今日の「聴き比べ」は『堕天使ロック』です。
この曲はジャックスの解散後に発売されたアルバム『ジャックスの奇蹟』に収められた曲です。このアルバムはレコーディング中に解散してしまったため、それまでの音源を寄せ集めた様なアルバムになりました。このアルバムにはつのだひろが加わりました。
「堕天使ロック」という曲は「つげ春乱」の作詞・作曲となっていますが、この「つげ春乱」なる人物は早川先生のペンネームかと思われます。この曲の歌いだしの「見つめる前に飛んでみようじゃないか」というフレーズから、岡林先生のアルバム『見るまえに跳べ』のタイトルが出来上がったのだと思います。そしてこの『見るまえに跳べ』は大江健三郎の短編「見るまえに跳べ」から来てるものと思われます。当時の時代風潮をよく表しています。
堕天使ロック
作詞・作曲 つげ春乱
見つめる前に跳んでみようじゃないか
俺たちにできないこともできるさ
さあみんなでロカビリーを踊ろう
心は変わりやすいけれど
本当はなにもかわっちゃないのさ
まわりだけがぐるぐるまわるのさ
子供の頃は良かったじゃないか
裸でも生きていられたぜ
さあみんなでツイストを踊ろう
ないものねだりだけども
俺たちの地平線まで
さあみんなでゆこうぜ出発だ
ころがってゆけくずれてゆけ
堕ちるとこまで墜ちてゆけ
咲いた花がひとつになればよい
見つめる前に跳んでみようじゃないか
俺たちにできないこともできるさ
さあみんなでブルースを踊ろう
ジャックスは当時サイケデリック・ロックバンドなどといわれたこともありますが、この曲などもその面目躍如です。
この曲を岡林信康先生がアルバム『見るまえに跳べ』でカバーしました。プロデュースは早川先生です。バックは「はっぴいえんど」です。このアルバムは当時岡林先生と早川先生が琵琶湖畔に合宿して作り上げたというような話を何かで読んだ記憶があります。岡林先生が「愛する人へ」というラブソングを生み出すのに苦労した話などが載っていました。あれは何かの音楽雑誌だったとおもいます。
このアルバムでは「ラブ・ゼネレーション」とこの「堕天使ロック」の他に早川先生の「NHKに捧げる歌」、「ロールオーバー庫之助」、「無用ノ介」がカバーされています。
「NHKに捧げる歌」は早川先生のファーストソロアルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』に収録されています。50年も前にこの前の参院選で当選した新しい党「NHKから国民を守る党」が言っているようなことを歌っています。作詞は柏倉秀美です。ここでは当時岡林先生と同棲していた女優の吉田日出子さんとデュエットしています。
「ロールオーバー庫之助」は「ロールオーバー・ベートーベン」をもじって、当時売れっ子作詩・作曲家の浜口庫之助を揶揄するような歌です。ジャックス・バージョンはタイトルが「ロールオーバー・ゆらの助」で、歌詞も若干違っています。岡林バージョンでは直接「庫之助」とタイトルを変えています。『ジャックスの奇蹟』に収録されています。
「無用ノ介」も『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』に収録された、さいとうたかおの「少年マガジン」に連載された劇画を歌った歌です。テレビドラマにもなりました。この曲も作詞は柏倉秀美です。
岡林先生の『見るまえに跳べ』は日本の70年代のフォークロックの最高傑作ではないかと個人的に思っております。
また、ジャックスの日本のロック界に果たした役割はとてつもなく大きなものがありました。
そして、以前にも書きましたが、早川先生のソロアルバムには内省的な詩の世界と静けさと激しさの入り混じった歌声がぎっしり詰まっており、それまでのフォークやロックとは一線を画した貴重な存在だと思っています。
それでは今日はこの辺で。