Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』を観る

昨日のキネ旬シアターは『ぼけますからよろしくお願いします。』でした。

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監督:信友直子

語り:信友直子

制作:2018年 日本

 

ドキュメンタリーを手掛けてきた信友直子が自分の両親の老々介護の風景を撮った映画です。

2014年、アルツハイマー認知症と診断された80代後半の母親を95歳の耳の遠い父親が介護するようになります。監督は自分が帰って介護をしようかと思いますが、父親が「介護は自分がする。あんたは自分の仕事をしなさい」と言われ、思いとどまります。そしてこの老夫婦のありのままの姿を残そうと決意します。

 

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舞台は広島県呉市

テレビディレクターの信友直子は大学進学のため上京してからずっと東京で一人暮らしをしていました。映像関係の仕事に就くのが夢でそれを職業に出来ました。両親はそんな直子を文句も言わず見守ってきました。ところが信友45歳の時に乳がんを発症。母が上京して、気弱になる娘を励まし、看病してくれました。その様子は『おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記』というドキュメンタリーで放送され大きな反響を呼びました。その頃から信友は両親の記録を取り始めます。

 「ぼけますから、よろしくお願いします。画像」の画像検索結果

 

しかし、2013年頃から母の様子がおかしくなってきました。そしてアルツハイマー認知症と診断されました。ここから父親の家事と介護の生活が始まります。父親は95歳にも拘わらず、娘に介護をさせずに自分で家事と介護を始めるのです。95歳になって初めての家事でした。

 

母親は独身時代は今でいうキャリアウーマン、30歳で見合い結婚。その後直子を出産。料理、裁縫は得意で明るく社交家でした。きれい好きで台所はいつもピカピカ。子育てが終わってからは書道、カメラなど多彩な趣味で人生を満喫していました。

 

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父親は文学青年で、大学へ入って文学を勉強しようと思っていましたが、戦争で軍隊へ。戦後は小さな会社の経理マンとして一家を養ってきました。向学心にあふれており、95歳になっても毎日英語や文学の勉強を欠かしません。そして新聞は隅から隅まで読んで、気になった記事は切り抜いて保管します。部屋は書籍や資料で一杯です。

 

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自分の好きな道に進めなかった後悔から、娘には小さい頃から好きなことをやりなさいと言うのが教えでした。ですから仕事を辞めて帰ってくることには反対なのです。「わしゃ、百まで生きる」が口癖です。どこまでも明るい父親です。

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そんな両親の愛情いっぱいに育てられた直子も広島と東京と離れてはいますが、両親のことが心配で頻繁に帰省するようになっています。

 

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母親の病状はどんどん進んでいきます。ついさっきやったことも忘れていきます。本人は自分が周りに迷惑をかけていることが悔しくて悲しくてなりません。「私はおかしくなってる。どうしたんだろう。」「迷惑かけてごめんね」が口癖のように出て来ます。

 

また父親は耳が遠いので意思の疎通がうまくできません。母親もイライラして次第に狂暴になっていきます。

父親は90度曲がった腰でゴミ出し、洗濯、掃除、炊事と頑張ります。しかし時には駄々をこねる母親を怒鳴りつけます。母親が「死にたい!」などといい続けると「死にたけりゃ、死ね!」と怒鳴り付けます。

 

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母親も嫌がっていたヘルパーやデイサービスを受け入れ、それなりに生活していますが、足腰がめっきり弱くなり、立つのも大変になってきました。それでもなんとか二人きりの生活を頑張っています。直子が家事を手伝うと申し出ても断り、あくまでも自分たちでやろうとします。

 

母親の病状が悪化していく中、この二人の生活を直子は撮り続けます。そのカメラはあくまでも冷静ですが、愛情が溢れています。思わず涙してしまいます。

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私共にはすでに両親はおりませんが、伯父伯母がまだ何人かおります。施設に入居している伯母もいます。息子夫婦と同居している叔母もいます。共に100歳を目前にして、二人きりで生活している伯父夫婦もいます。さすがに最近は娘・息子が様子を見に時々帰省していますが、その生活ぶりには頭が下がる思いです。しかしこれが超高齢化社会の日本の現実なのです。

 

私も老後は子供の世話になるつもりは毛頭ありませんが、ボケたらわかりませんね。

私にはこの映画の父親のような真似はどう転んでもできないでしょう。まさに尊敬に値する人物です。母親も出来ることはなんでも自分でやろうという意思の強さを持っていますが、さすがに病気には勝てません。見ていて胸が痛みます。

 

これからの日本にはこのような老々介護をする家庭が増え続けることでしょう。自分にとっても近い将来ですから考えさせられました。今日のドキュメンタリー映画は、そういう意味では大変な力作であり、感動作であり、そして問題作でありました。

 

 

 


映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』予告編

 

 

それでは今日はこの辺で。