Flying Skynyrdのブログ

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映画『きっと、いい日が待っている』を観る

今日のキネ旬シアターは『きっと、いい日が待っている』でした。

 

監督:イェスパ・W・ネルスン

主演:アルバト・ルズベク・リンハート、ハーラル・カイサー・ヘアマン、ラース・ミケルセン、ソフィー・グロベル

制作:デンマーク、2016年公開

 

この映画は1960年代後半に実際に児童養護施設で起きた事件をもとに制作された映画です。デンマークアカデミー賞で6部門を受賞しました。

邦題からは希望をに満ちた未来を描いた映画かなと想像しますが、予備知識なしで観に行った者としては衝撃的な内容でした。

 

ストーリーは、13歳のエリックと10歳のエルマーは母子家庭で、しかも母親は病気がちで満足に働けません。子供たちは小遣いがもらえないので、万引きを繰り返します。弟のエルマーは宇宙飛行士になる夢を持ち、兄のエリックはエロ本を隠し読むどこにでもいる思春期の男の子です。それでも何とか親子3人幸せに暮らしていましたが、ある日母親が倒れ入院します。病名は癌でした。叔父がいるのですが無職で子供たちを引き取ることができません。

役所は子供たちだけでは生活するのは無理と判断、ゴズハウン少年養育施設に預けることになりました。施設は周りには何もないド田舎にありました。

入寮初日から兄弟は重い荷物運びをさせられることになります。エリックが弟は生まれつき内反足で重い荷物を持つと足が痛くなるから無理だと訴えますが、いきなり教師に殴られます。そして作業と称する過酷な労働が始まります。さらに上級生からの激しいいじめ。

兄弟は耐えられず、脱走します。しかし、あっさりと捕まり連れ戻されます。さらに激しい体罰といじめが待っていました。

この養護施設のヘック校長は厳しく、体罰を是とする教育方針を執っています。絶大なる権力を誇り、教師は皆従わざるを得ません。まさに恐怖政治です。

兄弟の入寮と同時に新任の女性教師ハマーショイ先生が赴任してきます。ハマーショイは他の教師が暴力を振るうのに驚きますが、自分は体罰は行わないと言うのが精一杯です。

兄弟は施設の仲間からここで暮らすには、とにかく目立たぬように幽霊になるしかないと諭されます。

ある時、宿直の教師が夜中エルマーを起こしに来ます。その教師は男色、ロリコンで夜な夜な子供を漁っています。エルマーは訳が分からず連れていかれ被害に遭いました。

助けることが出来なかったエリックは後日その教師に復讐をします。電動ノコギリの安全装置を外し大怪我をさせます。

エルマーは慣れない環境のせいか、おねしょをするようになってしまいます。寒空の中、濡らしたスーツを裸で持たせられ、「乾かせ!」と命じられます。施設の医者にも診てもらい薬も処方されますが、治りません。エルマーは夜眠らないように気を付けますが授業中に居眠りしてしまい、ハマーショイ先生に注意されます。その時にエルマーが付けていた日記を見つけ、こんなに字を書けるはずがないと思い、読んでみなさいと命じます。文章の上手さと読み方の上手さに驚き、ハマーショイ先生はエルマーを郵便係を命じます。エリックも15歳になれが退寮できるからと開き直って幽霊のごとく暮らします。

こうして少しは落ち着いた生活が始まりますが、ある日食堂での食事中に叔父さんからエリックに電話がかかって来て、母親の死亡が告げられます。

泣きながら戻ってきたエリックに皆が異常を感じ、やがてエルマーが事情を聞くとママが死んだと聞き泣き出します。「食事中だ、静かにしろ!」と校長が叫びますが言うことを聞かず泣き続けます。怒りだした校長は二人を殴り始めます。校長は自制がきかない暴力教師の本性をむき出しにします。ハマーショイ先生がなんとか二人をなだめその場を収めます。

暫くして、叔父さんがやってきます。2人を引き取りたいと校長に申し出ますが、「定職のないあなたには無理」と簡単に退けられてしまいます。叔父さんは兄弟と脱走の相談をして一旦帰って行きます。兄弟は脱走に希望を求めます。

しかし、叔父さんはやはり自分には2人を育てるのは無理と思い、ハマーショイ先生に脱走は諦めろと二人に伝えてくれと電話をしてきます。驚いたハマーショイ先生はそれを伝えに向かいますが、ばったり校長に出会ってしまい、事情を話してしまいます。結局二人は捕まってしまいます。

校長に話したことをエルマーになじられたハマーショイ先生は思わずエルマーの頬を叩いてしまいます。殴ってしまったことにショックを受けた先生は翌朝施設を去ってゆきます。

施設に監察官が抜き打ちでやって来たときに、監察官は生徒たちの無気力さと傷の多さに違和感を感じましたが、誰も不満を言うものがおらず、その場は帰っていきました。

エリックは15歳になったらエルマーを連れて出ていくことだけを夢見て、優等生のふるまいをして生活します。そして15歳になろうとするときに校長に、「もうすぐ卒業ですがその時にエルマーも連れていきたいのですが」と申し出ます。

校長は「まだ内緒だけど、18歳まで働けるように特別措置を設けてやったよ」と言います。それを聞いたエリックは怒りが治まらず、校長の車を傷つけます。怒った校長はエリックを殴りつけ昏睡状態に陥らせてしまいます。しかも病院には連れて行かず、施設の医務室に寝かされます。医師も校長の言いなりです。

エリックが眠っている病室にこっそり会いに行ったエルマーは校長と医師がエリックは校長の暴力によって瀕死の状態になっている事、たとえ死んだとしても施設とは無関係にしようなどと話していることを立ち聞きしてしまいます。

エルマーは校長に自分は郵便配達が向いていると言われるので、明日郵便局の視察をしたいから休暇を下さいと申し出ます。

許可をもらったエルマーはコペンハーゲンに住むハマーショイ先生を訪ねます。そして実情を話し、監察官に会いにゆきます。監察官は出張で会えませんでしたが、秘書役に電話するようにと依頼して帰りますが、エルマーはある決心をします。

そして翌日、夜エルマーは自分で作って宇宙服に身を包み、校長の車のところにやってきます。校長を含め教師たちは校長の受勲のお祝いをしている最中でした。エルマーが車の上に載って車を破壊し始めました。画像

エルマーはこうすれば自分もボコボコにされエリックと同じような状態になる。それではじめて暴力の実態を世に知らしめようとしたのです。

殴られながらもエルマーは逃げ出し、貯水塔のてっぺんまで登ります。その騒ぎの中、監察官がハマーショイ先生に連れられてやってきます。

エルマーは自分の夢だった宇宙飛行士になったつもりで、貯水塔から空に向かって飛び出し自殺を試みます。

そして病院です。ハマーショイ先生は医師から二人とも無事だと聞かされます。お母さんは中に入って看てやってくださいと言われます。「いや、私は母親じゃ、」と言いかけますが。

やがて施設にエルマーがハマーショイ先生に連れられてやってきます。監察の真っ最中です。エルマーは校長に2人分の許可証(退寮)を下さいと言います。校長は渋々渡しますが、礼を言いなさいと命令します。エルマーは答えません。そして黙って去って行きます。

残った生徒たちに監察官が「何か言いたいことがことがある人はいますか」と訊ねます。初めは誰も手を挙げませんでしたが、やがて一人が手を挙げると、続々と皆手を上げだしました。監察官は満足そうな表情に変わりました。

2人の兄弟はハマーショイ先生の車に乗って施設を後にします。この映画のナレーションをする仲間が追って来て手を振り続けます。

 

最後の字幕で、児童施設での暴力等で今でも精神的にも肉体的にも病気に苦しんでいる人がたくさんいるということが書かれています。

 

この時代のデンマークの孤児たちを扱ったドラマですが、これが事実ということに驚かされます。今世紀にコペンハーゲン児童養護施設における暴力、性的暴力、薬物投与などの問題が明らかになりました。この映画でも施設はまるで強制収容所です。教師たちには人間性のカケラもありません。ただただ最高権力者の顔色を伺いながら、暴力をふるう。上級生たちもしかり。連帯責任の名のもとに暴力をふるう。似たような事件はその後の日本でも数々起こりました。組織の恐ろしさを改めて思い知らされました。

 

最後の最後で勧善懲悪的に終わってホッとしましたが、館内は鼻をすする音がいっぱいでした。私も思わず涙してしまいました。年のせいでしょうね。

 

エルマー役の子がかわいい、そして兄役のほうも徐々に兄貴としての責任感、弟を守るという心が芽生えてくるところが、本当の兄弟のようで微笑ましいです。

エルマーが生徒たちに親から来た手紙を読み聞かせる場面があります。実際には彼らは親からは見捨てられていると思っているのですが、エルマーはその手紙をうまく脚色して読んで聞かせます。するとみんなが自分にも読んでくれとせがんできます。エルマーのやさしさがにじみ出ているいい場面です。

対照的に校長役のラース・ミケルセンの極悪非情ぶりも見事でした。役者は凄い。

 


映画『きっと、いい日が待っている』予告編

 

それでは今日はこの辺で。