Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

映画『三度目の殺人』を観る

昨日の自宅シアターは『三度目の殺人』でした。

f:id:lynyrdburitto:20190110133753p:plain

 

監督・脚本:是枝裕和

主演:福山雅治役所広司広瀬すず

制作:日本 2017年公開

 

昨年から録画撮りしたにも関わらず、暇が無くてなかなか観られずに貯め込んでいる映画が何本もあります。今日はその内の1本、『三度目の殺人』をようやく観ました。

 

この映画は2017年の日本アカデミー賞の受賞作品でかなり有名な作品なのでしょうが、内容は全然知りませんでした。是枝監督作品としては珍しくサスペンス物です。サスペンスと言ってもハラハラドキドキではありません。心理的サスペンスです。サスペンスというよりはある意味ミステリーです。

 

是枝監督といえば、私が観た中では家族物が多く、このような殺人事件が出てくる映画は初めてです。福山雅治の起用は『そして父になる』以来、2度目です。

 

完全ネタバレです。ご容赦願います。

 

内容は殺人を自白した三隈(役所広司)という男の弁護を友人の弁護士摂津(吉田鋼太郎)に依頼された弁護士重盛(福山雅治)が担当し事件の解明に当たるという話です。

 

三隈は30年前にも殺人を犯し、今回の殺人で死刑はほぼ間違いないという状況。しかし、本人は死刑だけは逃れたいと願います。摂津は重盛になんとか無期懲役に持っていけないかと相談します。重盛は弁護士の仕事は「依頼人の希望を叶えることで、真実などは二の次だ」と、ドライに割り切る弁護士です。

 

映画の冒頭シーンは三隈が彼の会社の社長を後ろから殴り倒し、あとからガソリンを撒いて火をつけて燃やすシーンで始まります。これが真実ならば犯人は三隈なのですが・・・。

「三度目の殺人 画像」の画像検索結果

 

重盛は三隈が会社を馘になった怨みからその会社の社長を殺した、いわゆる怨恨の線でいこうと考えます。三隈は殺害の後、財布を盗んでいるので、検察が申し立てている容疑の強盗殺人よりも怨恨による殺人の方が情状を考慮してもらえると考えたのです。

f:id:lynyrdburitto:20190110150938p:plain

しかし、三隈は重盛たちに無断で、週刊誌の取材に社長夫人に頼まれて保険金目当てで殺したと答えてしまいます。そしてその依頼のメールも残っているといいます。慌てた重盛は戦術を変え、保険金殺人で主犯は社長夫人(斉藤由貴)、三隈はあくまでも殺害を依頼されたという筋書きでいこうと決めました。しかし夫人は真っ向否認。

f:id:lynyrdburitto:20190110150643p:plain

重盛は摂津が30年前に犯した殺人事件で、無期懲役を言い渡した裁判長が自分の父親であることを知り、昔の裁判記録を見せてもらいます。父親はあの男は「獣のような男」と評します。当時逮捕した刑事は「感情のない空っぽの器のような男」と評します。

 

そして三隈のことを調べるうちに、社長の娘、咲江(広瀬すず)と三隈に接点があることが分かってきます。咲江は父親に性的暴力をずっと受けていたということを、三隈に話していたのです。咲江は自分が父親を殺してしまいたいという願望が三隈に届いたのだと言います。そしてそれを裁判で証言しますというのです。重盛はそれを証言するためには検察官の反対尋問に応えなければならず、つらいことだよと言いますが、咲江は証言すると言います。

f:id:lynyrdburitto:20190110151115p:plain

 

このことを三隈に伝えると、「あの娘はよく嘘をつくから、信用しちゃだめだ」と笑います。そしてあろうことか、今度は「自分は社長を殺していない、現場には行っていない」と主張します。「今頃、なんだ」というと、「逮捕されたときから言ってきたが、誰も俺の言うことなど信用しない」と涙を流します。「重盛さん、信用してくれるか?」と言われてしまいます。重盛は信じることにしました。しかし、既に裁判は始まっています。今更犯人性を否認するとなると裁判のやり直しになります。摂津や裁判長、検察官も反対しますが、重盛は強引に犯人性の有無についての裁判をしたいと申し出ます。そして裁判の継続と犯人性の有無の併存という妥協案で合意します。

f:id:lynyrdburitto:20190110150755p:plain

そして判決。「被告人を死刑に処する」でした。判決後、重盛は三隈と面会します。重盛は「咲江に証言させないために、嘘をついたんでしょう?」と問います。三隈は「私のことをそんな風に見てくれるなんて光栄だ」と応えます。そして「私は生まれてこないほうがよかった人間だ。そんな人間を信じてはダメですよ。」と言います。重盛は「そうか。やっぱり器か」と独り言を言います。

ラストシーンは重盛が街の十字路に立ちすくんで終わります。

 

この映画、結局真実は判りません。犯人は誰だったのか。三隈なのか、咲江なのか、あるいは共犯なのか。三隈の言っていることが真実なのか。咲江の言っていることが真実なのか。社長夫人が言っていることが真実なのか。裁判は何を裁いたのか。何一つはっきりしませんでした。いくつもの暗示的なシーンがちりばめられていますが、書ききれないのてで割愛します。

 

そして「三度目の殺人」とは。一度目は30年前の殺人事件。二度目は今回の社長殺し。そして三度目は裁判による三隈殺しなのではないか。それとも映画のポスター、なぜ3人とも血を浴びているのでしょう。三隈は殺人を犯し、重盛は裁判に負けることによって三隈を殺した。咲江は結局証言しなかったことによって三隈を殺した、ということなのか。

 

この映画は現在の裁判制度の問題を浮き彫りにしたということなのでしょうか。途中で摂津が、「裁判官も裁判の数をこなさなければいけない。スケジュールありきなんだよ。」という場面があります。裁判官も重盛が犯人性の有無で裁判のやり直しを提案したときには露骨にいやな顔をしました。検察官も真っ向から反対、その後上席検察官からの耳打ちで一転合意。この辺のやり取りもいかにもお役所的で、真実など二の次という態度がありありです。真実を度外視した裁判とは一体何なのか。

 

何かすっきりしない感じでしたが、その分見る側に十分考えさせられる映画でした。是枝監督の狙いもその辺にあったのではないのか、なんて勘繰ったりしています。

 

重盛と三隈が面会室のガラスを挟んで対峙するシーンが何度も出て来ますが、このシーンは黒澤明の『天国と地獄』の三船敏郎山崎努が対峙するシーンを思い出させます。ガラスの向こうとこっち。ガラスに映った両者の顔が何かを暗示しているようです。

 


映画『三度目の殺人』予告編

 

 

 

それでは今日はこの辺で。