今日の「聴き比べ」は『山谷ブルース』です。
岡林信康大先生の永遠の名曲です。彼は牧師の息子で熱心なキリスト教徒でした。そのため、同志社大学神学部に進学するも教会の教えと現実とのギャップを感じ、東京の夜間神学校の校長先生に会いに上京。しかし、たまたま不在で会えず、今度は山谷に住む牧師に会いに山谷に行ったら、ここで働いてみろと言われ働き出しました。そして新たな社会の現実を目の当たりにしたのです。この時の労務者としての体験が彼に社会の矛盾に目覚めさせました。
そして高石友也先生との出会いによって音楽の道へと繋がります。この山谷での経験をもとに作られた歌が「山谷ブルース」や「流れ者」として結実しました。
1968年にシングル「ほんじゃまおじゃまします」のB面として「山谷ブルース」は発売されました。「ほんじゃまおじゃまします」というのは「くそくらえ節」のことで、「くそくらえ」はまずいだろうということでタイトルを変更しました。しかし、それでも歌詞が過激過ぎて発売中止になってしまいました。それではと今度は「山谷ブルース」をA面として発売しました。B面は「友よ」でした。プロテスト・ソングの代表曲となりました。
アルバムは『私を断罪せよ』に収録されました。
山谷ブルース
作詞・作曲:岡林信康
今日の仕事はつらかった
あとは焼酎をあおるだけ
どうせどうせ山谷のドヤ住い
ほかにやることありゃしねえ
一人酒場で飲む酒に
帰らぬ昔がなつかしい
泣いて泣いてみたってなんになる
いまじゃ山谷がふるさとよ
工事終ればそれっきり
おはらい箱の俺たちさ
いいさいいさ山谷の立ちん坊
世間うらんでなんになる
人は山谷を悪くいう
だけど俺たちいなくなりゃ
ビルもビルも道路もできゃしねえ
だれもわかっちゃくれねえか
だけど俺たちゃ泣かないぜ
働く俺たちの世の中が
きっときっとくるさそのうちに
その日にゃ泣こうぜうれし泣き
この曲を、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド(DTBWB)が1974年のファーストアルバム『脱・どん底』でカバーしました。DTBWBはご存じの通り、宇崎竜童が結成したバンドです。1974年の「スモーキン・ブギ」がヒットすると、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」で不動の人気を獲得しました。その一方、宇崎竜童は妻の阿木燿子とのコンビで山口百恵など多くのヒット曲を生み出しました。
DTBWBの「山谷ブルース」はロックです。全く違う曲に生まれ変わりました。これはまたこれでいいのではないでしょうか。この後、宇崎竜童は岡林先生との親交を深めました。
労務者シリーズ、もう1つの名曲「流れ者」も紹介しましょう。と思ったのですがオリジナルの音源がありませんでした。ライブは数々出ていますが、私はやはりオリジナルが好きです。まだ若々しい歌声が好きでした。「山谷ブルース」に負けず劣らず大好きな曲です。
流れ者
作詩・作曲:岡林信康
流れ流れてどこまでも 明日は知れないこの俺さ
工事終わったその日から 俺もいないさ この町に
流れ者でも触れ合う心 すれた俺にも恋はある
どうせ出て行くこの町なのに 惚れた俺がヤボなのさ
たまらないほど切なくて 泣いてこの身を悔やんでも
暗い飯場の片隅で 一人飲み干す茶碗酒
せんべい布団にくるまって 俺が見る夢何の夢
どこか似ている この町が 思い出させる故郷を
それでは今日はこの辺で。