以前に、「懐かしの映画」シリーズを映画会社ごとに書きました。このシリーズは私の小・中学校時に観た映画を取り上げました。今回は高校・大学生時代に観た映画を「思い出の映画」と題して特集したいと思います。
中学を卒業して高校生になると、観る映画もだいぶ趣向が変わって来ました。一番の変化は洋画を観始めたということでしょうか。その辺のことは以前の記事でも何回か触れていますので割愛します。それとやはり以前の記事で「アメリカン・ニューシネマ」についても書いていますので、今回は日本映画とヨーロッパ映画に限定したいと思います。
50年近く経っても心に残っている映画ということになるとなかなか難しいですが、あの頃は映画監督に興味をもって観ていた時期なので監督を軸に取り上げてみたいと思います。それでは行ってみよう。
黒澤 明
まずはこの人でしょうか。それでも私が黒澤作品を観るようになったのは大学生になってからだと思います。
『羅生門』
いまさら何の解説も必要ありません。日本映画初のベネツィア国際映画祭金獅子賞。
『生きる』
平凡な役所の課長が癌を宣告され、最後の仕事に人生の価値を見つける。雪の降る公園でブランコに乗るシーンが忘れられない。
『七人の侍』
ただただその迫力に圧倒されました。これが元で『荒野の七人』が製作されました。
『用心棒』
主演:三船敏郎、仲代達也 1961年公開
三船敏郎の侍姿は他の追随を許しません。それでも仲代達也は良かった。
『椿三十郎』
加山雄三が黒澤作品に初出演。ラストシーンは圧巻、息をのみました。
『天国と地獄』
エド・マクベインの原作『キングの身代金』より。
この映画は文句なしに面白い。煙突から赤い煙が出るところがパートカラー。三船敏郎と山崎努のラストの対話シーンが素晴らしい。
黒澤作品はどれも素晴らしいので、挙げたらきりが無くなります。この辺で止めておきます。
大島 渚
この人も日本映画界には欠かせない人でした。高校生の頃から見始めました。松竹ヌーヴェルヴァーグの旗手と言われ、その後独立、創造社設立。妻は小山明子。
『青春残酷物語』 松竹映画
公開後10年程経ってから観たのですが衝撃的でした。60年安保の時代。怒りの矛先が見つからず、無鉄砲な生き方にのめり込む。病室で川津がリンゴを齧る長いシーンが怒りに満ちて印象的。
『日本春歌考』 創造社
1967年公開。創造社制作。
エロ歌がいっぱい登場。高校生には面白くてたまりません。これは一種のメッセージソングなのでしょう。
『絞死刑』 創造社 ATG
主演:尹隆道、佐藤慶、渡辺文雄、戸浦六宏など創造社の面々。1968年公開。
創造社、ATG提携制作。ATG配給。
在日朝鮮人と死刑問題を描いた作品。死刑執行が失敗した話。考えさせられました。
『新宿泥棒日記』 創造社 ATG
主演:横尾忠則、横山リエ、唐十郎、創造社の面々 1969年公開
紀伊国屋書店の社長、田辺茂一が出演していました。本の万引き男と偽店員と本屋の社長が絡んでの奇妙奇天烈な映画。
『少年』 創造社 ATG
それまでの政治性の強い映画から、この映画では実際にあった当たり屋家族をモデルにした社会性の強いドラマになっています。実際の主人公の子役、阿部哲夫は孤児で養護施設にいました。映画公開後は養子の申出もありましたが、本人は施設に戻りました。全国を歩く、今で言うロードムービーです。
『東京战争戦後秘話』 創造社 ATG
主演:後藤和夫、岩崎恵美子 1970年公開。
大島作品で私がリアルタイムで観た最初の作品だったと思います。私の脳ミソではよく理解できなかった、という思い出が残りました。
『儀式』 創造社 ATG
日本の冠婚葬祭を通じて家族制度や日本人とは何かを問い直した映画。当時賛否両論に分かれた映画だったと思います。
その他『愛と希望の街』『太陽の墓場』『日本の夜と霧』『飼育』『白昼の通り魔』『無理心中 日本の夏』『帰ってきたヨッパライ』など数多くの名作がありますがこの辺にしておきます。
この後、大島渚は栗田ひろみの『夏の妹』を撮って、しばらく沈黙します。その後はご承知のとおり『愛のコリーダ』や『戦場のメリークリスマス』で世界的な監督になります。
当時の映画好き左翼系学生のシンボリックな存在だった大島渚監督。映画を観た後の議論はいつまでも続きました。それもまた懐かしい思い出です。
吉田 喜重
この人も松竹ヌヴェルヴァーグの旗手と言われた人でした。妻は岡田茉莉子。以下の作品はリアルタイムでした。ちょっと難しかったのを憶えています。
『エロス+虐殺』 現代映画社 ATG
吉田監督が松竹を辞めて「現代映画社」を設立。その現代映画社制作映画。ATG提携作品
無政府主義者の大杉栄と伊藤野枝に大杉の元愛人神近市子の3角関係の実話。神近市子は別の名前で登場していますが、彼女は名誉棄損で訴えを起こしましたが、既に既知の事実として退けられました。長い長い映画です。
『戒厳令』 現代映画社 ATG
主演:三国連太郎、松村康世 1973年公開
吉田喜重の松竹時代の映画も結構見ているはずなのですが、あまり記憶に残っていません。『秋津温泉』『情炎』『煉獄エロイカ』『告白的女優論』など。
今村 昌平
何といってもこの人の作品は大好きです。この人の作品は大学生になってから観たと思います。
『にあんちゃん』 日活映画
4人兄弟の兄弟愛、泣けてきます。
『豚と軍艦』 日活映画
主演:長門裕之、吉村実子 1961年公開
ラスト近く、長門裕之が機関銃をぶっぱなし、豚が道路いっぱいにあふれ出すシーンは凄かった。今村監督のリアリズムは半端ない。
『にっぽん昆虫記』 日活映画
田舎娘の一生を描く、壮絶なる女の生きざま。この映画は凄かった。左幸子がピッタリはまり役。
『赤い殺意』 日活映画
亭主の留守に強盗に襲われてしまった主婦が、死のうとするが死にきれず、やがてたくましく変貌していく。この映画も前作に引けを取らず凄い。春川ますみもこの頃からいい味を出していました。
その他『「エロ事師たち」より 人類学入門 』 『人間蒸発』『神々の深き欲望』など
社会人になってからも今村作品は必ず観ていました。『復讐するは我にあり』『楢山節考』『黒い雨』『うなぎ』など名作が多かった。
この人の作品は人間臭さが滲み出て、なぜか心にストンと来るものかありました。
松本 俊夫
実験映画の松本監督。この人の作品は以前、訃報記事で書きましたので作品名だけ。
『薔薇の葬列』 ATG
主演:ピーター、土屋嘉男 1969年公開
ラストシーンは忘れられません。逆エディプス・コンプレックスです。
『修羅』 ATG
主演:中村賀津雄、三条泰子、唐十郎 1971年公開
パートカラーが印象的でした。唐十郎は役者でも素晴らしい。
たった5人で、あっという間に20作品を超えてしまいました。この企画、ちょっと無理がありました。漏れた作品が多すぎます。今思いついた人をちょっと書いてみます。
溝口 健二 『雨月物語』『赤線地帯』
勅使河原 宏 『砂の女』『おとし穴』
成瀬 巳喜男 『放浪記』『乱れる』
岡本 喜八 『殺人狂時代』『肉弾』
浦山 桐郎 『キューポラのある街』『私が棄てた女』
川島 雄三 『幕末太陽傳』『女は二度生まれる』
黒木 和雄 『日本の悪霊』『竜馬暗殺』
新藤 兼人 『第五福竜丸』『裸の19才』
熊井 啓 『帝銀事件』『地の群れ』
実相寺 昭雄 『無常』『曼陀羅』
篠田 正浩 『心中天網島』『沈黙』
羽仁 進 『不良少年』『初恋・地獄篇』
寺山 修司 『書を捨てよ町を出よう』『田園に死す』
山田 洋次 『下町の太陽』『男はつらいよ』シリーズ
加藤 泰 『人生劇場』『緋牡丹博徒』シリーズ
鈴木 則文 『関東テキヤ一家』『トラック野郎』シリーズ
マキノ雅弘 『日本侠客伝』シリーズ
深作 欣二 『仁義なき戦い』シリーズ
石井 輝男 『網走番外地』シリーズ
内田 吐夢 『飢餓海峡』『宮本武蔵』シリーズ(中村錦之助主演)
小林 正樹 『切腹』『人間の条件』シリーズ
坪島 孝 『愛のきずな』『クレイジー・日本一』シリーズ
止まらなくなりました。一人2作品に絞ってこれですから、まだまだいっぱいあります。でもこの辺にしておきましょう。そのうち第2弾を書く必要がありそうです。
小津安二郎作品は何故か社会人になってから観るようになりました。若造では小津さんの良さは判りませんから、ちょうどよかったのかもしれません。
それでは今日はこの辺で。