先日のキネ旬シアターは『波紋』でした。
監督・脚本:荻上直子
製作:2023年 日本
『かもめ食堂』『川っぺりムコリッタ』などの作品で知られる荻上直子の監督・脚本作品です。出演者を見ただけでもワクワクします。
東日本大震災から10数年、須藤依子は「緑命会」という新興宗教の信者になっていました。そんなある日、震災後自分の父親の介護を押し付けたまま失踪した夫・修が帰ってきました。修は癌を患っていました。そのための保険適用外の高額な薬を買うため父親の遺産を目当てに帰ってきたのです。そして傍若無人に振る舞います。依子は新興宗教の「人を憎まず」という教えに従って必死に我慢します。
さらに、今度は息子の拓哉が聴覚障碍者の彼女を連れて帰ってきます。そして結婚するというのです。依子は彼女と二人きりの時に息子と別れてくれと頼みます。ところが彼女はこのことを拓哉に話したら親子の縁を切ると言うでしょう、と逆に脅してくるのです。
また隣の猫の侵入でお隣さんと揉め、パート先のスーパーではクレーマー客に怒鳴られ、依子のフラストレーションは貯まる一方。どうしたらいいのかわからない依子は新興宗教に縋るのですが、ある日パート先で女性清掃員の水木に出会います。その水木の「我慢などしなくていい」という言葉に依子は救われます。
ある日、水木が依子と共に通っていたプールで倒れ、入院することになりました。見舞いに行った依子は水木から飼っている二匹の亀が心配だという話を聞き、それならば自分が様子を見て来ますと彼女の住む団地へと向かいます。そして部屋に入ってみると・・・。
東日本大震災、原発事故、放射能汚染、夫の疾走、義理の父親の介護、息子の彼女の障碍、ご近所トラブル、クレーマー対応、夫の癌、無神経さ・・・、これらがすべて依子に降りかかってきます。依子は新興宗教に縋り、必死に堪えます。しかし、いい人ぶることに疑問を持ち、最後には自分を取り戻していく依子に拍手です。
決して暗くならず、ブラック・ユーモアたっぷりに、思わず笑ってしまうような場面や、よくある、ある的な場面もあって面白いです。キムラ緑子や木野花、江口のりこといった個性的な俳優が映画を盛り上げます。ラストの筒井真理子のフラメンコは圧巻です。今朝のテレビでも女性の「引きこもり」が増えているとのこと。女性の生きづらさをこの映画でも感じさせられました。
偉そうなことを言いながら汚染水が怖くて家出してしまう夫。かわいい子ぶって母親を脅す息子の彼女。人間、一皮むけば何が出てくるかわかりません。怖い怖い。
汚染水、水巻の水道水、新興宗教の緑命水、枯山水、プール、水面の波紋、ラストの天気雨、この映画は全編に水が流れています。
それでは今日はこの辺で。