたらされます。情報の出どころはペンタゴンの女性職員からでした。二人は政府の発表が嘘であることを報じますが、その他の大手メディアはイラクの脅威を煽る記事を書き、世論を誘導します。 最後まで懐疑的だった国務長官のパウエルも賛成に回り、国防長官のラムズフェルドの思惑は功を奏し、とうとう武力行使が議会で可決されます。

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2003年3月バグダットへの爆撃が開始されます。記者たちは結局戦争を止めることが出来なかったと落胆します。新聞社の無力を痛感します。

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アダム達兵士は砂漠を移動中に爆撃を受け、アダムは下半身不随となり車椅子生活になりました。

結局、大量破壊兵器は発見されず、戦争は長期化しました。今なおその影響は中東全土に及んでいます。ニューヨークタイムズは誤った報道に対し謝罪しました。

 

アダムはベトナム戦争没者慰霊碑を訪れ手を合わせました。そこで手を合わせている人物に声をかけました。「あなたもベトナムへ?」。その相手はジョー・ギャロウェイでした。

最後に本物の記者たちが登場し、当時を回顧します。

 

内容のボリュームからして90分は短かったかもしれません。

 

果たしてイラク戦争とは何だったのでしょう。テロ攻撃を受けたアメリカがその報復としてのアルカイダ、そしてその後ろ盾と考えたサダム・フセインイラクへの攻撃か。さらにアメリカが考える民主主義の押し付けか。しかし、そこには根拠が必要です。イラク大量破壊兵器保有をでっち上げ、正義を持って世論を煽り、戦争へと突き進んだのです。その政府に対し大手マスメディアはこぞって協力したのです。まさにプロパガンダでした。日本の小泉政権は何のためらいもなくアメリカを支持し自衛隊を派遣しました。

 

結果はどうだったでしょう。多くの犠牲者を出したにもかかわらず、大量破壊兵器は見つからず、イラクの治安は悪化し、内戦は長引き、シリアの内戦からISの台頭を許し、中東は泥沼状態になりました。イギリスのブレア首相は退陣に追い込まれました。いったい何のための戦争だったのでしょうか。未だにその歴史的意味も定かではありません。

 

日本がかつて中国へ進出し、やがて日米戦争へと進展していった 過程とよく似ています。日本は日本の正義を訴え、戦争を正当化しました。そしてそれを後押しして、国民を戦争へと駆り立てたのはマスコミでした。

 

政権が権力を行使するときに必ず必要になるのがメディアの協力です。イラク戦争ではアメリカの大手メディアも政権の後押しをする結果となりました。そうした中で敢然と反政府の記事を貫き通す勇気には脱帽です。しかし、結果的には戦争は止められませんでした。その無力感が伝わってきます。一つだけ、ニューヨークタイムズ謝罪記事を掲載したことにアメリカの良心を感じます。

 

最近の日本政府もメディアを盛んに利用しようとしています。そしてメディアの方もみんな同じ方向を向き始めたのではないかと危惧しています。天皇即位の報道などにもそれを強く感じます。果たして、今後の憲法改正論議に伴う国民投票法改正などについて政権に対するメディアの対応はどのようになるでしょうか。日本のメディアにも良心があるでしょうか。

 


【映画 予告編】 記者たち~衝撃と畏怖の真実~

 

それでは今日はこの辺で。