どうにも不運、不幸が付きまとうバンド、バッドフィンガー(Badfinger)です。
バッドフィンガーの前身、アイヴィーズ(The Iveys)は1961年の結成で当時のバンド名はパンサーズ (The Panthers)でした。1968年にバンド名をアイヴィーズに変更して活動中にビートルズのロードマネージャー、マル・エヴァンスに認められアップルレコードからシングル「Maybe Tomorrow」を発表します。さらに1969年にアルバム『Maybe Tomorrow』を発表しますが、日本、イタリア、西ドイツの3カ国のみの発売となりました。
これはアップルの新社長の意向でビートルズ以外の作品の発売を延期したためです。この当時のアップルの状況はビートルズのメンバー間のズレとそれに伴う経営状況の悪化が表面化していました。
1969年、アイヴィーズはバッドフィンガーとバンド名を変えて再出発を図りました。
この時のメンバーは
ピート・ハム(Pete Ham,vo,g,key)
トム・エヴァンス(Tom Evans,vo,g)
ロン・グリフィス(Ron Griffith,b,vo)
マイク・ギビンズ(Mike Gibbins,ds)
でした。
そしてリリースされたのが『Magic Christian Music』です。1970年です。
しかし、レコーディングの途中でロン・グリフィスが脱退し、代わりにジョーイ・モランド(Joey Molland,g)が加わり、ベースはトム・エヴァンスが担当することになりました。
このアルバムの中の「Come And Get It」がリンゴ・スターの映画『マジック・クリスチャン』の主題歌となって、ビートルズの弟分的なバンドとして再デビューしました。
そしてその勢いに乗ってサードアルバム(アイヴィーズから数えて)『No Dice』が制作されました。
Side A
1.I Can't Take It
2.I Don't Mind
4.Midnight Caller
5.No Matter What
6.Without You
Side B
1.Blodwyn
2.Better Days
3.It Had To Be
4.Watford John
5.Believe Me
6.We're For The Dark
なお、1992年のCD発売時にボーナストラックとして以下の5曲追加されています。
プロデュースはジェフ・エメリック(Jeff Emerick)とマル・エヴァンス(Mal Evans)です。
この中からシングル「No Matter What」は全米7位の大ヒットとなりました。またアルバムも全米28位と大健闘しました。ただこのアルバムも1970年の初頭から制作が開始されていましたが、やはりアップルのゴタゴタで発売が遅れ、イギリスではその年のチャートインを逃しています。
このアルバムはジョーイ・モランドの加入によってポップスからかなりロック寄りになっています。それでもビートルズのような、という印象はまだ残っています。この中にはハリー・ニルソンが歌って全米1位に輝いた「Whithout You」が収録されています。
そしてこの後、アメリカツアーに備えて、スタン・ポリーというマネージャーを雇います。このスタン・ポリーはアル・クーパーやルー・クリスティなどを担当している評判のいいマネージャーでした。ところがここから悲劇が始まります。スタン・ポリーは詐欺師のような男だったのです。
バッドフィンガーは1971年、4枚目の『Straight Up』をリリース。
このアルバムはジョージ・ハリソンとトッド・ラングレンがプロデュースして商業的にも成功を収めます。
そして5枚目のアルバム『Ass』のレコーディングに取り掛かります。しかしこのレコーディングが長引きます。その間にスタン・ポリーが勝手にワーナー・ブラザースと大金で契約してしまいます。ワーナーとは2枚のアルバムリリースを契約したため、バンドは1年間で3枚のアルバムを制作する羽目になってしまいました。ワーナーからのリリースは当然ながらアップルから妨害されました。ワーナーはバッドフィンガー側に対し訴訟を起こしました。スタンはバンドへの給料の支払いを止めました。バンドは無収入になりました。
ピート・ハムはこの状況に絶望し1975年首吊り自殺をしてしまいます。これによってバンドは一時期解散状態になります。
それから3年後、バッドフィンガーは再結成します。2枚のアルバムをリリースしますが、かつての人気は得られませんでした。今度はメンバーのトム・エヴァンスとジョーイ・モランドの間でトラブルが発生して、2人は袂を分かちます。そして「Without You」の利権をめぐって対立、訴訟に発展します。1983年、疲れ果てたトムは自宅の庭の木で首を吊って自殺します。これでバッドフィンガーは完全に消滅しました。
残ったジョーイ・モランドは『Joey Molland's Badfinger』として活動しているということです。
なんともやりきれない最期でした。『バングラディッシュのコンサート』でジョージ・ハリスンの後ろでギターを弾いていたピート・ハムの姿が懐かしく思い出されます。
Badfinger - Without You - Pete Ham
それでは今日はこの辺で。