今日のキネ旬シアターは『哀しみのトリスターナ』でした。
監督:ルイス・ブニュエル
主演:カトリーヌ・ドヌーブ、フランコ・ネロ、フェルナンド・レイ
制作:フランス、イタリア、スペイン 1970年
キネマ旬シアター【華麗なるフランス映画特集】の中の一本です。
今日はあのルイス・ブニュエルの『哀しみのトリスターナ』です。
ブニュエルの映画を今時劇場で観られるなんて、それだけで感激です。
ルイス・ブニュエルといえば、何といってもサルバドール・ダリとの共同脚本を映像化した『アンダルシアの犬』です。
たった15分の映画ですが、女性の眼球を切り裂くシーンや手のひらから蟻が湧きだすシーンなど、今でも思い出すと背筋がゾッとします。学生時代に何かの映画祭で観たのですがどこだったかは憶えていません。この映画でブニュエルはシュール・レアリストの仲間入りを果たします。
その後はブニュエル作品は滅多に上映されないので上映されるのを気長に待ちながら何作か観ました。たぶん京橋の国立フィルムセンターでいくつか観たと思いますが。国立フィルムセンターは当時入場料が80円でしたから、貧乏学生には聖地のようなものでした。今のようにビデオなどなかった時代ですから、必ず映画館に足を運ばなければなりませんでした。
『黄金時代』や『忘れられ人々』など、日本で公開された映画はそれほど多くはありませんが、思い出に残る映画がありました。『忘れられた人々』のなかで、少年が鶏を叩き殺すシーンなどが目に焼き付いています。
この『哀しみのトリスターナ』も『昼顔』に続いてカトリーヌ・ドヌーヴ主演で話題になりました。この作品も40数年ぶりの再会になるでしょうか。
映画はカトリーヌ・ドヌーヴ演じる16歳のトリスターナが母親の葬儀の帰りに侍女のサトゥルナの弟サトゥルノが在籍する聾唖学校に立ち寄るシーンから始まります。聾唖者たちがサッカーをしているシーンです。
トリスターナは親を亡くし、老貴族のドン・ロペの養女になります。父親であるはずのロペはトリスターナの美しさに心奪われ、ある日強引にキスを迫り、何でもいいなりで逆らえないトリスターナはそれを受け入れ、「父親であり夫婦である」という奇妙な関係が始まります。
外出もままならないトリスターナは束縛されることに次第に嫌気がさし、サトゥルナとこっそり散歩に出かけるようになります。そんなある日若い画家のオラーシオと知り合い、恋に落ちます。
頻繁な外出にロペは男ができたと直感し、嫉妬に狂いトリスターナを責めます。 とうとうトリスターナはオラーシオと街を出る決心をします。ロペはオラーシオに会って何とか止めようとしますが、逆に殴られてしまいます。
トリスターナが去ってから2年後、サトゥルナはトリスターナが町に帰ってきていると告げます。トリスターナは重い病気に罹り、死ぬなら家で死にたいとオラーシオが言っているとのことでした。ロペは早速にトリスターナを引き取ります。トリスターナはオラーシオに捨てられたと思ったのです。
医者からはすぐにでも足を切断しなければならないと告げられます。そして片足になったトリスターナは時々見舞いに来るオラーシオにも、人が変わったように優しくなったロペにも冷たく当たります。
一生懸命にトリスターナの面倒を見るロペを見ていた神父はトリスターナに結婚を勧めます。鼻で笑ったトリスターナですが後日結婚します。しかし寝室は別々、相変わらず冷たい態度です。ロペの老衰が目立ち始めました。
ある日の雪の降る晩、ロペが心臓が痛いと苦しみだしトリスターナに医者を呼ぶように頼みます。トリスターナは医者に電話をするふりをして、実際にはしませんでした。さらに窓を開け、寒さを引き入れます。やがてロペは亡くなります。
画面は突然フラッシュバックして、過去の場面が何枚か映し出され、オープニングの場面に戻り、そしてFINのエンドロールであっという間に終わります。
ラストシーンも謎めいていますが、謎めいた場面はいくつも出て来ます。教会の鐘の中のロペの生首やトリスターナの履かない義足、松葉杖で廊下を歩く長いシーン、サトゥルノに窓から自分の裸体を見せるシーンなどブニュエルらしいシーンがいくつも出て来ます。
それにしてもこのラストシーンは何でしょう。人生などあっという間の出来事だというのではあまりにも短絡的です。すべて幻想、幻覚だったということでしょうか。トリスターナのロペに対する復讐が完了したということなのでしょうか。
カトリーヌ・ドヌーヴが16歳の少女から始まって、いつの間にか大人になって、さらに冷酷な悪女のような女に変化していく様子がたまらないです。この時ドヌーヴ26歳。一番キレイな頃かもしれません。美しさに圧倒されます。
それからフェルナンド・レイがスケベな親父から年を取って徐々に好々爺になっていく様も見物です。
また、画家役のフランコ・ネロは『続・荒野の用心棒』などのマカロニ・ウェスタンでおなじみの俳優ですが、ここでは全く違うまじめな青年を演じています。
この映画、場所はスペインのトレド、時代は1920年頃。ドン・ロペは貴族です。貴族といっても財産などなく、家財を売って生活しているような没落貧乏貴族。それでもロペ曰く「労働ほど醜いものは無い、生活のために働くなんて愚かだ」と言わしめます。ブニュエルは無神論者でブルジョア嫌いは有名ですが、こういう形で表現しているところがまた面白いです。スペイン革命はもう少し先です。
それにしてもスペインを舞台にフランス人とイタリア人を主人公にして吹き替えでわざわざ撮るというのも、なんか不思議です。
それとこの映画、音楽がありません。ドヌーヴがピアノを弾くシーンでピアノが流れるだけです。その曲がショパンの『革命』です。意味ありげですね。
とにかくこの映画もそうですが、映画というものは色々な視点から、色々なことを考えさせられます。それが私にとっての映画の楽しさになっているのですが。この映画も色々な視点からの見方があると思います。書き出したらきりが無いので止めておきます。取り留めのない記事になってしまいました。ご容赦願います。
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それでは今日はこの辺で。