今日の「聴き比べ」は『人生劇場』です。
「人生劇場」といえば尾崎士郎の自伝的大河小説です。1933年(昭和8年)から戦争を跨いで1959年(昭和34年)までに「青春篇」「愛慾篇」「残侠篇」「風雲篇」「離愁篇」「夢幻篇」「望郷篇」「蕩子篇」が発表されました。さらに1960年(昭和35年)から1962年(昭和37年)にかけて「新人生劇場 星河篇」「狂瀾編」が出版されました。後に五木寛之が書いた『青春の門』はこれに触発されて書かれたものと思われます。
田舎から上京し、早稲田大学に入学した青年の青春とその後の物語というところも共通しています。
そしてこの小説は14回も映画化されました。一番最初は1936年の内田吐夢監督による『人生劇場 青春篇』でした。続いて1938年には千葉泰樹監督による『人生劇場 残侠篇』が製作されました。いずれも日活でした。この「残侠篇」だけは完全な創作です。飛車角が登場します。
戦後、東映が佐分利信監督で2作、萩原遼監督で1作を製作しました。
その後、東宝、大映がそれぞれ杉江敏男監督、弓削太郎監督で1作づつ製作。
そして1963年に再び東映が沢島忠監督で『人生劇場 飛車角』シリーズを3作製作しました。この時に初めて主題歌として『人生劇場』が使われたのではないでしょうか。歌ったのは村田英雄です。
1964年に今度は日活が再び映画化しました。高橋英樹主演で舛田利雄監督の『人生劇場』です。この主題歌を歌ったのは高橋英樹でした。
1968年には東映が内田吐夢監督を起用して『人生劇場 飛車角と吉良常』を製作。内田監督は2度目のメガホンでした。
1972年には松竹が映画化しました。加藤泰監督による『人生劇場 青春篇 愛欲篇 残侠篇』です。この時の主題歌は美空ひばりでした。
1983年には三度東映が深作欣二、佐藤純彌、中島貞夫という3人の監督を起用して『人生劇場』を製作しました。
これほど映画化された小説も珍しいのではないでしょうか。青春ものと任侠ものが混ざっているのが魅力なんですね。
映画の話が長くなってしまいました。歌の方の話です。私はなぜかこの歌詞がいたく気に入っておりまして、よく口ずさんだものでした。「男ごころは男でなけりゃ、わかるものかと諦めた」、です。
この『人生劇場』という歌は1938年に小説を基に佐藤惣之助の作詞に古賀政男が曲をつけて楠木繁夫が歌ったのが始まりでした。これは知りませんでした。
人生劇場
作詞:佐藤惣之助
作曲:古賀政男
やると思えば どこまでやるさ
それが男の 魂じゃないか
義理がすたれば この世は闇だ
なまじとめるな 夜の雨
あんな女に 未練はないが
なぜか涙が 流れてならぬ
男ごころは 男でなけりゃ
わかるものかと 諦めた
時世時節(ときよじせつ)は 変ろとままよ
吉良の仁吉(きらのにきち)は 男じゃないか
おれも生きたや 仁吉のように
義理と人情の この世界
そしてこの歌が早稲田大学の第二校歌になっていることも知りませんでした。この早稲田版には4番の歌詞が付け加えられ、さらにセリフも入っています。
4番の歌詞
端(はした)役者の 俺ではあるが
早稲田に学んで 波風受けて
行くぞ男の この花道を
人生劇場 いざ序幕
セリフは割愛します。
1958年に古賀政男に見いだされて村田英雄がリバイバル・ヒットさせました。私も彼の歌でこの歌を知りました。1963年には映画の主題歌としても使われました。
女王美空ひばりの楽曲も映画で使われました。
島倉千代子も歌っています。
石原裕次郎この歌を歌いました。
人生劇場 ♪石原裕次郎 作詞=佐藤惣之助 作曲=古賀政男 日活映画 花と龍より
最後に本家本元の古賀政男の歌で。
それでは今日はこの辺で。