ボブ・ディランと妻サラ・ラウンズの息子、それがジェイコブ・ディラン(Jakob Dylan)です。
昔、ボブ・ディランの5枚目のアルバム『Bringing It All Back Home』のジャケットの後ろの方でタバコを吸っているのがサラ・ラウンズだという話が流れましたが、どうやら誤報だったようです。
ジェイコブは1969年、ボブ・ディランの5番目の子としてニューヨークで生まれました。やはり、ボブ・ディランの息子なのか、早くも高校時代にはバンドを組むようになりました。
当初はギターを学んでギタリストとして活動していたようですが、次第にソングライティングに力を入れるようになり、幼馴染のトビ・ミラー(Tobi Miller,g,vo)とバンドを組むことになり、バリー・マクガイヤ(Barrie Maguire,b,vo)、ピーター・ヤノウィッツ(Peter Yanowitz.ds,vo)、ラミー・ジャフェー(Rami Jaffee,p,organ)を誘ってウォールフラワーズ(The Wallflowers)を結成しました。
そして1992年にヴァージンレコードからファーストアルバム『The Wallflowers』をリリースします。
プロデュースはポール・フォックス(Paul Fox)です。
このアルバムは一定の評価を得ますが、商業的には完全に失敗しました。というのもボブ・ディランの息子ということが先行し、ジェイコブが嫌気を差し、プロモーションに積極的にならなかったからというのがその理由に挙げられました。
ただ、このアルバムは私自身は結構気に入っています。いい曲もたくさんあります。声はしゃがれ声ですがボブ・ディランとは違います。詩の方はボブ・ディランの同じ年頃の頃から比べれば、分かり易いですが抽象的な詩も多いです。
全体としては正統派アメリカンロックと言えばいいでしょうか。
この商業的失敗は契約関係にも響き、ヴァージンレコードとの契約は消滅します。そしてジェイコブはメンバーチェンジを行います。ラミー・ジャフェーを残し全員がバンドを去ります。
新たなラインナップは
ジェイコブ・ディラン(Jakob Dylan,vo,g,p)
ラミー・ジャフェー(Rami Jaffee,p,organ)
マイケル・ワード(Michael Ward,g,vo)
グレッグ・リッチリング(Greg Richling,b)
マリオ・キャリエ(Mario Calire,ds)
です。
そしてインタースコープ・レコードとの契約を結び、1996年にセカンドアルバム『Bringing Down the Horse』をリリースします。
ここではプロデュースにT-ボーン・バーネット(T-Bone Burnett)を迎えます。
そしてゲスト陣に
レオ・ルブラン(Leo Le Blanc)
フレッド・タケット(Fred Tackett)
ゲイリー・ルーリス(Gary Louris) ジェイホークス
マイク・キャンベル(Mike Campbell) トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ
ドン・フェフィントン(Don Heffington)
サム・フィリップス(Sam Phillips) T-ボーンの奥様
トビ・ミラー(Tobi Miller) 元ウォールフラワーズ
デヴィッド・ロウリング(David Rawlings)
アダム・ドゥ―リッツ(Adam Duritz) カウンティング・クロウズ
ジョン・ブライオン(Jon Brion)
パトリック・ウォーレン(Patrick Warren)
を迎えレコーディングされました。
4曲のシングルヒットを含み、このアルバムは大ヒットとなりました。グラミー賞も2部門で受賞しました。「One Headlight」「6th Avenue Heartache」「Three Marlenas」「The Difference」。これら4曲のシングルはいずれも素晴らしい楽曲です。
これでジェイコブとウォールフラワーズはボブ・ディランの呪縛から解かれました。
1998年にはデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」をカバーして映画『Gozila』に使用され大ヒットをしました。
さらに4年後の2000年、サードアルバム『Breach』をリリースします。
ここではプロデュースがアンドリュー・スレイター(Andrew Slater)とマイケル・ペン(Michael Penn)に変わっています。
そしてゲストにバッキングヴォーカルでエルヴィス・コステロ(Elvis Costello)が参加しています。
ゲイリー・ルーリス、マイク・キャンベル、ジョン・ブライオン、マット・チェンバレンは今回も参加しています。
このアルバムは前作ほどのヒットには至らなかったもののゴールドディスクを獲得しました。アメリカンロック全開です。こういう音は安心して聴けます。この時代にこのような音があるのが嬉しい限りです。
そして2年後、2002年に4枚目のアルバム『Red Letter Days』をリリースします。
この前にギタリストのマイケル・ワードが脱退します。このアルバムではジェイコブがギターを弾いています。プロデュースは盟友トビ・ミラーとビル・アップルベリー (Bill Appleberry)です。
さらに
ヴァル・マッカ゚ラム(Val McCallum,g) シェリル・クロウ、ボニー・レイット他
ラスティ・アンダーソン(Rusty Anderson,g) ポール・マッカートニー他
マイク・マクレディ(Mike McCready,g) パール・ジャム
が参加しています。
ちなみに、ヴァルはデヴィッド・マッカラムとジル・アイアランドの息子です。
ここでも相変わらずのアメリカンロックですが、機械処理が多くややオルタナ色が強くなったような気がします。後期のボブ・ディランよりはずっと聴きやすいです。
ドラマーのマリオが退団します。代わりにフレッド・リングハム(Fred Eltringham,ds)が加入します。
そして2005年に5枚目のアルバム『Rebel, Sweetheart』をリリースします。
プロデュースはブレンダン・オブライエン(Brendan O' Brien)に代わります。このアルバムはビルボードの40位どまりでした。
しかし中身はウォールフラワーズが戻ってきました、という感じで素晴らしい出来になっています。古臭いけど新しいアメリカンロックです。歌唱力もぐんと上がったようです。ブルース・スプリングスティーンやトム・ペティを目指しているのかもしれません。
ここでウォールフラワーズとしてのアルバム制作活動はしばらく中断します。2007年にはこれまでずっと一緒に歩んできたラミー・ジャフェーがバンドを去ることになりました。後に復帰することになるのですが、フー・ファーターのツアーへ参加することになったのです。
そしてジェイコブはコロムビアと契約しました。ジェイコブはソロアルバムの制作に取り掛かります。したがってツアー活動も中団となりました。
その間、ザ・バンドのトリビュートアルバム『Endless Highway』の中の「Whispering Pines」を録音したりしました。
ジェイコブのファーストソロ『Seeing Things』は2008年にリリースされました。
プロデュースは名うてのリック・ルービン(Rick Rubin)です。
アコースティック・アルバムです。前作でもその傾向は若干ながら見えていましたが、ここまで本格的にアコースティックで通すとは。親父の歩んだ道を歩くかのようです。
続いて2010年にはソロ第2弾『Women & Country』をリリースします。
プロデュースは再びT-ボーン・バーネットです。ギターでマーク・リボー(Marc Ribot)が参加しています。バッキングヴォーカルではニーコ・ケース(Neko Case)も参加。
シンプルなサウンドに朴訥なヴォーカル。余計なものを削ぎ落し、すべてに達観したような雰囲気を感じさせてしまうアルバムです。デヴィッド・マンスフィールドのフィドルやグレッグ・ライツのスティールが入っているせいかカントリー・ロックの要素も入って、さらにマーク・リボーの影響かトム・ウェイツが出てきたり、ルーツ・ロック満載です。
この人はこれからどこへ向かっていくのでしょう。父親のボブ・ディランはアルバムを出すごとに人々を驚かせましたが、息子もそのようになっていくのでしょうか。
そして2012年にはウォールフラワーズの6枚目のアルバム『Glad All Over』がリリースされます。
ラミー・ジャフェーは戻ってきました。フレッド・リングハムは退団して、代わりにジャック・アイアンズ(Jack Irons,ds)とツアーメンバーだったスチュアート・マティス(Stuart Nathis,g,vo)が正式に加入します。
ギターとバッキングヴォーカルで元クラッシュのミック・ジョーンズ(Mick Jones)が2曲でゲスト参加しています。
ソロはソロ。バンドはバンド。ハードなウォールフラワーズに戻りました。
これを最後に今のところ新作は出ていません。これからどうなるのでしょうか。
ボブ・ディランの子と言っても今の人はピンと来ないでしょう。私などはどうしても親父と比べながら聴いてしまいます。そろそろ50歳です、オッサンになりましたね。早く新作を出してください。ソロでもバンドでもいいですから。
The Wallflowers - One Headlight
The Wallflowers - 6th Avenue Heartache
それでは今日はこの辺で 。