今日の「この人の、この1枚」はフィル・オクス(Phil Ochs)の『Pleasures of the Harbor』です。
フィル・オクスと言っても今ではピンと来る人も少なくなったかもしれません。1960年代前半、ピーター・ポール&マリーやジョーン・バエズ、トム・パクストン、そしてボブ・ディランなどなどがアメリカのベトナム戦争反対や公民権運動と共に流行ったカウンターカルチャーのなかのフォーク・リヴァイヴァル・ブームと共に登場し、一世を風靡しました。フィル・オクスもその中の一員でした。
フィル・オクスの作る歌は完全なプロテスト・ソングでボブ・ディランと並び称されていました。
ところが、60年代半ばごろにはボブ・ディランはフォークとロックの融合、フォーク・ロックへと舵を切り、一部の非難を尻目に衆目を集めました。
一方のフィル・オクスは相変わらずのプロテスト・フォークです。フィルは1966年までにエレクトラ・レコードから3枚のアルバムをリリースしていました。初期のフィル・オクスを知るうえで重要なアルバム群です。後にこの時期の数多くの未発表曲が発売されました。
しかし、フィルもディランに触発された影響もあったのでしょう。それまでの弾き語りフォークからの脱却を目指してA&Mレコードへ移籍しました。そして1967年に『Pleasures of the Harbor』をリリースしました。
Side A
1.Cross My Hear
2.Flower Lady
3.Outside of a Small Circle of Friend
4.I've Had Her
5.Miranda
Side B
1.The Party
2.Pleasures of the Harbor
3.The Crucifixion
パーソナルは
Phil Ochs – vocals, guitar
Lincoln Mayorga – piano
プロデュースはラリー・マークス(Larry Marks)です。
このアルバムはこれまでのフォーク・アルバムとは違い、クラシックやデキシーランド・ジャズ、ロックなどの要素を取り入れた画期的なアルバムになりました。ディランの向かったフォークロックとは違った方法論でした。
この当時としては1曲1曲の時間も長く、B面などは3曲でした。しかし、これらの曲の中には反社会的な歌詞が盛り込まれていたこともあって、賛否が分かれる結果となりました。
この後、フィルは1975年まで、エレクトラからアルバムを出し続けました。そして反戦活動、政治活動も相変わらず続けていました。
しかし、70年代には彼の精神状態は重大な局面を迎えていました。父親から受け継いだのかどうかはわかりませんが、もともと躁鬱病を持っており、そこにアルコール依存症がかさなり、精神状態は不安定でした。
そしてとうとう1976年に自殺し、亡くなりました。
フィルの死後は彼の楽曲のカバーをする人が続出、またトリビュート・アルバムや未発表曲、ベストアルバムが数多く出されました。それだけアメリカの音楽界に与えた影響は大きかったのでしょう。
この『Pleasures of the Harbor』というアルバムは、波乱万丈の人生の中の最高傑作ではないか、などと勝手に思っています。
Phil Ochs - Outside of a Small Circle of Friends
PHIL OCHS "The Crucifixion" 1967
それでは今日はこの辺で。