Flying Skynyrdのブログ

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山田宗樹『百年法』を読む

久しぶりの「読書」記事です。

山田宗樹『百年法』を読み終えました。

この作家は嫌われ松子の一生で有名になりましたが、私もこの小説で彼を知って以来、何冊か読みました。『嫌われ松子・・・』も想像していた内容と違い、主人公の壮絶な人生を描いた大作でした。

その後も医学ミステリーなど幅広い分野の小説を書いています。

 

今回読み終えた『百年法』は言ってみればSFです。架空の日本国家の出来事です。

 

簡単なあらすじだけ。

1945年、日本がアメリカの原爆投下により敗戦。以後、アメリカの統治下に入ります。日本は共和制を敷き日本共和国となります。そして1948年、アメリカが開発したヒト不老化技術HAV1を導入し、不老不死の世界を手に入れます。ただし、不老化処置を受けるのは自由意志です。それでもほとんどの人間は処置を受けました。しかし、そこには不老処置を受けてから百年後には死ななければならないという生存制限法、通称『百年法』が同時に制定されました。そうしなければ誰も死なず、国民の新陳代謝が行われず、国全体が老化し、やがて国が滅びてしまうからです。

 

そして現在、2048年。その百年目を迎え、『百年法』を施行するか一時凍結するかで政府内はもめています。政府内にも期限を目前に控えた議員がいるからです。そしてその決断を国民投票で行うということになりました。処置を受けた時に了解していたはずなのに、死を目前にした国民は迷います。

結果、『百年法』は凍結されます。しかし、国家の滅亡を憂いた一部の官僚たちが『百年法』の施行に向けて動き出します。

 

ここから先が読み応え十分なのですが、ネタバレになりますので控えます。

最後はただひたすら、私利私欲を排除し、国家のために働く官僚や政治家、民間人に救われるのですが、その途中、政府内の対立・駆け引き、陰謀論、独裁政治、地下組織、クーデター、不治の病を引き起こすウイルスの発生など、今の日本にも通じる様々な諸問題が描かれ、読み応え十分な小説です。上下巻の大作であり、力作でした。

この小説では、国のリーダーになった者たちが、あくまでも冷徹な判断で国家滅亡の危機を救うのですが、私利私欲にまみれたどこかの国のリーダーに読ませてあげたいものです。

 

小説を読みながら、改めて感じたのは、年を取らないということはどういうことだろう、死なないということはどういうことだろう、などという素朴な疑問でした。

100歳を超えても20歳の容姿のままです。ですから歳の差恋愛など当たり前です。年齢が60歳違いでも結婚します。親子関係は疎遠になります。

小説の中で自殺者が増える村が登場するのですが、死ねないという恐怖に耐えきれず、自殺するのです。人類の願望である不老不死を手に入れたのに、実際には死ねないことに対する絶望というのもわかる気がします。逆に明日、安楽死を施される気持ちはいかばかりか。

やはり、寿命はわからない方が幸せなのでしょうか。

私の父親は二十数年前に亡くなりましたが、癌を罹患しました。その時、担当の医師から「告知しますか?」と聞かれました。当時は告知をするかどうか家族に訪ねる、というのが一般的でした。医師は「私だったら告知を受けます。なぜなら癌ならば死を準備出きるから」と言いました。医師らしいな、と思いましたが、私たちは悩んだ挙句、告知をしませんでした。高齢の父親が死の恐怖に耐えられるだろうか、と勝手に考えたからです。それから13年後、母親も癌に罹患しました。この時も告知はしませんでした。理由は同じでした。それが正しかったのかは今でもわかりません。しかし、人間は余命を告げられても一時的には混乱するかもしれませんが、落ち着けば死を受け入れられるのかもしれません。

現在は直接告知するのが当然のようになっています。もちろん私も罹患すれば告知を受けます。そして、余命宣告をされれば死の準備をすることでしょう。私の両親たちもそれを望んだのでしょうか。そうであるならば、もっと色々な準備が出来たのかもしれません。そして、子供たちにもっと何かを言い残すことが出来たのかもしれません。そんなことを思うと、あの時の判断が誤っていたのかもしれない、などと考えてしまいます。幸い両親とも穏やかな死を迎えることが出来たので、よかったのかな、などと自分に言い聞かせています。

そんなことをふと考えさせられる小説でした。

 

百年法 (上) (角川文庫)

百年法 (上) (角川文庫)

  • 作者:山田 宗樹
  • 発売日: 2015/03/25
  • メディア: 文庫
 
百年法 (下) (角川文庫)

百年法 (下) (角川文庫)

  • 作者:山田 宗樹
  • 発売日: 2015/03/25
  • メディア: 文庫
 

 

「読書」記事ももっともっと書きたいのですが、読了するそばから内容を忘れてしまうので書くに書けません。認知症一歩手前です。

 

それでは今日はこの辺で。