監督:沖田修一
主演:山﨑努、樹木希林
制作:日本 2018年公開
日本の画家、熊谷守一の晩年のある一日を描いた作品です。熊谷守一は約30年間ほとんど家を出ることなく過ごしたらしいです。ただひたすら庭の植物や昆虫を見つめながら暮らしています。「画壇の仙人」と呼ばれたそうです。
私も勉強不足で、熊谷守一は名前を知っている程度でした。彼の実家は紡績業を営む富裕層で、父親は衆議院議員まで勤めた岐阜の名士でしたが、本人は極貧生活で 、5人の子を授かりますが3人を失いました。
文化勲章も勲三等の叙勲も辞退した変わり者でした。
この映画はそんな彼の1974年の夏のある一日を切り取って、朝食の風景から夜寝るまでの日常を描いています。したがってストーリーなどは特別ありません。
朝食を終えて、庭に散歩に出かけ、昆虫、鳥、池の魚、植物などあらゆる生き物を見つめます。時には地べたに寝転がって蟻の動きを見つめます。
その間、来客が絶えません。妻と美恵ちゃんという人が応対します。熊谷に旅館の看板文字を書いてもらいたくて訪ねてくる人や、家の前にマンションを建てるオーナー、熊谷を撮り続けているカメラマンなど、ひっきりなしです。
昼食の時に電話がかかってきて、妻が出ると、文化勲章に決定したとのこと。客人たちはびっくり。妻が熊谷に「どうしますか?」と尋ねると、熊谷は「そんなのもらったらまた人がいっぱい来るから困る」と断ります。妻は「いらないそうです」と電話の相手に応えます。このシーンががおかしくてたまりません。他にも思わず笑ってしまうシーンがいっぱいあります。
最後にはファンタジックなシーンまで登場します。
そんなこんなで映画は淡々と進み、後日、家の前に大きなマンションが建って、そのマンションの屋上から熊谷邸を俯瞰するシーンで終わります。
実際の家は豊島区の椎名町にあったようですが、ロケでは古民家を改装して作ったようです。実際は30坪程度の狭いに派だったようです。
数々の昆虫が出て来て、珍しい動きを写しますが、よくぞここまで撮ったと拍手です。
山﨑努と樹木希林は同じ文学座に所属し、50年以上の付合いながら初共演だそうです。さすがに息はぴったりです。
この映画は熊谷守一という人物のユニークさもさることながら、山﨑努の演技力の素晴らしさに感動します。熊谷守一に成り切っています。この演技を観るだけでもこの映画の勝は十分にあると思います。樹木希林もいい味を出していました。
山﨑努は私の大好きな俳優の一人です。黒澤明の『天国と地獄』からのファンでその演技力には感動さえ覚えます。
私の好きな男優、それは緒形拳、仲代達也、山﨑努、原田芳雄、松田優作そして加藤剛等々です。
このうちすでに緒形拳、原田芳雄、松田優作は亡くなっています。そして昨日、加藤剛さんの訃報が入りました。80歳でした。
残念です。ただあの痩せ方を見ると、どこか悪いのだろうなとは思っていました。
加藤剛と言えば、古い話ですが、テレビドラマの『三匹の侍』で初めて観ました。確か丹波哲郎の後釜だったと思います。なんて精悍な男性だろうと思ったことを憶えています。あとはやはり映画『砂の器』でしょうか。和賀英良を演じる加藤剛ははまり役でした。残念ながらテレビドラマの『人間の条件』は古すぎて観ていませんが、映画では仲代達也が主演でした。これも何かの縁ですね。
『三匹の侍』を演じた丹波哲郎、長門勇、平幹二郎もすでに亡くなっています。
昭和の名優が次々と亡くなっていきます。昭和生まれの人間には何とも寂しい気持ちです。
なんとか仲代達也、山﨑努両氏には1作でも多く作品を残していただきたいと願うばかりです。
加藤剛さんの冥福を心よりお祈りいたします。合掌
映画記事と訃報記事が一緒くたんになってしまいました。どっちつかずで中途半端になってしまって、反省しきりです。
それでは今日はこの辺で。