Flying Skynyrdのブログ

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映画『存在のない子供たち』を観る

今日のキネ旬シアターは『存在のない子供たち』でした。

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監督:ナディーン・ラバキー

主演:ゼイン・アル・ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ

制作:2018年 レバノン 2019年 日本公開

 

シリア難民の過酷な現実を、レバノンを代表する女優であり監督であるナディーン・ラバキーがメガホンを撮った作品です。出演もしています。本作品は2018年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しました。

 

出演者はほとんどが素人で、主演の子役ゼインは役名もゼインで、実際のシリア難民です。現実にも働いて家計を助けています。母親役の彼女はレバノンでは就業を規制されている「第2級市民」として扱われ、実際に彼女の二人の子供は出生届を出していません。その他、実際にエチオピアの難民キャンプからレバノンに逃れた不法滞在者のホームレスなども重要な役で出演しています。

 

自分の年齢も分からない子供が自分の両親を訴えるという、前代未聞の裁判が開かれます。

手錠をかけられた少年・ゼイン。法廷に入ります。検事と共に原告席に座り、被告席には彼の両親が座ります。裁判長から年齢を聞かれると、「よくわからない、そっちに聞いて」と両親を指します。なぜ逮捕されたのかと問われると、「人を刺したから」、どうして両親を訴えたのかと問われると、「ぼくを生んだ罪で」と答えます。

「存在のない子供たち」の画像検索結果

 

時は遡ります。

ベイルートの貧民窟で暮らすゼインは、仕事をしない父親セリームの代わりに幼い7人の妹達と路上販売をしたり、大家のアサードが経営する雑貨店の手伝いをして、朝から晩まで働き、学校へも行かせてもらえません。両親はシリアからの難民でした。ゼインの出生届も出しておらず、したがって年齢も12歳ぐらいとしかわかりません。

「存在のない子供たち」の画像検索結果

ゼインは一つ下の妹・サハルと特に仲が良く、いつも一緒でした。店主のアサードはサハルを気に入っており、ゼインはそれを嫌がってなるべくサハルを近づけないようにしていました。サハルに初潮が来たことを知ったゼインは、それを知られないようにしろとサハルに言って、生理用品を盗んでは彼女に与えます。初潮が来たことが知られると、両親はアサードにサハルを提供すると思ったからでした。そして案の定、父親はサハルを家賃滞納の代わりに強制的にアサードと結婚させてしまいます。怒ったゼインは家を出てしまいます。

 

しかし、家を出たのはいいけれど、仕事も見つからず困ってしまいます。するとラヒルという遊園地で清掃員をしているエチオピアからの難民で不法就労をしている女性と知り合います。ラヒルには男の赤ん坊ヨナスがいます。ゼインはバラック小屋に一緒に住まわせてもらう代わりに彼女にヨナスの面倒を見ることを頼まれます。

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ヒルはなんとか移民登録をしてもらおうと、新たな職を探したりと努力しますが上手くいきません。そして偽造証明書に期限が切れてしまい、警察に拘束されてしまいます。ゼインはヨナスの世話をしながらラヒルを捜します。そんな中、ゼインは密航を手配する男アスプロと知り合います。このアスプロはラヒルにヨナスを養子に出せば偽造証明書を作ってやると持ち掛けていましたが、彼女は断っていました。

 

ゼインはバラック小屋も追い出され、困り果ててアスプロを頼ります。そしてヨナスは金持ちの養子になれば幸せになれるという言葉を信じ、ヨナスを預けます。さらに自分も以前に知り合った少女が彼の手配でスウェーデンに移住すると言っていたのを聞いて、自分もスェーデンに移住したいと頼みます。アスプロは身分証明書がないと無理だと言います。

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止む無くゼインは家に戻ることにしました。そして父親に証明書を書いてくれと頼みますが、父親は誕生日など憶えていないと拒否します。さらにサハルが妊娠した上に出血多量で病院に運ばれたが死んだということを知らされました。ゼインは怒り狂い、包丁を持ち出しアサードのもとへ走りました。

 

ゼインはアサードを刺し、逮捕。留置場でゼインを見かけたラヒルはヨナスが行方知らずになったことを知り絶望しました。

そして母親が面会にやってきます。普段着の母親にむかい「喪が明けていないのにどうして普段着?」と聞きます。「新しい命を授かった。生まれたらサハルと名付ける」と答えます。ゼインは「二度と来るな!」と吐き捨て、差し入れの菓子を投げつけます。そして留置場のテレビで電話相談の番組を見て、その番組に電話をして「両親を訴えたい」と伝えます。これが生放送だったため世間の知るところとなり、大騒ぎになりました。

 

法廷の場面に戻ります。

裁判長に両親を訴えた理由を聞かれたゼインは「ぼくを生んだから。生まれてきた子供を育てられないなら、最初から生まなければいい」と答えます。

両親は難民の実情を涙ながら「子供をつくれば救われると言われた。でもそれは間違いだった。生活は苦しくなるばかりだ。あんたらにこの気持ちはわからない」と訴えます。裁判長はゼインに「何か言いたいことは?」と問います。するとゼインは両親に向かって「子供を作るな!、育てられないなら子供なんて生むな!」と言います。

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それから、アスプロが逮捕され、ラヒルの赤ん坊ヨナスは無事ラヒルの元に戻りました。

 

ゼインは懲役5年の刑を告げられます。そして写真撮影に臨みます。するとカメラマンは「これは身分証明書用の写真だから笑って」と言われ、ゼインはじめて笑顔を見せるのでした。

 

 衝撃的な映画でした。難民たちの過酷な生活ぶりをドキュメンタリー・タッチで描いていきます。このゼインという12歳ぐらいの少年。すぐ下の妹を心から可愛がり、自分の耐えがたい生活にも文句も言わず働きます。しかしその妹も売り飛ばされ、やけになって家を出ます。しかし待っているのはやはり食うや食わずの生活。どこまでいっても貧乏です。

 

しかし知り合ったラヒルの子供ヨナスを初めは戸惑いながらも面倒を見ます。ラヒルがいなくなってからは一人で面倒を見ます。自分の母親がやっていた薬物の売買をしたりして何とか食いつなぎます。自分の両親からは全く愛情を注がれませんでしたが、この赤ん坊に対しての責任感はどこから来るのでしょう。

 

難民生活の過酷さをいやというほど見せつけられました。ベイルートの貧民街の風景も壮絶です。そうした中では親子の情も消え失せることがあるのでしょう。

それにしても、このゼインという僅か12歳の少年の賢さと、強さと、逞しさにはただただ驚くばかりです。2時間の間、ゼインにはほとんど笑顔もありませんでしたが、ラストシーンの笑顔だけが救いでした。そしてヨナス、僅か1歳ほどでしょうが、その演技力(地のまま?)に心温まりました。

 

シリアを含む中東・アフリカ情勢は収まる気配がありません。このような難民が何百万人もいるという現実を世界中が知るべきですが、世界はどんどん保守化に向かって進んでいます。解決策は果たしてあるのでしょうか。

 


映画『存在のない子供たち』予告編

 

それでは今日はこの辺で。