Flying Skynyrdのブログ

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『インタビュー・イン・セル:殺人鬼フジコの真実』を読んで

 

 

『殺人鬼フジコの衝動』の続編である『インタビュー・イン・セル:殺人鬼フジコの真実』を読了しました。本編は殺人鬼フジコの二女・美也子が藤子の育ての親である叔母(母親の実妹)下田茂子とその友人小坂初代に藤子についての真相を聞きに行くところで終わっていました。この続編でわかった事実は実に衝撃的です。ネタバレで申し訳ありませんが事実は次の通りです。

物語は下田茂子の息子・健太が男女7人を殺害したとして逮捕・起訴されますが、証拠不十分で一審は無罪判決が出ます。共犯の女性は獄中自殺し、健太は仮釈放されます。そこで健太の母親である茂子にインタビューを行うという企画が持ち込まれ、出版社の男女2名の記者と茂子の指名により選ばれたという女性作家の3人が彼女の住む団地へと向かいます。しかし、実際には茂子は色々と難癖をつけインタビューは行われませんでした。やがて健太の手によって女性記者は殺害され、下田親子は女性作家に殺されるという結末に行き着きます。唐突に結末を書いてしまいましたが、この女性作家のその後の供述と下田茂子の友人の小坂(娘を藤子に殺害されている)の話、さらに藤子の二女の手記によって事件の全貌が明らかになります。

まず、藤子の両親と妹が殺害されたという高津区一家惨殺事件は藤子の仕業で、茂子と小坂がそれを隠蔽工作したこと。藤子は実は茂子の子供だったこと。つまり藤子と健太は兄弟だったこと。健太が7人を殺害していたことは事実だったこと。藤子は健太の初恋の相手だったこと(兄弟であることは不明だった?)。かつての雑誌記者(藤子を追求していた)の殺害も健太だったこと。小坂初代はかつて殺人を犯し服役していた経験があり下田茂子に仕事の世話や茂子が所属する新興宗教にも入団していて、茂子には絶対服従だったこと。さらに、小坂は藤子の父親と不倫関係にあったこと。そのことで藤子の両親が不仲になり、そのとばっちりを藤子が受け、それがもとで藤子が惨殺事件を起こしたこと。監禁殺人は健太が実際にあった北九州監禁殺人事件を参考にして企てた事件であったこと。藤子の二女は彼女達に会いに行って、逆に健太に犯され、DVを続けられ、左の耳と左の指を全部切り取られながらも、共犯の女性に助けられ同じく監禁され殺害された女性の名前を騙って命からがら逃げてきて、テレビ局に匿われることになったこと。そのテレビ局と懇意だった女性作家と知り合い、女性作家は彼女からすべての事実を聞かされたこと。

そして事情を知った女性作家はなんとしても下田健太を有罪にしなければと躍起になって証拠探しをしますが検察は証拠不十分で控訴を諦めてしまいます。女性作家は絶望しますが、それでも監禁されている女性記者の生命を危ぶみ団地に向かいます。部屋に到着すると健太は女性記者を犯しながら左耳を削ぎ落としている最中でした。作家は思わず近くにあった包丁で彼を刺し殺します。そこへ茂子が帰ってきてその光景を見て逆上し作家に襲いかかります。作家は逆に必死に茂子の首を絞め殺害します。以上が事件の全貌です。が、実はこの女性作家をここまで駆り立たせたのは藤子の二女の策略だったのではというところで終わります。また、なにか続きそうな予感もしますが。

私がこの小説を読んで思い浮かべたのは、本のなかにも出てくる北九州監禁殺人事件ともうひとつ数年前にあった尼崎事件です。主犯女性の角田美代子は獄中で自殺していまい、事件の全貌は未解明のままおわってしまいましたが、監禁の中での心理状態が如何様なものなのか、何故逃げ出さないのか、何故被害者同士が殺し合うのかという被害者の行動の疑問には依然として答えが出ません。この小説でもそれは明らかにはなりませんでした。この問題は1972年の連合赤軍事件にも通じるものがあるのでしょうか。

一方で実際にあった二つの監禁殺人事件の主犯達と下田健太は明らかにサイコパスと思われます。サイコパスは良心の欠如、平気で嘘をつく、罪悪感の欠如、表面は好い人、自己中などの特徴があげられますが、この主役達はまさにサイコパスそのものではないでしょうか。しかし、怖いのは私たちのすぐそばにもサイコパスは生活しているということです。この小説を読み終わって私は背筋が寒くなりました。そうか、これがイヤミスか!

 この小説を読む前にこの作家の『弧中症』という小説を読みましたが、この小説も最後のほうでそれまでの小説の語り部が実は別人だったという展開が待ち受けていました。えっ、という驚きの連続です。この作家(真梨幸子)はただ者ではありません。また古本を探して買ってみます。

 なお、タイトルのセルは刑務所の監房のことらしいです。