Flying Skynyrdのブログ

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桐野夏生『死の谷を行く』を読む

ちょうど読んでいた本が読み終わったので、次の本を探そうと本棚を探っていたところ、桐野夏生死の谷を行く』という本が目につきました。しかも単行本です。私は収納の関係で小説はあまり単行本は買わないようにしているのですが、よほど気になって買ったのでしょう。それにしては不思議なことにいつ買ったのかも記憶がないのです。桐野夏生の小説は好きで、これまでも『OUT』や『グロテスク』、『ダーク』などたくさんの小説を読んできました。それが買ったきりほったらかしにしていたのも不思議です。

 

ということでさっそく読み始めました。読み始めてすぐにどうして購入したのか納得しました。『連合赤軍』の文字が見えたからです。私は『連合赤軍』に関する書籍はノンフィクションからフィクションまで欠かさず、さらには裁判資料まで読んでいたのでその関係で購入したのだと思います。あの桐野夏生が『連合赤軍』を書くとは、と思ったのでしょう。やはり女流作家の小池真理子も1970年前後の学生運動を題材にした小説を何冊か書いていますので、この年代の人にとっては忘れられない事件なのでしょう。

 

『死に谷を行く』はフィクションとノンフィクションを混ぜた、『小説』です。主人公の『西田啓子』は連合赤軍の中の『革命左派』の被指導部の活動家でした。この西田啓子は架空の人物です。さらに一緒に山岳ベースから逃走したという君塚佐紀子という人物も架空の人物です。その他、永田洋子森恒夫などすでに死んだ人物や殺された人物は実名です。そして山岳で起きたリンチ事件もほぼ事実です。

 

小説は「連合赤軍事件」後40年が経過した2011年の西田啓子の日常生活から始まります。2011年2月5日、永田洋子が獄中死したことから、それまではアパートで平凡な独居生活を送ってた、彼女の生活に変化が現れます。そして3月11日の東日本大震災。かつてともに活動した仲間からの電話によって元夫との再会、一緒に逃亡した友人との再会を通して彼女の心境にも微妙な変化をもたらします。

そして彼女に様々な情報を提供してくれる親切なルポライターとともに、かつて逃亡した迦葉山の山岳ベースの跡地を訪ねることになります。そこで意外な事実が発覚するのです。

 

途中までは西田啓子の日常生活と過去の回想、彼女の心理描写で進んでいきますが、最後の最後でミステリーの大どんでん返しになります。やはりミステリー作家の真骨頂がここで発揮されます。

が、私にはどうもしっくりこない小説でした。事件そのものは事実で、そこで行われていたこともほぼ事実なのに、そこに架空の人物が存在するということに違和感を感じてしまうのです。作者は何を書きたかったのか。山岳ベース事件の残酷さと、事件にかかわった人間のその後の心境をを描きたかったのか。それとも単にミステリー小説の舞台を連合赤軍事件にしたのか。それだったら架空の事件を設定した方がよかったような気がしてなりません。

 

連合赤軍事件の当事者である永田洋子坂口弘森恒夫、吉野雅邦、坂東国男、加藤倫教、植垣康博、大槻節子らの自叙伝や関連本を読んでしまうと、この類の小説がどうしても希薄に感じてしまいます。フィクションだという割り切りが出来ない、自分の脳ミソを恨みます。

夜の谷を行く (文春文庫)

夜の谷を行く (文春文庫)

 

 

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それでは今日はこの辺で。